内科の医院開業動向情報
内科クリニックを開業する際の戦略のポイント!動向や必要な資金は?

「内科医が収入を上げるためには、開業したほうがいい?」
「内科医としての専門性を生かして地域に求められる診療をしたい」
内科を選ぶ医師にとって、開業という選択肢は常に頭の中にあるのではないでしょうか。
内科は全身のさまざまな症状を扱うことから患者さんが最初に受診する科となりやすいため、開業医というスタイルに親和性が高い診療科の一つです。地域で頼られる「かかりつけ医」になるためには、内科の幅広い知識と経営戦略が必要です。
そこでこの記事では、内科クリニックの開業についてまとめました。
ご自身でクリニックを経営したい内科医の方は、ぜひ参考にしてください。
内科をとりまく動向
厚生労働省の「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、内科を主たる診療科にしている医師は61,149人で、医療施設に従事する医師全体(327,444人)の18.7%を占めています。また診療所(クリニック)に従事する内科医は38,907人で、診療所に従事する医師全体の36.2%を占め、こちらも最も多い割合となっています。
厚生労働省「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査」によると、内科を標榜する診療所は全国に64,747施設あり、これは施設全体の61.7%を占める割合となります。
つまり、内科を主とする診療所は統計的に多く存在し、比較的他院との競争が激しい科と言えるでしょう。
内科を標榜する場合、内科のみか、循環器内科、呼吸器内科、神経内科といった内科+専門領域とするかによって、開業戦略が変わってきます。
内科クリニック開業の資金調達から収入・資金繰りまでのロードマップ
クリニック開業を考えるにあたり、まず問題となるのが資金面です。開業資金は、「設備資金」と「創業資金」にわけられます。
「設備資金」はテナント契約費や医療機器・設備購入費などです。設計・内装工事費その他を合わせ約5,000万円から約1億5,000万円が必要で、テナント契約費は賃料の約3カ月分から12カ月分が見込まれます。また、「創業資金」は開業前の人件費や賃料、広告費、医薬品などの購入費用です。
開業資金
開業資金の一例として、下記の項目が挙げられます。
内科クリニック開業に必要な開業資金
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| 項目(内科:テナント開業の場合) | 所要資金 |
|---|---|
| テナント契約費(保証金・敷金など) | 賃料の3カ月分~12カ月分 |
| 設計・内装工事費 | 2,000万円~5,000万円 |
| 医療機器・電子カルテ購入費 | 1,000万円~5,000万円 |
| 什器・備品購入費(待合設備、診察机など) | 100万円~300万円 |
| IT設備(PC、院内ネットワーク構築、オンライン予約、資格確認システムなど) | 50万円~250万円 |
| その他開業時諸費用(医師会加入、保険加入、広告・広報、医薬品購入など) | 150万円~800万円 |
| 開業前運転資金(賃料、人件費、手元資金など) | 1,700万円~4,000万円 |
立地に関わる資金については、金額以外にも考慮するポイントがあります。
一般内科のみで開業する場合、開業する地域によって戦略が大きく異なります。大都市部では、在宅医療や内科専門領域の診療をおこなうクリニックが多く存在するため、患者さんが来るのを待つ一般内科外来のみの診療所が勝ち残るのは難易度が高いかもしれません。
そのため、一般内科外来のみの場合は郊外で開業することも選択肢に入れるとよいでしょう。大都市圏の郊外には、かなりの人口が密集している地域や、開発が進み新しい人口が流入している地域があります。将来的に人口を一定数保つことができる地域を選択することで、集患しやすくなるでしょう。
一般内科+内科専門領域で開業する場合、高齢者を中心に診るのであれば、住宅街や駅の近くなどわかりやすい立地が適しています。
患者さんが長時間歩いてきたり、階段を昇ってきたりするような立地ではなく、診療所の近くに駐車場がある、2階以上であればエレベーターが設置されているなど、高齢者の方でも利用しやすい設備を用意することが望ましいでしょう。
また自院で導入する設備を絞る場合は、近隣の医療機関と連携するという手もあります。提携できる薬局や病院、競合する医療機関を確認してから立地を決めましょう。
開業後の運転資金
次に、開業後の運転資金としては、下記の項目が挙げられます。
内科クリニック開業後の運転資金
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| 項目(内科:テナント開業の場合) | 概算費用(月額) |
