開業医が知るべきクリニック閉院の原因と経営改善策
クリニック開業という大きな決断を前に、その先にある「閉院」の可能性について考えることは、決してネガティブなことではありません。
むしろ、閉院のパターンを事前に知っておくことは、持続可能なクリニックを創るために重要です。
この記事では、クリニックが閉院に至る主な理由や経営が困難になった際の選択肢、そして最も重要な「失敗を回避するための具体的な対策」まで、医院開業を目指す先生、また現在クリニックを経営されている先生が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
目次
クリニックが閉院に至る3つの主な理由
クリニックの閉院が、単一の原因で起こることは稀です。
多くの場合、複数の要因が複雑に絡み合って経営を圧迫し、最終的に事業継続が困難という結果に至ります。
ここでは、閉院の引き金となる代表的な3つの理由を見ていきましょう。
理由1:経営不振
閉院理由として最も深刻かつ直接的なのが経営不振です。
帝国データバンクの調査によると、2023年の「病院・診療所」の倒産は41件にのぼり、過去20年で最多水準となりました。その多くが、経営不振を原因としています。
※引用元:株式会社帝国データバンク
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p231204.html
経営不振に陥る理由は、単に「患者が少ない」など集患面の問題だけではありません。
以下のような複合的な要因によって引き起こされます。
| 経営不振を引き起こす主な要因 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 収益面の課題 |
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| コスト面の課題 |
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| 財務面の課題 |
|
| 運営面の課題 |
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これらの要因は互いに影響し合います。例えば、人件費の高騰を恐れてスタッフへの投資を怠れば、サービスの質が低下し患者満足度が下がり、結果的に患者数が減少するという悪循環に陥る可能性があります。
重要なのは、クリニックを「診療の場」としてだけでなく、「一つの事業体」として捉え、収支のバランスを常に監視し続ける”経営者としての視点”です。
理由2:院長の高齢化・後継者不在・健康問題
特に個人経営のクリニックにおいて、院長自身の問題は閉院に直結します。院長が診療の全てを担っている場合、その存在はクリニック経営の根幹そのものです。
日本の開業医の平均年齢は年々上昇しており、全国各地で多くの先生方が引退の時期を迎えています。しかし、親族内に後継者となる医師がいない、あるいはいても継承の意思がない、といった「後継者不在」の問題は深刻です。長年地域医療を支えてきたクリニックであっても、院長の引退と共に閉院せざるを得ないケースが後を絶ちません。
また、年齢に関わらず、院長が病気や怪我で長期にわたり診療ができなくなれば、クリニックの収益は即座に途絶えます。仮に勤務医を雇用して診療を継続できたとしても、院長不在のままでは経営の舵取りが難しく、スタッフへの求心力も低下します。
自身の健康が、クリニックの存続を左右する最大のリスクとなり得るのです。こうした「事業主リスク」は、勤務医時代には意識することのなかった、開業医特有の重責といえるでしょう。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/22/dl/R04_toukeihyo.pdf
理由3:外部環境の変化
クリニック経営は、院内の努力だけではコントロールできない外部環境の変化からも大きな影響を受けます。
これらの変化に迅速かつ柔軟に対応できなければ、経営基盤は少しずつ揺らいでいきます。
制度の変更(診療報酬改定など)
2年に一度行われる診療報酬改定は、クリニックの収益に直接的な影響を与えます。これまで収益の柱であった診療行為の点数が引き下げられたり、算定要件が厳格化されたりすることで、収入が大幅に減少する可能性があるのです。
また、医療DXの推進やオンライン資格確認システムの導入義務化など、国が主導する医療政策の変更に対応するための設備投資やシステム変更が、新たなコスト負担となる場合もあります。
地域の変化(人口動態・競合状況)
開業当初は優良な立地であっても、時と共にその状況は変化します。
