メンタルの医院開業動向情報
精神科クリニックの開業における競合に勝つためのマーケティング戦略

心療内科・精神科は、施設数・医師数共にさほど多くはありませんでした。しかし、近年増加の傾向にあります。
特に都市部や人口密集地により多く集まる傾向があります。開業する際には、エリアマーケティングをおこなうことが大切です。
この記事では、精神科クリニックの開業における競合に勝つためのマーケティング戦略をお伝えしていきます。
クリニックの開業を成功させたい方は、ぜひ参考にしてください。
精神科をとりまく動向
厚生労働省「令和5年(2023)患者調査の概況」によると、精神疾患を持つ患者数は2023年のデータでは490万人と報告されています。 精神疾患の内訳としては、2020年時点でもっとも多いのは「統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害」で、全体の患者数の約38.4%を占めています。その他気分障害が約23.7%、認知症が約7.7%となっています。
2002年と2023年の「患者調査の概況」を見ると、2002年の精神及び行動の障害に該当する入院患者数が32万8,800人、外来患者数が20万300人なのに対して、2023年の入院患者数は21万3,100人、外来患者数は24万4,600人と報告されています。
このことから、精神疾患患者のなかで増えているのは外来患者であり、入院患者は減っていることがわかります。しかし、「令和5年度精神保健福祉資料」によると、1年以上の長期入院となる方が約15万人いることがわかります。
精神科における、「長期入院するケースを減らすこと」「病床数を減らすこと」は日本の医療の大きな課題といえるでしょう。
2004年に厚生労働省は「精神保健医療福祉の改革ビジョン(概要)」にて、2003年時点で35.4万床だった精神疾患の病床数を、2015年には約28.2万床まで減らす(10年間で7万床の削減)ことを目標に掲げていました。しかし、厚生労働省の「精神保健医療福祉の現状」では、2025年時点の病床数は約30万床と報告されており、実際に削減できたのは5.4万床程度でした。その原因の一つとして退院後の患者の受け皿が不足していることが考えられます。
また、全国的に高齢化が進んでおり、家族が在宅で介護することが難しく、精神科へ入院せざるを得ないケースも出てきました。在宅診療においても精神科医の需要は高い状態が続くことが予想されます。
精神科クリニック開業の資金調達から収入・資金繰りまでのロードマップ
クリニック開業を考えるにあたり、まず問題となるのが資金面です。開業資金は「設備資金」と「創業資金」に分けられます。
「設備資金はテナント契約費や医療機器・設備購入費などです。設計・内装工事費その他を合わせ約5,000万円から約1憶円が必要で、テナント契約費は賃料の約3カ月分から12カ月分が見込まれます。また、「創業資金」は開業前の人件費や賃料、広告費、医薬品などの購入費用です。
開業資金
開業資金の一例として、下記の項目が挙げられます。
精神科クリニック開業に必要な開業資金
横スクロールでご確認いただけます
| 項目(精神科:テナント開業の場合) | 所要資金 |
|---|---|
| テナント契約費(保証金・敷金など) | 賃料の3カ月分~12カ月分 |
| 設計・内装工事費 | 2,000万円~4,000万円 |
| 医療機器・電子カルテ購入費 | 500万円~1,000万円 |
| 什器・備品購入費(待合設備、診察机など) | 100万円~300万円 |
| IT設備(PC、院内ネットワーク構築、オンライン予約、資格確認システムなど) | 50万円~250万円 |
| その他開業時諸費用(医師会加入、保険加入、広告・広報、医薬品購入など) | 150万円~800万円 |
| 開業前運転資金(賃料、人件費、手元資金など) | 1,500万円~4,000万円 |
必要最低限の医療機器、備品、IT設備のみに抑えた場合、開業時には一般的に700万円程度の設備費用がかかります。
他の診療科と比べて、設備費が少なくて済むのも精神科の特徴です。
精神科クリニックは他の診療科と比べ、レントゲン設備やエコーなどの大きな機器の購入が不要であるため、医療機器や設備に関する費用は少なめです。とはいえ、精神科の特性もあり自宅併設での開業の敷居は高く、テナント開業が一般的です。
また、医療的処置として採血などをおこなう場合もあります。しかし、その頻度は少なく、精神科単科であれば処置室や検査室は不要なことがほとんどです。極論的には机と椅子さえあれば開業することは可能です。設備に関しては、開業当初は必要最低限に抑え、売上や集患状況に応じて増やしていくのがよいでしょう。
一方で患者さんが落ち着いて気持ちよく過ごせるよう、内装や雰囲気作りに力を入れるのも選択肢の一つです。
オフィス街や繁華街など、若い患者さんが多い立地で開業を検討する場合は、オンライン予約システムやオンライン診療システムを導入するクリニックも増えています。システムの費用についても想定しておきましょう。
開業後の運転資金
次に、開業後の運転資金としては、下記の項目が挙げられます。
精神科クリニック開業後の運転資金
