人工透析の医院開業動向情報
人工透析クリニックの開業のポイント!将来性や開業資金や戦略を解説

「人工透析クリニックを開業したいが、初期投資が高額になりそう」
「人工透析クリニックを開業するにはどうしたらよいの?」
糖尿病患者や高齢者の比率からすれば、しばらくは透析患者の絶対数がいきなり減ることはありませんが、人工透析クリニックを開業するのであれば、事前にしっかりと戦略を立てておくことが重要です。この記事では、透析クリニックの開業のために押さえておきたいポイントを解説します。ぜひ参考にしてください。
人工透析をとりまく動向
日本の人工透析の需要は縮小傾向にあるといわれています。日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在)」によると、2023年末時点で慢性透析療法を受けている患者総数は前年比3,966人減の34万3,508人です。有病率は2022年から減少し、2023年は人口100万人あたり2762.4人、つまり国民の362人に1人が透析患者であるという結果がでています。
また2023年の透析患者調査票において年齢が記されていた33万1,039人(男性22万1,604人、女性10万9,435人)の平均年齢は全体で70.1歳でした。患者さんの平均年齢は年々上昇しており、最も割合が高い年齢層は男性70~74歳、女性75~79歳です。65歳未満の患者数は2012年から減少、70歳未満の患者数も2017年から減少傾向です。75歳未満も2021年から減少し、75歳以上の患者さんが増加しています。
2023年末時点の慢性透析患者を原疾患別で見ると、最も多いのは糖尿病性腎症の39.5%、次いで慢性糸球体腎炎が23.4%、腎硬化症が14.0%でした。また各透析治療形態の割合としては、血液透析37.5%、血液透析濾過59.1%、血液濾過0.1%、在宅血液透析0.2%、腹膜透析(HD併用を含む)3.1%となっており、血液透析(37.5%)と血液透析濾過(59.1%)が全体の96%以上を占めています。厚生労働省「健康日本21(第三次)糖尿病」によると、糖尿病の可能性が否定できない人と、糖尿病の可能性が強く疑われる人を合計した数は、2016年に約2,000万人で減少傾向にありますが、糖尿病が強く疑われる人は以前増加傾向で、人口構成の高齢化や肥満者の増加に伴い、今後も増加することが予測されています。
高齢化にともなう腎機能の低下や、生活習慣病・糖尿病の悪化によって今後透析が必要になる方は増える可能性が高いといえます。
また人工透析のレセプト(診療報酬明細書)に関しては、診療報酬改定のたびに点数が引き下げとなっています。厚生労働省「令和4年度診療報酬改定について 1.個別改定項目について」では、前回改定時に比べて1回あたりの点数が39点引き下げられました。令和6年の改定ではさらに9点の引き下げがありました。
また、関東各県の「令和3年度 保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表」と「令和4年度 保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表」において、関東各県の透析点数は平均268点引き下げられていることが分かります。そのため今後の需要が増減どちらで推移していくのかはしっかりと見極め、減少していった場合でも売上を伸ばせるように戦略を立てていく必要があります。
人工透析クリニック開業の資金調達から収入・資金繰りまでのロードマップ
人工透析クリニック開業にあたり、まず問題となるのが資金面です。開業資金は「設備資金」と「創業資金」にわけられます。
「設備資金」はテナント契約費や医療機器・設備購入費などです。設計・内装工事費その他を合わせ約1憶6,000万円以上が必要で、テナント契約費は賃料の約3カ月分から12カ月分が見込まれます。また、「創業資金」は開業前の人件費や賃料、広告費、医薬品などの購入費用です。
開業資金
開業資金の一例として、下記の項目が挙げられます。
人工透析クリニック開業に必要な開業資金
横スクロールでご確認いただけます
| 項目(人工透析:テナント開業の場合) | 所要資金 |
|---|---|
| テナント契約費(保証金・敷金など) | 賃料の3カ月分~12カ月分 |
| 設計・内装工事費 | 5,000万円~ |
| 医療機器・電子カルテ購入費 | 6,000万円~ |
| 什器・備品購入費(待合設備、診察机など) | 800万円~ |
| IT設備(PC、院内ネットワーク構築、オンライン予約、資格確認システムなど) | 200万円~ |
| その他開業時諸費用(医師会加入、保険加入、広告・広報、医薬品購入など) | 150万円~ |
| 開業前運転資金(賃料、人件費、手元資金など) | 4,000万円~ |
- ※透析ベッド数や規模により、資金に大きな差が発生します。