|---|---|
| 人件費 | 収入の20~25% |
| 医業原価(医薬品、消耗品など) | 収入の5~20% |
| 家賃・駐車場など | 立地、面積、設備等により異なる |
| 水道光熱費 | 10万円~30万円 |
| リース料 | 5万円~50万円(リース物件による) |
| その他諸経費(広告費、通信費、保険料、医師会費、租税公課など) | 20万円~65万円 |
開業前に資金計画を立て、無理のない経営を目指しましょう。
従業員を必要以上に雇ってしまうと人件費が経営を圧迫してしまいます。開業時は最低限の従業員だけを雇用して、患者さんが増えてきたら従業員の数を増やすようにしましょう。
内科クリニックの収入源や資金繰りについては、次の章で詳しく解説します。
内科クリニックの収入源と資金繰り
全国の「令和7年度 保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表」を平均すると、「内科(人工透析以外(在宅))」がレセプト(診療報酬明細書)1件当たり1,435点、「内科(人工透析以外(その他))」が1,119点で、316点の差があります。
なかでも関東各県の点数を平均した診療科別平均診療点数は、「内科(人工透析以外(在宅))」がレセプト(診療報酬明細書)1件当たり1,675点、「内科(人工透析以外(その他))」が1,149点で、526点の差がありました。
関西は「内科(人工透析以外(在宅))」がレセプト(診療報酬明細書)1件当たり1,328点、「内科(人工透析以外(その他))」が1,091点で237点の差、九州は「内科(人工透析以外(在宅))」がレセプト(診療報酬明細書)1件当たり1,424点、「内科(人工透析以外(その他))」が1,120点で304点の差ですから、関東は他地域と比べても、1件当たりの点数の差が大きいことが分かります。
在宅診療をおこなう場合は、「訪問診療料」の点数が算定されるため、来院での診療よりも点数が高くなります。
全国の診療科別平均診療点数を比べると、地域によって在宅診療の有無による点数差が大きく異なります。500点以上差があるのは宮城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、沖縄県で、最も大きいのは千葉県の919点です。差が100点台と小さいのは秋田県、山形県、長野県、奈良県、島根県、岡山県、広島県、香川県、長崎県、大分県の10県で、最も小さいのが島根県の125点です。
また内科だけに限った話ではありませんが、クリニックでは基本的に看護師と医療事務を採用しています。
以下の点を考えて採用人数や各職種の採用比率を検討しましょう。
- 診療スタイルに合うよう、看護師や事務スタッフの採用人数を決める
- コスト削減のため、看護師のパート採用を検討する
- 正社員とパート社員の比率を考える
- 医療事務も会計業務もできる事務スタッフを採用する
内科専門領域によって採用するスタッフの職種や人数も変わってきます。一例として、次のような点を押さえておくといいでしょう。
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| 科目 | 概要 |
|---|---|
| 呼吸器内科 | 看護師や受付に加えて、レントゲンやCT撮影をする診療放射線技師を採用するクリニックもある。呼吸リハビリを実施する場合は、理学療法士・作業療法士の採用も必要。 |
| 糖尿病内科 | 栄養指導をおこなうために管理栄養士を採用しているクリニックもある。 |
| 脳神経内科 | 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士を採用し、リハビリをおこなうことで患者さんの満足度を向上させる「通所リハビリ(介護保険適用)」関連の点数も取得できるため、サービスメニューが増え、更なる売上向上も期待できる。 |
個人開業と法人開業における収益
「医療経済実態調査(令和5年実施)」によると、内科の個人開業診療所の医業収益は8,890万円、介護収益は23万円、医業・介護費用は5,970万円で、損益差額は2,942万円です。一方、法人開業診療所の医業収益は16,468万円、介護収益は723万円、医業・介護費用は15,261万円で、損益差額は1,930万円です。
個人開業に比べ法人開業の方が医業収益は高い一方、医療・介護費用も高くなっています。事業規模は一般的に法人開業の方が大きいため、収益は高くなる傾向があります。また、院長給与に相当する役員報酬が費用として計上されるため、個人開業より費用が大きくなる傾向もあります。加えて、事業規模拡大に伴い各経費も増加する事が多く、結果的に法人開業は個人開業に比べて医業収益も医療・介護費用も高いことになります。
