クリニック開業
融資の基本:融資先・流れ・注意点を解説
「開業したいけれど、資金が足りるか不安で動けない」
「融資って、そもそもどこに相談すればいいのかもわからない」
開業を考え始めた先生の多くが、こうした悩みを抱えています。自己資金だけではまかないきれないことが多いからこそ、開業前の資金計画や融資の準備が極めて重要になります。
とはいえ、実際には「審査に通るのか」「いくら借りればいいのか」「返済できるのか」と、不安や疑問が尽きないのも事実です。
本記事では、融資の種類・申請の流れ・審査を通すポイント・返済計画の立て方までを、現場の知見をもとにわかりやすく解説します。
融資への不安に立ち止まるのではなく、仕組みを理解して適切な準備を進めることで、自信を持って次の一歩を踏み出せるようになります。
目次
クリニック開業時に利用できる主な融資の種類
クリニック開業には多額の資金が必要であり、自己資金だけでまかなうのは現実的ではありません。そのため、多くの医師が融資制度を活用して資金を調達しています。ここでは、よく利用される代表的な融資制度をご紹介します。
民間の金融機関(地方銀行・信用金庫など)
地方銀行や信用金庫、一部の都市銀行などでは、クリニック開業向けの融資商品を提供しています。
特徴
- 地域密着型の支援:地方銀行や信用金庫は、地域に根ざした金融機関であり、地元の医療事情や経済状況に精通しています。
- 融資条件の柔軟性:金融機関によっては、担保や保証人の要件が異なり、融資条件に柔軟性があります。
- 信頼関係の構築に有利:開業後も地域金融機関との取引を通じて、地元との信頼関係やネットワークを築きやすくなります。
- 金利は変動型が中心:金利は固定よりも変動型が多く、将来的な上昇リスクはあるものの、現状では日本政策金融公庫よりも低い水準で融資を受けられるケースもあります。
医師信用組合による融資制度
医師会と密接に連携し、クリニック開業支援に特化した融資商品を提供しているのが、医師信用組合です。加入は“医師会または医師信用組合への加入”が条件となるのが一般的です。
特徴
- 融資対象が幅広く実用的:医療機器購入や運転資金はもちろん、土地・施設の取得費用や医師会の入会金など、様々な用途に対応しているケースが多く見られます。
- 大きな融資枠と長期返済:多くの医師信用組合では、無担保で数千万円、有担保で1〜2億円規模の融資に対応しており、返済期間も最大35年程度まで設定可能な場合が一般的です。
- 融資条件が有利で金利も低水準:担保設定なしでも高額融資が可能なうえ、利率は変動型が主流ですが、医療関連に特化しており利便性・好条件を重視した設計です。
日本政策金融公庫の「新規開業資金」
政府系金融機関である日本政策金融公庫は、新たに事業を始める方や事業開始後7年以内の方を対象に、設備資金および運転資金の融資を行っています。
融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
返済期間:設備資金=20年以内(据置期間5年以内)、運転資金=10年以内(据置期間5年以内)
金利:基準利率。特定の要件を満たす場合、特別利率が適用されることがあります。
特徴
- 固定金利で長期返済:返済開始時の金利が返済期間中変わらず適用される。
- 据置期間の設定:元金返済を開始前に据置期間を設けることで、開業初期のキャッシュフロー負担を緩和。
- 無担保・無保証人での融資も可能(条件あり)。
(補足) 福祉医療機構(WAM)の融資制度
独立行政法人福祉医療機構(WAM)は、医療・福祉施設の整備や建設を対象に、長期・固定・低利の融資制度を実施しています。
特徴
- 長期・固定・低利の融資が可能:最長30年の固定金利で、安定した返済計画を立てやすい(例:年0.8~1.9%程度)。
- 対象は施設整備に限られる:新築・改修などが主で、運転資金や医療機器購入費などは対象外。無床診療所の場合は「診療所不足地域」に限られる。
- 担保設定が必須:融資対象となる建物に抵当権を設定する必要があり、登記名義が本人であることが条件。
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| 融資元 | 主な特徴 | 適した状況 (おすすめの使い方) |