ビルのテナントで開業する場合と土地を購入して建物を新築する場合で土地・建物購入費は異なりますが、透析施設は一般の内科に比べて広いスペースが求められます。一般内科であれば30坪程度で開設できる場合もありますが、人工透析科は透析ベッドや人工透析用の機器のスペースが必要になるため、全体で最低でも70坪以上のスペースを確保しておきましょう。一般的な内装工事に加え、人工透析科特有の透析用「超純水」装置や検査機器のための内装工事も必要となるため、クリニック内装費も高くなる傾向にあります。
また、血液透析は原則として週3回の通院が必要になる場合が多いため、立地選びも非常に重要です。乗換のしやすい駅から近い立地であると望ましいですが、そのような土地や物件は賃料が高くなります。人工透析科の新規来院患者は医療機関からの紹介によるものが多いため、わかりやすい場所であれば大通りに面している必要はありませんが、高齢化にともない自力での通院ができない患者さんのことを考え、送迎用の駐車場の確保は必須といえます。通院の利便性と賃料のバランスをみて、立地や物件を検討しましょう。 合わせてクリニックの内装や設備に関して、車椅子での移動もしやすいよう、クリニックの入り口や各部屋の入り口、トイレなどは広めのスペースを確保しましょう。透析時間が長い患者さんのため、快適なリクライニングベッドや無料のTVモニター、インターネット環境を完備する必要もあります。
そして人工透析クリニックでは、透析液・透析ルート・ダイアライザなどの透析機器だけでなく、さまざまな合併症を予防するための内服薬なども必要になります。水質管理のため光熱費などの固定費も高くなることを考慮しなければなりません。
人工透析科での開業では上記のような設備資金が多く発生するため、各機器の単価と維持費などを計算し、しっかりと利益が出るように考えておく必要があります。
開業後の運転資金
次に、開業後の運転資金としては、下記の項目が挙げられます。
人工透析クリニック開業後の運転資金
横スクロールでご確認いただけます
| 項目(人工透析:テナント開業の場合) | 概算費用(月額) |
|---|---|
| 人件費 | 収入の20~40% |
| 医業原価(医薬品、消耗品など) | 収入の20~30% |
| 家賃・駐車場など | 立地、面積、設備等により異なる |
| 水道光熱費 | 40万円~ |
| リース料 | リース物件による |
| その他諸経費(広告費、通信費、保険料、医師会費、租税公課など) | 30万円~ |
開業前に資金計画を立て、無理のない経営を目指しましょう。
従業員を必要以上に雇ってしまうと人件費が経営を圧迫してしまいます。開業時は最低限の従業員だけを雇用して、患者さんが増えてきたら従業員の数を増やすようにしましょう。人工透析クリニックの収入源や資金繰りについては、次の章で詳しく解説します。
人工透析クリニックの収入源と資金繰り
全国の「令和7年度 保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表」を見ると、人工透析クリニックの診療所のレセプト(診療報酬明細書)1件あたりの全国の平均点数は、7,515点です。全国の診療科別平均診療点数を比べると、地域によって点数が大きく異なります。最も高いのは京都府の18,204点で、神奈川県の16,282点、千葉県の14,568点が続きます。一方、最も低いのは沖縄県の3,024点、香川県の3,432点、福井県の3,440点が続きます。
人工透析クリニックの売上は「単価」×「透析患者数」×「1人当たりの透析回数」で決まります。1人当たりの透析回数については患者さんの症状により異なりますが、一般社団法人全国腎臓病協議会「2016年血液透析患者 実態調査報告書」によると、透析回数は「週3回」と回答した人の割合が97.1%を占めています。また1回の透析時間は「4時間以上5時間未満」と回答した人が76.1%と最も多かったことから、週3回(1回4時間以上5時間未満)、月12回程度の通院が一般的といえます。
つまり患者さん1人に対する年間の売上は、全国平均の7万5,150円×12で90万1,800円となります。
令和4年度の診療報酬改正により、透析患者に対して運動療法をおこなうと、あらたに透析時運動指導等管理加算として75点を追加できるようになりました。ただし加算の対象条件として、一般社団法人 日本腎臓リハビリテーション学会で開催されるリハビリテーションガイドライン講習会に参加する必要があります。運動指導研修を受講した医師、看護師、理学療法士、作業療法士のいずれかが透析患者に対して運動療法をおこなうと、運動指導開始後から90日に限り加算が可能です。
設備資金が高くなる傾向にあるため、運転資金の初期費用は極力抑えたいところですが、少なくとも医療事務と看護師、臨床工学技士の雇用は必須です。
