開業ノウハウ

診療圏調査から始めるクリニック開業
──事例でわかる失敗しない立地戦略

診療圏調査から始めるクリニック開業 ──事例でわかる失敗しない立地戦略

「思ったほど患者数が増えない…」

これは、開業して間もない先生方からよく聞かれる悩みです。そしてその多くが、「開業前の診療圏調査が甘かった」と振り返ります。これから開業を検討されている先生にとっても、決して他人事ではありません。

診療圏調査は、クリニック経営の土台ともいえるものです。

「なんとなく便利そうだから」「競合が少なそうだから」といった曖昧な判断で開業地を決めてしまうと、後になって地域の特性や患者層とのミスマッチに気づき、修正がきかなくなることもあります。

本記事では、診療圏調査の基本的な考え方から具体的な分析手法、よくある失敗例とその教訓、DtoDによる支援内容まで、これから開業を目指す先生方に向けて丁寧に解説します。

「しっかりと診療圏を見極めて開業に臨みたい」という先生にとって、ぜひ押さえておいていただきたい内容です。

診療圏調査とは?開業に欠かせない理由

診療圏調査とは?開業に欠かせない理由

診療圏調査の目的と意義

診療圏調査とは、特定の地域でクリニックを開業した場合に、一体どれくらいの患者が来院する見込みがあるのか、その「推定患者数」を把握するための市場調査です。

ここで得られるのは、単なる人口データだけではありません。地域の医療ニーズや競合の数・診療内容、周辺住民の年齢構成や生活動線など、多角的な情報をもとに、その場所で診療を始めた場合にどのような経営環境が待っているかを予測するための手がかりとなります。

開業地の選定は、一度決めてしまえば簡単に変えることはできません。多くの時間と資金を投じたあとで、「場所選びに失敗した」と気づいても、取り返すのは容易ではないため、慎重な判断が求められます。

診療圏調査は、地域の実情を客観的に把握し、その地域で、安定した診療体制を継続できるかどうかを見極めるための重要な判断材料です。

診療圏の階層構造とターゲット設定

開業予定地の診療圏を考える際、「半径〇kmの円を描く」だけでは、実態に即した分析とはいえません。大切なのは、患者がどのように来院するのか、どの範囲から通ってくるのかといった行動特性を踏まえ、診療圏を距離や交通手段ごとに段階的に整理する視点です。

実務では、以下のような層構造で診療圏を捉えるのが一般的です。

一次診療圏:日常的な来院が見込まれる範囲

500m〜1km圏内を目安としたエリアで、徒歩や自転車でのアクセスが主となります。日常的・反復的な受診が多く、いわば「かかりつけ医」としての役割を担う領域です。地域との結びつきが強く、人口構成や生活導線の把握が特に重要になります。

二次診療圏:広域からのアクセスも想定した範囲

おおよそ1〜5km圏を対象に、車や公共交通機関を使って来院する患者層が含まれます。この層では、診療科の専門性や競合状況、認知のされ方によって集患のしやすさが大きく変わります。
なお、専門診療や自費診療など、選択性の高い医療サービスを提供する場合は、さらに広域からの集患も見込まれることがあります。このようなケースでは、二次診療圏と一体で「広域圏」として分析するのが実務的です。

このように、診療圏を階層的に捉えることで、診療科や提供する医療の特性に応じた現実的なターゲットエリアの見極めが可能になります。開業地を検討する際には、地図上の単なる距離だけでなく、「誰が・どうやって来院するのか」という視点で、層ごとの患者動線を把握することが求められます。

診療圏調査で得られる4つの視点

具体的に、診療圏調査ではどのような情報が得られるのでしょうか。主な調査項目は以下の通りです。

1. エリアの人口構成(夜間人口・昼間人口、年齢層、男女比)

  • 夜間人口と昼間人口:住宅街での開業であれば夜間人口(居住者数)が重要ですが、オフィス街では昼間人口(就業者数)が患者数に直結します。
  • 年齢層・男女比:高齢者が多ければ慢性疾患に対応する内科や整形外科の需要が高く、子育て世代が多ければ小児科や皮膚科の需要が見込めるなど、ターゲットとする診療科によって着目すべき人口構成は異なります。
  • これらのデータは、総務省統計局が公表する国勢調査や住民基本台帳など、公的な統計情報を基に分析されます。