|---|---|---|
| 民間金融機関(地銀・信金) |
|
開業予定地が決まっており、地域金融機関との信頼関係を重視したい場合 |
| 医師信用組合 |
|
運転資金や医療機器の購入も含め、柔軟にまとまった資金を調達したい場合 |
| 日本政策金融公庫 |
|
自己資金が限られており、安定した固定金利で長期返済したい場合 |
| 福祉医療機構(WAM) |
|
診療所不足地域などで施設の新築・改修を行う場合。長期安定返済を希望するケース |
- ※なお、医療機器などの導入においては、リースを活用することで初期費用を抑える方法もあります。ただし、融資とは異なる契約形態であるため、慎重な検討が必要です。
融資を受けるための準備と申請の流れ
クリニック開業において、融資を成功させるためには「準備段階での精度」が極めて重要です。金融機関は、開業医の熱意だけではなく、事業の実現可能性・収益性・返済能力を多面的に審査します。以下に、融資申請に向けた準備と流れを整理します。
融資の準備から申請までの流れ
- STEP1自己資金の準備
- STEP2資金計画と事業計画の立案
- STEP3必要書類の整理・準備
- STEP4金融機関との事前相談
- STEP5正式申請と審査
- STEP6融資実行と資金使途
事業計画関連資料の作成
開業に向けた融資審査では、「想い」と「実現可能性」の両面が問われます。そのため、提出する各種資料を通じて、開業の方向性や収支の裏付けを明確に示すことが重要です。
融資申請に必要となる主な計画関連書類とその内容は以下の通りです。
【1】開業趣意書
- 開業の目的や理念(自院のコンセプト)
- 提供する診療内容、想定する患者層
- 地域で果たしたい役割や特徴的なサービスの方向性
【2】診療圏調査報告書
- 開業地選定の理由と立地条件
- 診療圏調査に基づく地域特性や将来性
- 周辺クリニックとの競合状況、差別化ポイント
【3】事業計画書
- 借入期間中の売上・費用見通し、損益分岐点
- 融資返済計画(毎月の返済額や返済原資の根拠)
- 資金計画(総費用の内訳、自己資金、融資希望額)
- キャッシュフロー計画(資金ショートを防ぐ対策)
- 導入予定の医療機器、スタッフ体制(人数・人件費・採用時期)
金融機関が特に注視するのは、差別化戦略の明確さ、収益予測の妥当性、そして返済能力の裏付けです。「競合とどう違うか」「どの程度の患者数と売上が見込めるか」「毎月いくら返済できるのか」が、数値とロジックで示されていることが、審査通過のカギとなります。
自己資金の準備
自己資金は、融資審査において「開業の本気度」を測る指標とされます。金融機関では、融資希望額の1〜2割の自己資金の準備が必要とされています。
自己資金に関する注意点
- 通帳上で3か月以上の保有履歴があることが好ましい。
短期間で一時的に入金された資金(いわゆる“見せ金”)は審査で確認され、資金の出所や継続性が重視されます。 - 相続や贈与の場合、出所証明が求められる。
贈与契約書や遺産分割協議書など、資金の正当性を示す書類が求められます。 - 預金以外の資産も評価対象となる場合がある。
最近では、金融資産全体(有価証券、不動産など)を含めた資産背景を総合的に評価するケースも増えており、自己資金以外の資産状況もプラス評価につながることがあります。
自己資金が少ないと、資金調達力に対する懸念から、融資審査で不利な条件(融資額の圧縮や金利上昇)を提示されるリスクがあります。少なくとも1,000万円以上の自己資金を目標に、早期から準備を進めることが重要です。
近年では、内科のテナント開業などでも1億円を越える開業資金が必要なケースもあり、医療機器投資が大きい眼科や整形外科などは1.5億円を越えるケースも見受けられます。
こうした背景からも、自己資金の額だけでなく、「その金額をどう準備したか」や「どのように使い分けるか」も含めて説明できる状態が求められます。
提出書類の準備
融資申請では、提出書類の完成度が、審査のスピードや結果に大きく影響します。以下は、金融機関に提出が求められる主な書類です。
融資に必要な書類リスト
- 融資相談時に提出する資料
-
- 開業物件資料(概要書、賃料、診療圏調査報告書など)
