
医院を譲り受けたい継承開業

医院を譲りたい医院譲渡・売却
継承開業ガイド
継承開業とは?
すでに開業しているクリニックを譲り受ける開業スタイル

いつかは自分のクリニックを開業したい…そんな夢を持っている医師の方も多いと思います。ところがクリニックの新規開業は、一朝一夕にはいかないのも事実。土地や建物、内装、医療機器にかかる高額な費用はもちろん、集患やスタッフの確保も一から始めるとなると、それにかかる広告費も軽視できません。また、開業当初はある程度余裕を持った運転資金も用意したいところで、新規開業にはコストの問題に悩まされる場面が多くあります。
また、開業当初はある程度余裕を持った運転資金も用意したいものですが、新規開業ではコストの問題に悩まされる場面が多くあります。
そんななか、今、1つの開業スタイルが注目されていることをご存じでしょうか。それが、自分で一からつくり上げるのではなく、既存のクリニックを譲り受け、新たなクリニックとして開業する「継承開業」というスタイルです。クリニックの閉院を考えている医師に対価を支払い、譲り受けるわけですから、建物の建設費用や内装費用だけを考えても、初期投資を抑えた開業が可能となります。
継承開業のメリットはコスト面にとどまりませんが、実際に既存のクリニックを継承して開業するにあたっては、後のトラブルを避けるために気をつけるべきポイントもあります。起こりうる課題を理解したうえで、クリニックを譲る側と引き継ぐ側、そして利用者である患者さんがそれぞれにメリットを得られる継承開業を行いたいものです。
ここでは、継承開業が注目されている背景から、開業に際して知っておきたいことまで、詳しく紹介していきます。
継承開業は時代にあったスタイル
開業医の高齢化
継承開業は時代にあった開業スタイルとも言えます。背景にあるのは医師、とくに開業医の高齢化です。
厚生労働省(以下、厚労省)のデータによると、1975年のクリニックの開設者・勤務者の平均年齢は54.4歳でしたが、2022年には60.4歳に上昇しています。深刻なのは年齢の内訳です。およそ50年前には30%に満たなかった60歳以上の割合は44.5%に増加し、そのうち70歳以上のみの割合をみると、9.1%から18.8%に増加しているのです。
勤務医と違い、開業医には定年がありません。体力が続く限り、生涯現役で奮闘している開業医がいる一方で、ハードな日々の業務に引退を考える医師も少なくありません。なかには自身の健康面の問題などから、事業の継続が難しくなる場合などもあるでしょう。子どもや兄弟など、身内に後継者がいればよいのですが、そうした背景がある医師ばかりではありません。開業医の高齢化が進んでいくなか、引退を考えながらも「(閉院したら)患者さんやスタッフはどうなるのか」という思いから診療を続ける開業医の割合は、今後一層増えていくことが考えられます。
医療費増加と医師増加
「継承開業」は、日本の医療が直面している課題を解決する意味でも注目の開業スタイルと言えます。
日本の医療費は2024年度には概算で48.0兆円を記録しました。この背景には、急速な高齢化や医療技術の高度化などがありますが、なかでも高齢化は世界でも比類のないスピードで進んでいます。
65歳以上の高齢者の人口は増え続けており、総人口に占める割合は2024年には29.3%になりました。国民医療費も約60%を高齢者医療費が占めています。その一方で、少子化の波も押し寄せ、生産年齢人口の減少に歯止めのかからない状況が生まれています。2025年現在は2人の働き手で1人の高齢者を支えており、2070年ころには、この比率が1.3人程度まで落ちると予測されています。日本の医療保険制度が根幹から揺らいでいるのはご存じのとおりです。
こうしたなか、国が2014年に打ち出したのが、「地域医療構想」を中心に据えた医療提供体制の見直しです。限りある医療資源を有効に活用し、切れ目ない医療・介護サービス体制を構築することを目的としたもので、実際、厚労省「医療施設動態調査・病院報告の概況」によると2015年から2024年の10年間で、病院数は8,480から8,060施設に減少し、病床数も156万5,968床から146万9,845床と減少の一途をたどっていることがわかります。
一方で、医師数についてはどうでしょう。2008年以降、医学部の定員は毎年、増員されており、医師は年間8,000人のペースで増加しています。病院数が減る一方で医師数が増加することで勤務医のポストが不足する事態が生じるなど、現在の勤務医の環境は、必ずしも恵まれた状況にあるとは言えません。