また、法人開業には法人設立や決算対応など、様々な手続きが必要ですが、法人化により節税効果を得られるほか、将来の事業継承が有利に働くことが多いというメリットもあります。分院化や業務範囲の拡大など経営計画によって、個人開業、法人開業の選択が必要です。
内科クリニック開業において注意すべき3つのポイント
実際に開業するときに注意すべきポイントは、以下の3つです。
- ポイント1:「何をする or 何をしないか」開業のコンセプトをしっかり決める
- ポイント2:プライバシーや感染対策に配慮した内装
- ポイント3:さまざまな媒体を駆使したマーケティング
順番に解説していきます。
ポイント1:「何をする or 何をしないか」開業のコンセプトをしっかり決める
一般内科だけを掲げて経営するのか、他の標榜科目も掲げるのかで、必要な行動は異なってきます。
一般内科を主として診療する場合、「どのような患者さんを受け入れ、どのような疾患は診ないか?」をしっかり決める必要があります。
他の標榜科目も掲げる場合、開業する地域に応じた戦略を検討しなければいけません。開業する地域の他の医療機関の標榜科目は、事前に調査しておきましょう。周囲に小児科がない場合、あえて内科・小児科と標榜すると保護者が選びやすくなります。
在宅診療をするかしないかでもレセプト平均点数が大きく変わってくるので、コンセプトはしっかり決めておきましょう。
ポイント2:プライバシーや感染対策に配慮した内装
採尿や内視鏡検査をおこなうことがあるため、共用トイレとは別に広めの採尿用トイレを作ったり、男女別のトイレを設置したりしましょう。
また、患者さんのプライバシーに配慮した空間作りや感染症対策を考慮した設計も大切です。広めの待合室を設ける、複数の診察室を設けるなどの工夫をおこないましょう。
車いすや酸素ボンベが必要な患者さんも受診されるため、廊下幅を広くするなどの配慮もあるとよいでしょう。
特に近年は新型コロナウイルスの流行により病院・クリニックでの感染を心配している方が多くいらっしゃるため、感染対策に配慮していることをアピールすることは重要になっています。
ポイント3:さまざまな媒体を駆使したマーケティング
内科の中でも特に、循環器内科や脳神経内科は文字だけでは「何を診てもらえるのかわからない」診療科です。そのためどんな症状を診ているかがわかるように、「高血圧」や「認知症」などの症状名をホームページに記載する等、認知してもらうための工夫が必要です。
また内科は若い世代から高齢者までさまざまな年齢の患者さんを診療することが多いでしょう。新聞や看板、チラシ、Web広告など、幅広くマーケティングをおこなうことで集患しやすくなります。
内科クリニックの開業戦略3つ
内科クリニックの開業戦略は、以下の3つです。
- 戦略1:地域の医療機関との連携を強化する
- 戦略2:高齢者向けの内科クリニックとして在宅診療を取り入れる
- 戦略3:幅広い患者さんの満足度を向上させるため、土日祝も診療する
開業する前に把握しておきましょう。
戦略1:地域の医療機関との連携を強化する
CTやMRIなどの高度医療機器を開業当初から導入するクリニックもありますが、導入コストや敷地面積の問題から設置しない場合もあるでしょう。その際は、地域にある他の病院との連携を築いたり、近隣の診療所と協力をしたりすることが重要です。
連携を強化しておくことによって病院や近隣の診療所から患者さんを紹介してもらうこともできます。マーケティング費のかからない集患方法と言えるでしょう。
戦略2:高齢者向けの内科クリニックとして在宅診療を取り入れる
高齢社会がますます進む日本では、在宅診療のニーズがさらに増加していくと考えられます。
レセプト平均点数も高くなっており、在宅診療をおこなうことはさまざまなメリットがあるといえます。地域の医療機関やケアマネジャーなどと連携し、内科疾患で受診が必要な場合には紹介してもらえるようにしておくとよいでしょう。
戦略3:幅広い患者さんの満足度を向上させるため、土日祝も診療する
平日は仕事が忙しくて受診できない方も多くいらっしゃいます。土日に体調が悪くなることも少なくありません。
土日祝日に診療をおこなうことで、患者数の増加が期待できます。また、いつでも診てもらえる安心感が生まれることで患者さんの満足度が高くなり、かかりつけ医として継続して受診してくれる可能性もあります。
このように、内科クリニックの開業にはいろいろな戦略が考えられます。
まとめ
内科を主とする医師数やクリニック・診療所数は多く、内科クリニックの開業は競争が激しい世界です。
まずは、コンセプトを明確にし、経営戦略を立てて、マーケティングをしっかりおこなうことが、開業の成功へ繋がります。
またクリニックをうまく経営し患者さんを集めるには、地域の医療機関との連携体制を作ることもとても大切です。
経営やマーケティングのポイントをしっかり押さえて、内科の開業を成功させましょう。開業に関して不明点があれば、ぜひフォームからお問い合わせください。

