- 本人の確定申告もしくは源泉徴収表のコピー(2~3年分)
- 本人の資産資料コピー(通帳・固定資産税納税通知書・貯蓄型生命保険など)
- 個人借入(住宅ローン・自動車ローン明細など)返済表のコピー
- 本人の運転免許証のコピー
- 事業計画書
- 自宅土地建物の謄本、公図、物件明細書 ※自己所有の場合
- 開業地不動産契約書(相談時に間に合えば)
- 融資実行前までに提出する資料
-
- 必要資金見積書・契約書コピー(工事、機器等)
- 融資先の所定書式、信用調書(本人、保証人、担保提供者)
- 印鑑証明書(本人、保証人、担保提供者)
- ※なお、担保提供を予定している場合は、登記簿謄本や資産証明などの物件資料が求められます。配偶者や連帯保証人が関与する場合には、その方の資産証明・借入状況資料の提示を求められることもあります。また、状況により、上記資料の他にも追加の情報を求められる場合があります。
書類は一括でまとめて提出するのが原則です。不備や不足があると審査が遅れたり、条件変更を求められることもあるため、早めに必要書類を確認・準備しておくことが重要です。
DtoDコンシェルジュでは、事業計画書の作成支援や必要書類の整理・確認など、書類準備を全面的にサポートしています。
融資申請のタイミング
融資申請は、物件契約の前後で役割が異なります。特に重要なのは、融資の「内諾」と「正式申請」は別プロセスであるという点です。
融資内諾は物件契約前に取得
開業地が決まり次第、事業計画書や診療圏調査などを準備し、金融機関と交渉を始めます。この段階で目指すのは「融資内諾」の取得です。
内諾が得られれば、資金調達の見通しが立ち、不動産の仮契約または本契約に安心して進めます。
本申請は物件契約後に行う
物件契約が完了した後、売買契約書や賃貸契約書を添えて、正式な融資申請(本申請)を行います。ここから融資実行までは約1〜2か月かかるのが一般的です。
開業スケジュール全体を考慮し、開業予定日の8~12か月前には融資交渉をスタートするのが理想です。開業の遅れは、融資スケジュールの読み違いが原因になることも多いため、早めの準備が欠かせません。
融資審査のポイントと注意点
融資審査では、計画の整合性や収益の見通し、そして医師本人の返済能力まで、総合的に判断されます。以下に、特に重視される4つの観点を整理します。
事業計画の具体性と実現可能性
審査の中心は「そのクリニックが本当に収益を生み、返済できるのか」です。以下の点が評価軸となります
- 収益見込み:想定患者数や診療単価が現実的か。
例)1日平均30人×保険点数単価×診療日数など - 競合優位性:周囲のクリニックとどう違うのか。専門性や診療時間などの差別化があるか。
- 立地の市場性:診療圏内の人口や年齢層、ニーズに合っているか。
- 返済可能性:開業3年以内に黒字化し、返済原資を確保できる構造になっているか。
差別化・収益の見通し・返済能力が数値で示されているかどうかが合否を分けます。
医師自身の信用情報と返済能力
申請者本人の信用情報も審査の重要な要素です。過去に金融トラブルがないか、クレジットカードの支払い遅延がないかなども確認されます。
- 信用情報機関(CIC・JICC等)での過去の借入や延滞履歴がチェックされます。
- 勤務医時代の年収や貯蓄実績から、安定した返済力があるかが判断されます。
金利の種類と選択
金利には、主に「固定金利」と「変動金利」の2種類があります。
- 固定金利:返済額が一定で資金計画が立てやすく、長期借入や設備資金向き。
- 変動金利:初期金利が低いが、将来的に上昇するリスクあり。
どちらを選ぶかは、将来の金利動向や先生の金利リスクに対する考え方によって異なります。長期的な視点で慎重に検討しましょう。
融資後のチェック体制
融資が実行された後も、その使い道が適正かどうかは金融機関によって確認されます。たとえば、医療機器の購入費や内装工事費など、当初の計画どおりに資金が使われているかをチェックするために、次のような書類の提出を求められることがあります。
- 医療機器や内装工事などの契約書・請求書・領収書
- 資金使途報告書(日本政策金融公庫などでは所定の書式あり)