そうしたなか、地域や個々の患者さんにより向き合える医療を行いたい、専門分野の医療を地域の人々に提供したいなどといった強い思いを持ち、開業医を目指す勤務医も増えてきています。
このような背景から、開業医の競争もまた激化しています。しかしながら、国の打ち出した「地域医療構想」に柔軟に対応し、地域医療を推進するクリニックを目指すことは、現在の日本の医療体制が抱える課題を克服する手立てとなりえます。介護事業とのコラボレーションや在宅医として地域に溶け込んだ医療が展開できれば、開業医間の競争に勝ち残ることもできるでしょう。
とはいえ、新規開業で地域に溶け込むのはやはり簡単なことではありません。そこで、すでに地域に根付いたクリニックを引き継ぐ「継承開業」という形が活きてくるのです。
事業譲渡について
新規開業と異なり、継承開業には事業を継承するための特有の流れがあります。
継承開業には、土地・建物のほか、使用可能な医療機器、既存の患者さんやスタッフまで引き継げるというメリットがある反面、時には法務上・財務上のリスクまでも受け継ぐことになります。このため、譲る側(閉院側)について事前に調査することが非常に大切ですが、引き継ぐ側の医師が自ら調査を行うことはなかなか難しいものです。そのようなときは、信頼できるコンサルタントを活用することをお勧めします。
立地や建物、診療方針などについて、ある程度自分の思う通りにしやすい新規開業に比べると、継承開業の場合、多少の制約がでてくることは否めませんが、開業を決意したら、経営方針や理念、開業場所の希望、診療方針について明確にしておくのは新規開業と同じです。患者さんを引き継ぐ以上、前院長の方針をまったく無視することはできませんし、診療方針の急激な変更によってせっかく引き継いだ患者さんが離れていく可能性もあります。できるだけ譲る側と引き継ぐ側の考えや意向が合致した施設を継承することが好ましく、そのためには継承元の施設の見学や当事者間の話し合いを綿密に行い、お互いの意に沿った継承条件を決めていくことが求められます。
4,600件を超える開業支援実績を通して確かなノウハウを培ってきた総合メディカルは、豊富な継承開業物件情報を有し、最適な相手とのマッチングや事業譲渡に必要な契約手続きなど、開業支援のプロだからこそできる、きめ細やかなトータルサポートを行っています。開業を決意した日から継承決定まではもちろん、開業後に至るまで、譲る側の医師、引き継ぐ側の医師、双方の頼れるパートナーとして、スムーズな継承開業をサポートします。
継承開業のメリット
それでは改めて、継承開業のメリットをまとめてみることにしましょう。大きくは次の3点が、新規開業とは異なる継承開業ならではのメリットと言えるでしょう。
低コストでの開業が可能で、リスクが少ない
継承開業の大きな魅力の1つは、低コストでの開業が実現できるという点です。
建築にかかる費用のほか、医療機器についても使用可能なものを引き継げる場合があり、初期費用を大きく抑えることができます。
総合メディカルの支援実績では、建築費、土地代、器械費、運転資金を合わせると、新規開業に比べて継承開業では平均で3,400万円もコストを抑えることができています。
患者さんも引き継げるため、事業の立ち上がりが早い
新規開業の場合、最大の心配の種はゼロから始める集患かもしれません。開業を告知する広告も必要となり、その出費も軽視はできません。その点、地域の住民にとってすでに馴染みのあるクリニックを引き継ぐ継承開業は、認知度において大きなアドバンテージとなり、一定数の患者さんをあらかじめ見込んでスタートを切ることができるという安心があります。新たに事業を始めるうえで、開業当初から収入を見込めるのは大きな魅力です。
また、クリニックのスタッフについても、地域や患者さんを熟知しているスタッフを引き継ぐことができれば、大きな財産になるでしょう。
開業までの準備期間を短くできる
継承開業は、開業を決意してから開業するまでの工程が新規開業に比べて少ないことも特徴の1つです。地域や個々の患者さんに向き合った医療を提供したい、自分の専門領域の医療を地域に届けたいという思いで開業を決意しても、新規開業の場合、開業場所の選定、土地取得、建物建築などの準備に期間を要し、時に慣れないやりとりに思わぬ労力を使うことになりがちです。継承開業ならば、継承元が見つかれば、短い準備期間で自分の理想の医療を実践するクリニックを開業することができるのです。