→ 想定する患者層に合った診療方針やサービス内容の検討に役立ちます。

2. 競合医療機関の状況

  • 診療圏内に存在する同一診療科のクリニック数、その規模(医師数、病床数等)、開業からの年数、評判、患者来院状況などを調査します。
  • 競合が多いからといって必ずしも不利とは限りません。例えば、専門性の高い医療を提供するクリニックであれば、既存の競合とは異なるニーズを捉えることが可能となる場合もあります。

→ 競合との差別化や、独自の診療方針を検討するうえでの重要な材料となります。

3. 推定患者数

  • 上記で得られた人口データと競合状況、そして「受療率」(人口10万人あたり、どれくらいの人が医療機関を受診するかを示す数値)を基に、日ごとの推定患者数を算出します。
  • 受療率は、厚生労働省が公表する「患者調査」などの統計データから得られます。
  • 基本的な算出式は
    エリア人口 × 受療率 ÷ (診療科目別競合医院数 + 1(自院分))
    • この式はあくまで「目安」であり、実際には、診療科別の受療率や地域特性、年齢構成の偏り、競合のシェアなども加味して、より精緻なシミュレーションが行われます。

4. 生活動線と分断要因

  • 地図上で円を描くだけでは、診療圏は見えてきません。実際には、人々が「どこから」「どうやって」来院するのかといった、「生活動線」を把握することが重要です。
  • 駅、スーパーマーケット、商業施設など、人々が日常的に利用する場所は患者さんの流れを創出します。
  • 一方で、河川、主要幹線道路、線路、踏切、高低差のある地形などは、たとえ距離が近くても患者さんの来院を妨げる「分断要因」となることがあります。これらの要因を考慮しない場合、机上の計算と現実の患者数との間に大きな乖離が生じる可能性があります。

→ 実際にアクセスしやすい立地かを判断するために重要な視点です。

診療圏調査の具体的な進め方

診療圏調査の具体的な進め方

診療圏調査は大きく「定量調査」と「定性調査」の2つに分かれます。それぞれの特徴を理解し、適切に活用することが精度の高い調査には欠かせません。

定量調査:統計データに基づく客観的分析

定量調査は、統計データをもとに、地域の人口や競合状況を数値で把握・比較する調査です。

  • データ収集:国勢調査、住民基本台帳、患者調査といった公的統計データに加え、医療機関データベースなどから、人口構成、世帯数、競合クリニックの数と診療科、患者の受療率といった数値を収集します。
  • 医療ニーズの算出:これらの数値を基に、前述の計算式を用いて推定患者数をはじめとする地域の医療ニーズを数値で捉えます。

定量調査の結果は、グラフや表にまとめられ、複数の候補地を比較・検討するための根拠として活用します。

定性調査:現地に足を運んで得られる情報

定性調査は、現地視察やヒアリングを通じて、数値には表れにくい地域特性や患者動線を把握する調査手法です。

  • 現地視察:候補地の周辺を実際に歩き、以下の点を詳細にチェックします。
    • 人通りの多寡、時間帯による変化
    • 周辺の雰囲気(住宅街、オフィス街、商業地域など)
    • 交通量、駅やバス停からのアクセス、駐車場の有無や広さ
    • 競合クリニックの視認性、外観、患者来院状況
    • 周辺の商業施設や生活利便施設の状況(スーパー、コンビニ、学校など)
    • 河川、幹線道路、線路など、分断要因となる地形や施設がないか
  • ヒアリング:不動産会社、地域住民、近隣の商店主などから、地域の特性や医療ニーズ、競合クリニックの評判などの情報を得ることも有効です。また、口コミサイトなどオンライン上の声も、地域の評価を把握する手がかりとして活用されることがあります。