人工透析クリニックにおける看護師の配置基準は正確には定められていませんが、単なる患者数との割合だけで判断するのではなく、自院でおこなうケアの量などを踏まえて判断するとよいでしょう。例えば透析患者は糖尿病足病変になる方が多いためフットケアや指導も院内で実施するという場合、必要な人員はその分増えます。
人工透析クリニック開業の時に注意する3つのポイント
実際に開業するときにどんなことに注意すべきかをまとめました。開業前にしっかりと把握しておきましょう。
- エリアマーケティング
- 医師会への参加と中核病院や他施設へのPR
- ホームページを活用した患者さんへのPRとマーケティング
ポイント1:エリアマーケティング
人工透析クリニックの開業において、エリアマーケティングは欠かせません。
開業予定地の周辺で、想定される透析患者数と既存の人工透析クリニックの数、診療サービスを調査し、新規患者がどの程度見込めるかを試算しましょう。人工透析は循環器内科や泌尿器科で実施している施設もあるため、透析専門のクリニックが近くにない場合でも競合相手となる医療機関は多数存在しているかもしれません。
また患者さんに地域中核病院や腎臓内科を紹介したり、逆に解析専門医として患者さんを紹介してもらったりすることもあるでしょう。そのため地域中核病院などからのアクセスの利便性も考えなければなりません。また高齢者をメインターゲットとする場合は、介護施設や地域のケアマネージャー、地域包括支援センターとの協力体制も重要です。
成功するクリニックの多くは、地域のターゲットを明確にし、患者さんの求めるサービスを提供しています。
ポイント2:医師会への参加と中核病院や他施設へのPR
他院から患者さんを紹介してもらうためには、クリニックの機能をしっかりと他院にアピールしてよさを知っていただくことが重要です。腹膜透析や在宅透析ができる、シャント造設をおこなうことができる、比較的症状の重い患者さんでも受け入れ可能など、クリニックの特徴や強みは積極的にアピールしましょう。
開業の際には病院や介護施設、地域のケアマネージャーのいる居宅支援事業所、訪問看護ステーション、地域包括支援センターなどへの挨拶をおこない、施設機能を認知していただきながら信頼関係を築いていきましょう。
ポイント3:ホームページを活用した患者さんへのPRとマーケティング
診療日や診療時間、医師の紹介など多くの人が確認する大切な情報は確実にホームページに記載しておきましょう。患者さんが複数の医療機関を比較するときにも参考となるため、自院の強みや特徴も記載できるとよいでしょう。
また長期的なSEO対策として、各透析の特徴や比較など透析に関する専門的な情報を記載することで、ホームページからの露出や流入数を増やすことに繋がります。
他の人工透析クリニックと差別化を図る方法
医学的必要性だけでなく、より高いQOLを求めて患者さんのニーズは変化しています。
人工透析クリニックで他院と差別化を図る方法を実践すれば、患者さんのニーズに応えやすくなり、「選ばれるクリニック」になる確率が上がります。
たとえば前述したフットケアの導入も、他院との差別化を図る手段の1つです。糖尿病の悪化により透析を受ける場合、透析を始める時点で足の感覚が鈍くなっていることがあります。足にできた傷から全身に影響が出る可能性もあるため、フットケアの導入は有効といえるでしょう。
その他差別化を図る方法としては、通院の利便性を考慮して夜間診療や無料送迎をおこなったり、診療内容に在宅血液透析や腹膜透析の診療を加えたりするなどの工夫が考えられます。
特に30~50代の労働世代の患者さんにとって、上記のような解析以外の付加サービスは、通院時間と透析時間の時間価値を総合的に考えてメリットがあれば、転院を考えるきっかけになるでしょう。
人工透析クリニックに今後求められること
厚生労働省は2018年7月、2028年までに年間新規透析導入患者数を3万5,000人以下に減少させるという目標を、「腎疾患対策検討会報告書~腎疾患対策の更なる推進を目指して~」(62)で公表しました。生活習慣病対策などに力を入れ、極力透析を導入しないようにする方針です。
また人工臓器32巻1号に掲載された「埋め込み型人工腎臓開発のステップ、基礎から臨床へ」(64)によると、現在、小型化したハイブリッド腎臓や他の動物の腎臓を移植する形でおこなわれる埋め込み型人工腎臓などの開発研究が進められています。日本は海外と比べると、移植医療の数が少ないといわれていますが、研究が進めばIPS細胞での腎移植などが進むかもしれません。
将来性のある人工透析クリニックを開業するため、新規透析患者数の獲得と維持についてしっかりと考え、マーケティングや他院との差別化に力を入れることが重要です。患者さんから支持される人工透析クリニックを開業しましょう。開業に関して不明点があれば、ぜひフォームからお問い合わせください。

