- その他のメリット
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- 継承元の実績があるので、融資が受けやすい場合がある
- 医師会への入会が比較的容易である
- 病床を引き継げる場合がある
医院継承の流れ
医院継承は、地域医療の継続に欠かせないステップです。継承の目的や条件を整理し、仲介会社や税理士などの専門家に相談します。その後、秘密保持契約を結び、マッチング、面談・見学を経て、条件交渉と基本合意に至ります。買収監査でリスクを確認して、最終契約を締結し、保健所への届出や診療引き継ぎを行い、経営を移行します。開業意志決定から引き継ぎまでは通常1年〜1年半。成功には早めの準備と専門家の支援が欠かせません。
診療方針の確立
医院継承時には、診療方針の確立がとても重要です。先代の理念や地域ニーズ、スタッフ構成と役割を把握し、新院長の理念を整理します。「何をしたいか」より、「誰にどのような医療を提供したいか」を重視し、理念、ミッション、ビジョンを設定します。患者離れを防ぐために急激な方針変更は避け、段階的な導入が望まれます。スタッフとの十分な対話を通じて方針を共有し、チーム医療の質を高めることも重要です。地域に根ざした医療を継続するために、他の医療機関との関係維持を考慮することも必要です。
経営基本計画の策定
継承後の安定した経営のために経営基本計画の策定が不可欠です。地域医療ニーズを分析し、ターゲット患者の明確化や競合医療機関の分析、自院の強みと差別化ポイントを整理します。次に、人員体制、診療時間、医療設備など運営面の方針を決めます。さらに、収支予測や資金計画を立て、開業初期の経済的リスクに備えることも重要です。理想だけでなく、実現可能性を重視し、売り上げや費用は根拠のあるデータで裏付けし、金融機関等が納得できる内容にすることが大切です。
開業地の選定
開業地選定は、成功を左右する重要な要素です。開業する診療科に応じた地域ニーズの把握が必要で、小児科であればファミリー層の多い地域、内科や整形外科であれば今後高齢人口が減少に転じない地域が適しています。競合医院の有無や患者のアクセス性(駅からの距離、駐車場の有無など)も重要です。将来的な人口動態の変化や再開発計画なども考慮しましょう。曜日や時間帯を変えて現地を複数回歩いて観察したり、不動産業者にヒアリングしたりするなど、現地の状況を実感することも欠かせません。
継承開業の場合、継承予定クリニックの立地や商圏の将来性を把握し、競合状況の分析と差別化ポイントの明確化、地域住民のニーズと診療内容の整合性の確認などが必要です。
事業計画の策定
事業計画は、開業の目的や理念を明示し、地域ニーズに合った診療方針を示します。次に、開業場所の診療圏調査結果を踏まえた患者数予測や、収支計画を具体的に記載します。初期投資費用(設備・内装・人件費など)と、開業後の運転資金も明確にし、資金調達の根拠を示すことが重要です。また、人員配置や集患戦略、リスク対策も盛り込み、持続可能な経営を支える実現可能な計画書を目指します。
将来の機器入れ替えを見据えた計画も必要です。既存クリニックの医療機器一覧表を作成し、各機器の導入年、メーカー、型番、保守状況、減価償却状況を確認した上で、法的・技術的耐用年数を把握し、計画を立てましょう。
現在の患者数をベースに、「地域人口×受療率」で患者数を予測し、1日あたりの来院数、診療単価、売り上げを試算します。政府や地方自治体の統計資料、医療機関検索サイトなどのデータを活用することで、試算の精度を高めましょう。
銀行の選定と交渉
医療分野に理解のある金融機関を選ぶことが重要です。過去の医療案件実績や担当者の知識を確認し、複数行と交渉し、金利や返済条件を比較することが望ましいです。銀行は、返済可能性を重視するため、収支予測を具体的に示した事業計画書を準備します。特に初年度の患者数予測や利益率は現実的なものにします。自己資金の割合が全体の2割から3割あると、経営に対する本気度が高いとみなされ、融資審査が通りやすくなります。担当者には経営ビジョンをしっかり伝え、信頼関係を築くことも大切です。
継承開業の場合、既存患者や売り上げの実績があるほか、スタッフや設備が整っているため、初期投資額が少なくなる傾向が多いです。また、特に地方では医療の継続という社旗的意義が高いため融資が受けやすい場合があります。