地域の人口減少や高齢化が進めば、ターゲットとする患者層が変化、あるいは絶対数が減少します。また、近隣に同じ診療科のクリニックや、大規模な医療モールが開業すれば、競争は激化してしまうでしょう。
自院の置かれた市場環境を定期的に分析し、提供する医療サービスや診療体制を状況に応じて見直していく考え方がなければ、時代の変化に取り残されてしまうリスクがあります。
閉院を回避するための選択肢とやむを得ない場合の手続き
経営面の壁やご自身の健康問題に直面し、「閉院」という言葉が頭をよぎった際、すぐに諦めてしまう必要はありません。
事業を継続させるための道筋や、築き上げてきたクリニックの価値を次代に繋ぐ方法は多く存在します。
ここでは、閉院以外の選択肢と、万が一閉院を選択せざるを得ない場合に必要な手続きを解説します。
閉院以外の選択肢としての第三者継承(M&A)
後継者不在などを理由に閉院を検討している場合、その解決策として「第三者継承(M&A)」が有力な選択肢のひとつとなります。
第三者継承とは、親族や従業員以外の第三者(他の医療法人や開業希望の医師)に、クリニックを売却・譲渡することです。
閉院は、単にクリニックがなくなるだけではありません。通院していた患者さんは新たな主治医を探さなければならず、長年共に働いてきたスタッフは職を失います。
第三者継承は、これらの問題を解決し、多くの関係者にとって有益な結果をもたらす可能性があります。
| 関係者 | 第三者継承(M&A)によるメリット |
|---|---|
| 後継者(譲受側) | 患者やスタッフを引き継いだ状態で開業できるため、事業が早期に安定する新規開業に比べ、初期投資を抑えられる傾向がある。 認知度のある状態で開業できるため、集患の負担が少ない。 |
| 院長(譲渡側) | 創業者利益(譲渡対価)を獲得でき、引退後の生活資金を確保できる。 煩雑な閉院手続きや原状回復工事の負担から解放される。 自身の築いたクリニックと医療が地域に存続することへの安堵感。 |
| 患者 | 慣れ親しんだ場所で、継続して医療サービスを受けられる。 カルテが引き継がれるため、スムーズな診療移行が期待できる。 |
| スタッフ | 雇用が維持されるケースは多く、特に法人譲渡の場合は原則として引き継がれるため、失職のリスクを回避できる。 新たな院長の下で、引き続き地域医療に貢献できる。 |
DtoDコンシェルジュでは、長年の実績とネットワークを活かした「医院継承支援」サービスを提供しております。閉院を決断される前に、ぜひ一度ご相談ください。
やむを得ず閉院する場合の手続き
様々な事情により、やむを得ず閉院を決断した場合、院長は多岐にわたる法的な手続きと関係者への対応を、責任を持って行わなければなりません。
閉院決定から完了までには、少なくとも半年程度の期間を要するのが一般的です。
以下に、閉院に際して必要となる主な手続き・対応を時系列で示します。
| 時期の目安 | 対応事項 | 主な内容・注意点 |
|---|---|---|
| 6ヶ月~4ヶ月前 | 閉院の意思決定と関係者への相談 |
|
| 3ヶ月~2ヶ月前 | スタッフへの告知と退職手続き |
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| 患者・関係機関への告知 |
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|
| 閉院後10日以内 | 行政への届出(開設関連) |
|
| 閉院後 | 各種手続きと整理 |
|
これらの手続きは非常に煩雑であり、一つでも漏れがあると後々トラブルに発展する可能性があります。閉院を決断した場合でも、専門家の支援を受けながら計画的に進めることが極めて重要です。
「閉院しないクリニック」を創るために開業前にすべきこと
ここまで閉院の原因や選択肢について解説してきましたが、最も重要なのは「いかにして閉院という事態を避けるか」です。
閉院リスクの多くは、実は開業前の準備段階でその芽を摘むことができます。
ここでは、持続可能なクリニックを創るために、開業前に必ず取り組むべき3つの要点について解説します。
データに基づいた、精度の高い事業計画の策定
開業の成功は、精度の高い事業計画にかかっていると言っても過言ではありません。「長年の経験から、これくらいの患者数は見込めるだろう」といった希望的観測や感覚に頼った計画は、経営不振の第一歩です。
重要なのは、客観的なデータに基づいた事業計画を策定することです。特に「診療圏調査」は必須です。これは、開業候補地の人口動態、年齢構成、昼夜間人口、競合クリニックの状況などを詳細に分析し、その地域にどれだけの潜在患者が存在するかを科学的に予測する調査です。
