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【第4回】開業地の選定

開業スケジュールまでは、ある程度机に向かって進めることも出来ますが、開業地選びは、先生ご自身が時間を作って、足を運ぶ必要があります。いざ開業候補地(物件)を前にすると、近い将来の開業医として働く姿が彷彿として、大きな希望と少しの不安をも味わわれるかもしれません。信頼できる専門家の支援、経験者の助言も参考に熟慮され、「ここで開業する」という確信を掴みましょう。

成功のための開業地選び

開業地選びは後悔しないよう慎重に

これまで一度でも開業を検討された先生ならば、「クリニックをどこに構えるか」という課題がいかに頭を悩ませる難問であるかはご存知でしょう。開業地選択は「開業準備期間中のヤマ場」と言えるほど重要な一大事。なにしろ気に入らなかったからといって、開業した後で気軽に引っ越しするというわけにはいきません。さらに、立地の良否が開業直後の経営状況を左右することも大いにあり得ます。開業後に後悔しないためにも、充分かつ冷静に候補を吟味しましょう。

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とはいえインターネットで開業物件を扱っているサイトを覗いてみると、不動産情報が溢れるほどに掲載されています。闇雲にあれもこれもと目移りしながら探していては、とても効率的とは言えません。そこで今回は開業地選びをスムーズに進めるポイントを紹介していきます。

物件情報を吟味する前に開業エリアを絞る

開業自体が初めての場合は、どうしても売価や賃料、建物面積などの具体的条件が記載された物件情報にばかり目を奪われてしまうもの。外観や内観の写真など見てしまうと、実際にそこで働くイメージが湧いてくるので無理もありませんが、ひとまず個別の物件情報は脇において先に開業エリアの検討を行いましょう。

「○○区内」や「○○市内」、または「鉄道○○線沿線」「国道○○号沿線」などの単位で立地を検討し、エリアをいくつかに絞り込んでから個別の物件選定に入るのが効率よく理想的です。「特定のエリアにこだわらず広く探した方が良い物件に巡り会えるのでは?」という疑問はあるでしょうが、物件がいくら良くても立地が悪ければクリニック経営は立ち行きません。先生方が“顧客”として相手にするのは、健康に不安のある患者さん達なのです。立地が良く通いやすいことは、リピーター獲得への近道。クリニック経営成功の秘訣と心得ましょう。

物件情報を吟味する前に開業エリアを絞るのイメージ

エリア選定は“リアルな情報”を大切に

生まれ育った地元の街や、先輩開業医から奨められた街、「開業するなら」と昔から憧れていた街など、ご自身の知識と経験からいくつかの候補地が浮かんできたら、第1希望・第2希望…と序列をつけて上位エリアの情報を集中的に収集してみましょう。駅はもちろん、ショッピングセンターやスーパーマーケット、公共施設など人が集まるスポットがないか地図上で確認したり、人の流れを妨げるようなビル・川・坂などの位置関係を把握したりすることが重要です。また当然のことですが、調剤薬局や競合となりそうなクリニックもしっかりとチェックしておきましょう。

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その際、意識しておかなければならない点があります。インターネットは情報収集にたいへん便利なツールではありますが、その手軽さに慣れきってリアルな情報を疎かにしてしまわないように、ということです。地元の不動産業者や住民の生の声など、“地に足の着いた情報”は、誰でも入手できるWEB上の情報より遥かに貴重です。同様に、街を歩いたときに感じる活気やムード、行き交う人々の性別や年齢層、雰囲気など、実際に足を運んで得られる情報もたくさんあります。この時期は休日返上するぐらいの気持ちで、先生自ら積極的に動くようにしてください。そうすることで良い開業地への“眼力”や“嗅覚”というものが、自然と備わってくることでしょう。

開業エリアが絞れたら物件の選定に

開業エリアの情報収集をしているうち、自ずと気持ちが強く惹かれるエリアが出てくるはずです。これが2箇所程度までに絞られたら、いよいよ個別の物件情報に目を向ける番。ご自身で実際に歩いた街並を思いだしながら、医療用の物件案内サイトや、不動産業者からの資料をじっくり見ていきます。

診療にふさわしい広さか、分かりやすい場所に建っているか、駐車場はあるか、なければ近隣で借りることができるか、水周り・空調などの配管取り回しに問題はないか、大型検査機器に対応する電源が引かれているか、機器搬入経路は確保できるか、そしてもちろん適正な売価・賃料であるかなど、各種の条件を心ゆくまで吟味してください。

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「診療圏調査」で来院見込み患者数を分析

様々な条件を勘案して「これだ!」という物件が見つかったら、「診療圏調査」を実行します。診療圏調査とは、そこで開業した場合、どの程度の患者数が見込めるかを分析するためのもの。診療圏調査のデータは市役所などで公開されている国勢調査や患者調査などの統計調査が元になっているため、先生自ら行うことも可能です。ただ、少々専門的であり時間もそれなりにかかるため、不動産業者や開業コンサルタントに依頼しても良いでしょう。

「診療圏調査」で来院見込み患者数を分析のイメージ
診療圏調査の一般的なプロセス概要
  1. 予定地を中心に来院患者が見込める診療圏を設定
  2. 人口データをもとに圏内の人口を推計
  3. 疾患別の受療率から圏内の総患者数を算出
  4. 競合クリニックと自院の競争率バランスから、来院見込み患者数を推測

開業コンサルタントとの意思疎通は重要

もちろん「勤務医としての業務が多忙で、自分一人での物件探索には限界がある」という先生もいらっしゃることでしょう。その場合、開業コンサルタントに物件のピックアップを依頼すれば、効率良く情報を入手することも可能です。自分以外の客観的な視点が入ることで見落としや見誤りに気づくこともありますし、彼らコンサルタントのネットワークでしか得られない情報も獲得できるかもしれません。もし身近に信頼できるコンサルタントが見つからないようでしたら、すでに開業された先生に、おすすめの人物や事務所を紹介してもらうのが良いでしょう。

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ただしコンサルタントに仕事を依頼するときは、お互いのコミュニケーションが上手く取れているかに注意してください。事前に打ち合わせを充分に行い、物件に対する価値基準のズレをすり合わせていないと、時間とコストをいたずらに浪費することになってしまいます。
診療圏調査での結果が出たならば、あとはジャッジを下すばかり。その物件に決定するのか、次の候補地で再度診療圏調査をするのか。いずれにせよ決めるのは、コンサルタントではなく先生ご自身です。この日のために養ってきた「開業の眼力・嗅覚」を総動員してご英断ください。

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