横スクロールでご確認いただけます
| 項目(精神科:テナント開業の場合) | 概算費用(月額) |
|---|---|
| 人件費 | 収入の20~25% |
| 医業原価(医薬品、消耗品など) | 収入の10~20% |
| 家賃・駐車場など | 立地、面積、設備等により異なる |
| 水道光熱費 | 5万円~15万円 |
| リース料 | 5万円~20万円(リース物件による) |
| その他諸経費(広告費、通信費、保険料、医師会費、租税公課など) | 20万円~65万円 |
開業前に資金計画を立て、無理のない経営を目指しましょう。
従業員を必要以上に雇ってしまうと人件費が経営を圧迫してしまいます。開業時は最低限の従業員だけを雇用して、患者さんが増えてきたら従業員の数を増やすようにしましょう。精神科クリニックの収入源や資金繰りについては、次の章で詳しく解説します。
精神科クリニックの収入源と資金繰り
全国の「令和7年度 保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表」を見ると、精神・神経科の診療所のレセプト(診療報酬明細書)1件あたりの全国の平均点数は、1,124点です。全国の診療科別平均診療点数を比べると、地域によって点数が大きく異なります。最も高いのは島根県の3,091点で、秋田県の1,740点、兵庫県の1,632点が続きます。一方、最も低いのは長崎県の690点、山梨県の693点、岐阜県の780点が続きます。
厚生労働省の「第25回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 -令和5年 実施-」を確認すると看護師1人を常勤で雇用する場合、平均で年間約400万円の人件費が発生します。精神科クリニックにおける看護師の業務において、看護師免許を必要とする行為は内科と比較すると少ないため、看護師を雇用するかどうかは診療方針や開業後の状況をみて慎重に検討してもよいかもしれません。なお、臨床心理士や公認心理師などの専門職を雇い、再診やカウンセリングのみの精神療法の一部を任せるのも手です。
個人開業と法人開業における収益
「医療経済実態調査(令和5年実施)によると、精神科個人開業診療所の医業収益は5,364万円、介護収益は9万円、医業・介護費用は3,189万円で、損益差額は2,185万円です。一方、法人開業診療所の医業収益は1億1,234万円、介護収益は351万円、医業・介護費用は1億445万円で、損益差額は1,141万円です。
個人開業に比べ法人開業の方が医業収益は高い一方、医療・介護費用も高くなっています。事業規模は一般的に法人開業の方が大きいため、収益は高くなる傾向があります。また、院長給与に相当する役員報酬が費用として計上されるため、個人開業より費用が大きくなる傾向もあります。加えて、事業規模拡大に伴い各経費も増加する事が多く、結果的に法人開業は個人開業に比べて医業収益も医療・介護費用も高いことになります。
また、法人開業には法人設立や決算対応など、様々な手続きが必要ですが、法人化により節税効果を得られるほか、将来の事業継承が有利に働くことが多いというメリットもあります。分院化や業務範囲の拡大など経営計画によって、個人開業、法人開業の選択が必要です。
精神科クリニック開業において注意すべき3つのポイント
実際に開業するときに注意すべき3つのポイントについてまとめました。
- 通いやすい立地選び
- プライバシーに配慮した内装で心地よい雰囲気作り
- SNSを駆使したマーケティング
順番に解説していきます。
ポイント1:通いやすい立地選び
精神科クリニックを開業する際にポイントとなるのが、「患者さんの視点でクリニックを作る」ということです。患者さんが来院しやすいよう、クリニックの立地は利便性のある駅の近くや駐車場が広いところがおすすめです。
ただし、うつ病に対しての認知度が世間的に高まっているとはいえ、初めて受診する人にとっては精神科を受診するのはハードルが高い部分があります。若年者を対象とする場合、受診される方の身体機能には問題ない方が多いです。
「他人に通院していることを知られたくない」という患者さんが多いため、表通りから路地を1本奥に入った場所で、2階以上のテナントがいいでしょう。あまり人目につかない場所となるため、心理的にも受診しやすく、患者さんから好まれる傾向があります。
どのような年齢層をターゲットにするのかを考え、人の流れと周囲の医療機関事情なども加味し、立地を検討していく必要があります。
ポイント2:プライバシーに配慮した内装で心地よい雰囲気作り
クリニック内の内装に関しては、待合室などの色彩を落ち着いた色にして患者さんが落ち着いて気持ちよく過ごせる雰囲気作りを意識しましょう。
色が人に与える心理効果は大きく、たとえば無彩色の代表である白であれば、清潔なイメージや明るいイメージを表現したい場合に効果的です。室内の壁やドアの色も、白を基調とすることで、白が持つ明るさ、光の反射が相まって部屋を明るい印象にしてくれます。
一方、緑は安らぎ・癒し・穏やかといった印象を抱かせるため、リラックスできる空間を作るのに効果的な色です。配色の他、香りや音楽にも気を配り、居心地のよい雰囲気となるよう工夫しましょう。