定性調査は、定量調査だけでは把握しきれない、地域のリアルな「空気感」や「生活動線」を理解するために不可欠です。数値だけでは読み取れない患者さんの行動パターンや地域の細かな特徴を把握することで、診療圏の分析に、より深みと確度を加えることができます。なお、定性調査は調査の初期段階で必ずしも実施されるものではなく、定量調査の結果を踏まえて必要に応じて行われることもあります。

診療圏調査で分かれた明暗
──成功と失敗の事例から学ぶ

診療圏調査で分かれた明暗──成功と失敗の事例から学ぶ

診療圏調査は、調査を行うこと自体が目的ではありません。その結果をどう読み取り、どう活かすかによって、開業後の成果は大きく変わってきます。以下に紹介するのは、弊社が支援した事例や全国の開業支援データをもとに再構成した、診療圏調査における典型的な成功・失敗のパターンです。こうした事例を通じて、調査結果をどう活かすかの重要なポイントを考察します。

失敗事例:安易な立地選定で集患に苦しむAクリニック

A先生は、「駅前=人通りが多い=集患しやすいはず」と考え、診療圏調査を簡易的に済ませたうえで、ある駅の北側に開業地を決定しました。

実際、その駅は利用者が多く、駅前に人通りもあり、A先生も現地を一見して「集患に有利な好立地」と思いました。

しかし、開業後に患者数が思うように伸びないという事態に直面しました。後から詳細な診療圏調査を実施したところ、以下のような問題点が浮き彫りになりました。

  • 生活動線の見誤り:Aクリニックは駅の北側に立地していましたが、実は地域住民の生活動線は駅の南側に集中していました。南側には大規模な商業施設や住宅地が広がっており、通勤や買い物の際に多くの人がそちらを経由していたため、北側にあるAクリニックの前を通る人は限られていたのです。
  • 競合クリニックの過小評価:同一診療科のクリニックが複数存在することは認識していましたが、A先生は単純な競合数のみを見て「この程度なら競合可能だろう」と安易に考えていました。しかし、既存のクリニックは長年の実績と地域住民からの厚い信頼があり、さらに駐車場が広大で患者にとっての利便性が非常に高いことが判明しました。Aクリニックの駐車場は狭く、駅から近いにもかかわらず、自家用車で来院したい患者にとっては不便でした。
  • 分断要因の軽視:クリニックの近くには大規模な幹線道路が走っていましたが、横断歩道や歩道橋が少なく、特に高齢者にとってはクリニックへのアクセスを著しく困難にする「分断要因」となっていました。

結果として、Aクリニックは「立地選びに失敗し、患者が集まらない」という状況に陥り、集患に多額の予算を投じても効果は限定的で、経営不振が長期化する結果となりました。
診療圏調査を簡略化し、「駅前だから大丈夫だろう」という主観的な判断に頼ったことが、大きな誤算につながったのです。この事例は、「人通りが多い=好立地」と安易に判断せず、生活動線や分断要因、競合の実態を深く分析することの重要性を示唆しています。

成功事例:地域のニーズを的確に捉えたBクリニック

ある地方都市のベッドタウンで開業を検討していたB先生は、診療圏調査を通じて周辺地域の状況を詳細に分析しました。調査結果からは、地域の高齢化が急速に進行している一方で、既存のクリニックは一般内科が中心で、生活習慣病や循環器疾患への継続的な対応が十分でないことが明らかになりました。

B先生は、この情報を「高齢者が多い」という単純な人口構成にとどめず、以下のような具体的な分析を重ねました:

  • 年齢層別人口分布を細かく確認し、75歳以上の割合が市平均よりも高いエリアであることを把握
  • 競合クリニックの診療内容や対応範囲を調査し、「在宅医療」や「慢性疾患の管理」に弱点があることを認識
  • 生活動線や商業施設の位置を確認し、地域住民が日常的に利用する動線上に物件を選定

これらの分析を踏まえ、B先生は「在宅医療との連携も視野に入れた、地域密着型の循環器内科クリニック」という明確なコンセプトを打ち出しました。

開業後は、訪問診療の導入や、近隣の介護施設・ケアマネジャーとの連携体制を整えることで、患者の通院負担を軽減。さらに、地域のスーパー前での定期健康相談会や、かかりつけ医としての継続的フォロー体制を打ち出すことで、地域住民との接点を広げました。