この調査結果を基に、以下の項目を含む、具体的で実現可能な事業計画を作成します。
- 収支計画:1日あたりの想定患者数、診療単価から売上を予測し、人件費、家賃、医薬品費などの経費を差し引いて、現実的な利益をシミュレーションします。損益分岐点を正確に把握することが重要です。
- 資金計画:自己資金と借入金のバランスを考慮し、無理のない返済計画を立てます。特に、開業当初は収入が安定しないため、少なくとも3〜6ヶ月分の運転資金(キャッシュ)を確保しておくことが生命線となります。
- 人員計画:クリニックの規模と想定患者数から、必要なスタッフの人数と人件費を算出します。
こうした経営計画を綿密に練り上げることで、開業当初の集患が伸び悩んだ場合や、突発的なコストが発生した場合でも、慌てずに対処できる経営体力を確保できます。
コンセプトを明確にした集患戦略
良い医療を提供してさえいれば自然と患者が集まる時代は終わりました。数多くのクリニックの中から自院を選んでもらうためには、明確なコンセプトに基づいた戦略的な集患活動が開業前から不可欠です。
まず定めるべきは、「どのような患者さんに、どのような医療価値を提供したいのか」というクリニックの核となるコンセプトです。
- 専門特化型:「働く世代のメンタルヘルス専門」「アスリートのスポーツ整形外科」など
- 利便性追求型:「駅直結で夜間・土日も診療」「オンライン診療に完全対応」など
- 地域密着型:「ファミリー層のかかりつけ医」「在宅医療にも注力」など
このコンセプトが、クリニックの全ての活動の指針となります。コンセプトが明確であれば、それに合わせた内装デザイン、導入する医療機器、そして集患戦略が決まります。例えば、Googleマップでの検索対策(MEO)を徹底し、公式LINEからの予約・問診を可能にします。さらに、特定の症状や悩みを検索する潜在層に向けたリスティング広告を展開する、といった具体的な施策に繋がります。
開業当初の患者数が伸び悩むという問題は、このコンセプト設計と事前の集患戦略の不足に起因することが多いのです。
専門家と共に行うリスクマネジメント
クリニック経営には、診療以外にも財務、労務、法務、そして院長自身の健康問題など、多様なリスクが常に存在します。これら全てのリスクを、多忙な診療の傍らで先生お一人が管理することは現実的ではありません。
閉院しないクリニックを創るためには、開業準備の段階から、各分野の専門家とパートナーシップを組み、盤石なリスクマネジメント体制を構築することが重要です。
| リスク領域 | 連携する専門家 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 経営・財務 | 開業コンサルタント 税理士 |
事業計画の策定支援、資金調達の助言、キャッシュフロー管理、節税対策 |
| 人事・労務 | 社会保険労務士 | 就業規則の作成、雇用契約、給与計算、労務トラブルの予防・対応 |
| 法務 | 弁護士 | 契約書のリーガルチェック、患者とのトラブル対応、医療法規の遵守 |
| 院長の健康 | ファイナンシャルプランナー | 定期的な健康診断、万が一に備えた所得補償保険や生命保険への加入 |
これらの専門家を個別に探し、連携を依頼するのは大変な労力を要します。実績のある開業コンサルタントは、これらの専門家との強力なネットワークを有しており、各専門家と連携しながらプロジェクト全体が円滑に進むよう支援する役割を果たします。
DtoDコンシェルジュでは、事業計画の策定から集患戦略、そして専門家のご紹介まで、開業準備のあらゆる段階で先生をサポートし、閉院リスクを最小化するための最適な道筋をご提案します。ぜひこちらのページからご確認ください。
まとめ
本記事では、クリニックが閉院に至る原因から、回避するための選択肢、そして「閉院しないクリニック」を創るための開業前の準備について解説しました。
クリニック閉院の主な理由は「経営不振」「院長の高齢化・健康問題」「外部環境の変化」に集約されます。しかし、これらの課題に対しては、「第三者継承(M&A)」という未来に繋ぐ選択肢も存在します。
そして、最も重要なことは、開業前の準備段階でこれらのリスクを徹底的に洗い出し、対策を講じることです。データに基づいた精度の高い事業計画、明確なコンセプトに基づいた集患戦略、そして専門家と共に行うリスクマネジメント。この3つが、持続可能なクリニック経営の礎となります。
クリニック開業は、先生の想いを形にする素晴らしい挑戦です。その挑戦を成功に導き、地域医療に長く貢献し続けるために、ぜひ信頼できるパートナーと共に、万全の準備で臨んでいただきたいと思います。

