さらに、精神科クリニックにおいてはプライバシーに配慮して、待合室にパネルを設置して仕切りをつけることも効果的です。
前述した通り、クリニックを開業する際に注意しなければならないのは、「患者さん目線でのクリニックを作る」ということです。
厚生労働省の「令和5(2023)年受療行動調査(概数)の概況」によると、外来患者の満足度においては「医師による診療・治療内容」「医師との対話」「医師以外の病院スタッフの対応」「診察時のプライバシー 保護の対応」についての満足度が5割を超えています。
患者さん目線で見ると、多少待ち時間が長くても医師やスタッフの対応で満足度を高く感じることもあるのです。
また、医師や事務などのスタッフの動線にも配慮が必要です。診察室の声が待合室に漏れたり、カルテなどの個人情報が他者の目に触れてしまったりしないよう注意しましょう。
患者さんのプライバシーに配慮することと、通院しやすい・話しやすい雰囲気を作ることが、精神科にとっては何よりも重要な点だといえます。それらがクリニックの評判を左右することにもなるので徹底的に考慮しましょう。それが競合相手との差別化にもつながります。
ポイント3: SNSを駆使したマーケティング
精神科は内科と比べて若い患者さんも多いこともあり、WebサイトやSNSを見て来院するケースも増えています。自院のサイトやSNS戦略に注力することも重要な集患手法です。
クリニックのWebサイト上の表記には厚生労働省「医業もしくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」(58)による規制があり、表示できる情報にも限りがあります。SNSとうまく組み合わせることで、自院の強みをアピールしていきましょう。
また、近年職場のメンタルヘルスの問題から、産業医探しに力を入れている企業も増えてきています。そのため、SNS上で発信をしていると企業側から相談がくるケースもあります。
精神科クリニックにおける他院との差別化
他院との差別化も重要な要素です。
精神科において、診察の時間が短くなることは、患者満足度の低下に繋がる可能性もあります。このような場合は心理士を雇って業務を分け、効率化できるとよいでしょう。「待ち時間に比べて、診察時間の方が極端に短い」というようなことがあると、患者満足度が低くなりがちです。
また、他のクリニックとの差別化を図るための手法として、専門的なカウンセリング、往診対応、親子や夫婦でのカウンセリングなどを導入するのもよいでしょう。
自由診療として、うつ症状の治療である経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)や光トポグラフィー検査も注目されています。rTMSは刺激を週に何度か繰り返し、なおかつ1カ月半程度継続する必要があるため、集患があれば収益が望めます。
光トポグラフィー検査は、診断を科学的・客観的に補助することが可能になります。非侵襲的であるため、誰にでも実施できることも特徴です。
精神科クリニックの開業戦略
精神科クリニックの開業戦略は以下の通りです。
- 専門特化型の精神科クリニック
- 在宅診療を取り入れた高齢者向けの精神科クリニック
- オフィス街で働く会社員向けのクリニック
それぞれ解説していきます。
戦略1:専門特化型の精神科クリニック
専門特化型の精神科クリニックすることです。例えば以下のような方法が考えられます。
小児と成人女性に特化したクリニックとして開業する。
学校、学童、学習塾、近隣の小児科、保健センターなどと連携し、ADHD・アスペルガーなどさまざまな小児の精神疾患に対応しつつ、その母親にも同時にアプローチし、親子を包括的にサポートします。
専門特化にすることで、新規の患者さんにも選んでもらいやすくなります。
戦略2:在宅診療を取り入れた高齢者向けの精神科クリニック
在宅診療を取り入れた高齢者向けの精神科クリニックにすることも戦略の一つです。
高齢者向け事業者とも提携し、身体面・精神面両方から高齢者を包括的にサポートするなど、高齢者に寄り添ったサービスを提供しましょう。
戦略3:オフィス街で働く会社員向けのクリニック
オフィス街で働く会社員向けのクリニックにするのも選択肢の一つです。具体的には、以下の方法が考えられます。
- 始業前、昼休み、終業後の時間に受診可能な体制を作る。
- 精神科・心療内科に通院することに抵抗感がないように工夫するとともに、プライバシーに配慮し、職場の同僚などに会わないよう完全予約制にする。
- オンライン診療を積極的に行い、軽度な方の再診はオンラインで完結するようにする。
まとめ
精神科クリニックの開業といってもいろいろな戦略が考えられます。精神科クリニックは比較的低コストで開業が可能であるため、「他院との差別化」が開業成功の鍵になります。
発達障害、ADHD、引きこもり、いじめなど、小児を対象とした精神科診療、認知症をはじめとした高齢者向けの精神科医療、働く世代のメンタルヘルスに特化した産業精神科など、自身の得意分野と社会的ニーズを考えて戦略を練りましょう。
開業に関して不明点があれば、ぜひフォームからお問い合せください。

