その結果、Bクリニックは開業から比較的短期間で地域に浸透し、リピーター患者や紹介による新規患者が安定的に増加。診療圏調査で得られた「医療ニーズのギャップ」に着目し、それに応える形で明確な差別化戦略を取ったことが、成功の決め手となったのです。

診療圏調査が「失敗しない開業」の分かれ道になる

成功・失敗の事例から明らかなように、診療圏調査は単なる情報収集ではなく、「どこで」「誰に」「何を」提供するかという診療戦略を立てるための土台です。地域の医療ニーズや競合状況を把握することで、開業地選定や診療方針に確かな裏付けを与えてくれます。

また、調査で算出される推定患者数や周辺データは、融資審査や事業計画書の作成時に、資金調達の根拠としても活用可能です。数値的な裏付けを持つことで、金融機関からの信頼性を高め、開業資金の確保を有利に進めることにもつながります。

DtoDコンシェルジュの診療圏調査サービスで失敗リスクを最小限に

DtoDコンシェルジュの診療圏調査サービスで失敗リスクを最小限に

診療圏調査は、クリニック開業における重要な意思決定の根拠となるプロセスであることがおわかりいただけたかと思います。しかし、個人でデータの収集・分析、調査を実施するのは非常に大きな負担です。

そこで、DtoDコンシェルジュでは、こうした開業前の不安を軽減し、より良い意思決定を支える診療圏調査サービスを提供しています。

DtoDコンシェルジュの診療圏調査が選ばれる理由

診療圏調査は依頼した会社などにより、調査精度や活用度に大きな差が出るのが実情です。

DtoDコンシェルジュでは、4,600件を超える開業支援実績と豊富な知見を活用し、現場視点に立った実践的な診療圏調査をご提供しております。人口動態や競合分析など、専門的で時間のかかる調査・分析を弊社が全面的に支援することで、煩雑な作業に手間を取られることなく、判断の根拠となる質の高い情報を得られる点が、多くの医師から評価されています。

また、DtoDコンシェルジュでは、まず診療圏の概要を把握したい方向けに、WEBで手軽に申し込める「簡易WEB診療圏調査」をご用意しています。開業判断の第一歩としてご活用ください。

簡易WEB診療圏調査のご利用の流れ

DtoDコンシェルジュの簡易WEB診療圏調査は、以下の3ステップで簡単にご利用いただけます。

1. お申込み
専用のWEBフォームから申込み
2. 調査結果資料の作成
DtoDコンシェルジュの開業支援コンサルタントが4,600件を超える開業支援実績から得た豊富な経験とノウハウを用いて分析を実施し、資料を作成します
3. 調査結果のご提示
メールなどを通じて、レポートを迅速にご提供します

なお、診療圏調査は開業スケジュール全体の中でも、できるだけ早い段階で着手しておくことが重要です。目安としては、開業希望時期の9~12か月以上前にご依頼いただくと、物件選定や事業計画の策定など、その後のステップを余裕を持って進めることができます。

まとめ:開業地選定の鍵を握る「診療圏調査」

クリニックの開業において、「どこで診療を始めるか」は、その後の経営を大きく左右する重要な判断です。
その判断を支える手段として、診療圏調査は大きな役割を担います。

データで読み解く地域の医療ニーズ
診療圏調査では、人口構成や競合状況、生活動線、分断要因などを多角的に分析し、「この地域で本当に患者が集まるのか」といった感覚的な疑問に、客観的なデータで応えます。
明確な診療コンセプトの構築につながる
地域ニーズを把握することで、「誰に・どんな医療を届けるのか」が明確になり、診療コンセプトの精度が高まります。
事業計画の信頼性向上とリスク回避に
診療圏調査に基づく来院予測や競合分析は、事業計画の精度を高め、金融機関との信頼構築にもつながります。

診療圏調査は、単なる「地図やデータを見る作業」ではなく、「この場所で選ばれるクリニックになる」ための、大切な準備です。

まずはDtoDコンシェルジュの簡易WEB診療圏調査で“今”の判断材料を見直してみませんか?

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