これらは、融資を適切に使ったことを証明するための「根拠資料」です。あとから慌てることのないよう、支払いが発生した時点でしっかりと書類を保管・整理しておくことが大切です。
DtoDコンシェルジュでは、融資後の資金使途管理に関してもサポートを提供しています。具体的には、必要書類の整備や提出方法のアドバイス、金融機関とのやり取りのサポートなど、資金管理がスムーズに行えるよう支援しています。
DtoDコンシェルジュ開業支援サービスのご紹介:頼れるパートナーと共に夢を実現
ここまで、クリニック開業時の融資や経営準備について詳しく見てきましたが、「実際にどこから手をつければいいのか」「自分だけで乗り切れるのか」と不安を感じた方も少なくないでしょう。開業準備には専門性の高い知識と煩雑な手続きが数多く存在し、医師一人で全てを進めるのは現実的ではありません。
そこでご紹介したいのが、私たちDtoDコンシェルジュの開業支援サービスです。
DtoDコンシェルジュの開業支援が選ばれる理由
DtoDコンシェルジュでは、45年以上にわたり4,600件を超える開業支援を行ってきた実績と、医療業界に特化したノウハウをもとに、先生方の「開業の成功」を総合的にサポートしています。
主なサポート内容と特徴
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| 項目 | よくある課題 | DtoDコンシェルジュの支援内容 |
|---|---|---|
| 診療圏調査・物件選定 | 「どこに開業すれば患者が集まる?」 | 独自分析に基づいた診療圏調査と物件のご提案 |
| 事業計画の作成 | 「数字の立て方がわからない」 | 売上・費用・資金繰り・返済計画まで支援 |
| 融資の申請準備 | 「書類が複雑で通るか不安」 | 金融機関との調整・必要書類の準備を全面サポート |
| 補助金・助成金 | 「情報が多すぎて活用しきれない」 | 最新の制度情報をもとに、申請準備まで支援 |
| 人材採用・教育 | 「スタッフをどう採ればいい?」 | 採用戦略の提案、求人票作成、教育支援 |
| 開業後の支援 | 「経営が軌道に乗るまでが不安」 | 経営相談、業務改善提案、スタッフ定着サポート |
上記に加えて、DtoDコンシェルジュには以下のような強みがあります:
- 選べる開業スタイル: 医療モール、継承、新規開設(戸建て、テナント)など多様なスタイルに対応し、診療圏分析や開業形態ごとの事業シミュレーションも支援します。
- 全国ネットワーク: 全国のエリアに専任コンサルタントを配置し、地域の実情に即した提案と物件紹介が可能です。
- 開業後のフォローアップ: 経営相談、スタッフ教育・研修、患者満足度調査、施設リニューアル支援、リスクマネジメントなど、継続的に経営をサポートします。
- 専門家との連携: 税理士などと連携し、税務や法務なども含めて安心してご相談いただけます。
- 豊富な開業物件情報: 非公開・計画中の優良物件も多数取り扱い。DtoD会員登録により、限定情報も閲覧可能です。
DtoDでは、開業計画がまだ漠然としている段階でも、無料相談で現状を丁寧に整理し、どのような準備が必要かを一緒に考えるところから始められます。まずはお気軽に、開業支援サービスの無料相談をご利用ください。
まとめ:理想の開業を「資金面」で挫折させないために
クリニック開業を現実にするうえで、資金調達は避けて通れないハードルです。民間金融機関、医師信用組合、日本政策金融公庫など、多様な選択肢がある一方で、「どの制度が最適か」「どう書類を整えれば審査に通るのか」といった不安は尽きません。
成功の鍵は、事業計画の説得力・自己資金の備え・書類の完成度です。金融機関は、医師としての熱意だけではなく、「収益見通し」や「返済能力」を数値で見極めます。
とはいえ、資金調達や制度選び、書類作成をすべて一人で抱えるのは現実的ではありません。資金戦略から開業後の経営支援まで、一気通貫でサポートするプロに頼ることが、結果的に最もスムーズかつ堅実な開業への近道です。
開業に向けた準備を進めるなかで、資金計画に少しでも不安や疑問があれば、DtoDまでお気軽にご相談ください。開業に必要な選択肢と準備の全体像を、専門家と一緒に整理してみませんか。

