借入に対するリスクヘッジ
現実的な収支計画を立てることが重要です。過度な設備投資や患者数予測は避け、保守的な見積もりを心がけます。生活費や運転資金を確保した上での借入額設定が必要で、開業初期は収入が安定しないため、余裕を持った資金繰りが求められます。月次の資金繰り表を作成して、キャッシュフロー管理を徹底するとともに、代表者の死亡や病気に備え、団体信用生命保険などの加入も検討します。資金調達先は1行依存を避け、資金調達の選択肢を広げます。
医療管理の諸規定策定など
医療安全管理規定、感染対策規定、個人情報保護規定、災害・緊急時対応規定、医薬品・医療機器管理規定、職員行動規範・倫理規定など、法令で義務付けられた項目を確実に整備しましょう。厚労省や医師会のホームページなどで法令やガイドラインを確認して院内体制に合わせた規定案を作成し、スタッフとの意見交換や研修を行います。規定は形骸化しないよう、定期的な見直しやスタッフへの周知・教育を徹底します。
継承開業の場合、規定はあっても時代に合っていない場合もあります。前医院の規定をそのまま踏襲せず、見直すことも必要です。
開業手続き
医院開業時は、診療所開設届の提出、保険医療機関指定申請、施設基準、医師会・関係機関への加入、労働保険・社会保険の加入などの手続きが必要で、計画的な対応が欠かせません。医師会加入により、保険診療に関する説明会や勉強会の機会がえられるほか、検診や予防接種の受託など患者層を広げることも可能です。また、継承開業の場合は新規開業とは異なった届出、申請もあり、継承元との足並みをそろえることも必要です。必要書類の準備や行政手続きは専門家に相談するのも有効です。
親子間継承のポイント
親子間の事業継承の計画は数年前から立て、継承時期や役割分担、継承後のビジョンなどを親子間で明確にすることが必要です。親の急逝で子が対応できず、医院経営が混乱するケースも少なくありません。相続税対策も生前贈与や事業承継税制を活用し、数年単位の計画的な準備が必要です。親の死亡時点で医院に高い資産価値があると、子が相続税の納税資金を用意できず経営困難になることもあります。医療法人でも出資持分のある「持分あり医療法人」の場合、出資持分に相続税が課されます。出資額以上の評価がつくことも多く、高額な税負担となるため注意しましょう。また、理事の交代や定款の見直しなど、法的手続きも必要になります。
親子で専門分野が異なる場合は継承目的の明確化が重要です。現状の医院を継続するのか、後継者の専門に合わせリブランディングするのか、親子間で方向性の共有が欠かせません。親が経営に過度に関与し続けることで親子間の感情的な対立を生むこともあるため、継承前に十分な話し合いが必要です。親子間のコミュニケーション不足はスタッフの不信感を募り、組織の崩壊につながることもあります。スタッフや患者に対しても、診療科の変更や運営方針の転換について丁寧な説明と周知が重要です。医療の専門性は信用と直結しているため、信頼関係を損なわない工夫が欠かせません。
よくあるご質問
継承開業というスタイルが少し見えてきたでしょうか。ここでは、継承開業に関するよくある質問を紹介します。
継承元と価格条件などが合わなかった場合はどうすればよいですか?
価格条件交渉時の例として、継承開業は、引き継ぐ側が、譲り受けるものの対価を継承元に支払うことで契約が成立します。 引き継ぐ側としては初期投資をできるだけ抑えたいという思いがあり、譲る側からすれば愛着のあるクリニックを第三者に引き渡すわけですから、両者の思う価格が釣り合わないという事態も十分に起こりえます。
当事者同士では言い出しにくいことや、度重なる交渉に疲弊して、関係性が険悪になったり、交渉が難航してしまったりすることは、珍しくありません。
また、仮に、譲る側と引き継ぐ側が個人経営と医療法人などで経営形態が異なる場合、当事者間だけでは扱いの難しい問題がでてくることもあります。
こうした煩雑な交渉に関しても、総合メディカルが間に入って仲介することで、双方が納得できる形でのスムーズな継承が可能になります。
施設の老朽化が著しい場合は、どうすればよいですか?
設計・施工を専門とするグループ会社が、増改築や改修をご提案します。
自分の思う通りにデザインした新築の施設で開業できる新規開業と異なり、既存のクリニックを譲り受ける継承開業では、築年数の経った物件を引き継ぐことになるケースもあります。老朽化の目立つ部分の改修や内装の整備が必要になることがありますが、その場合にも、グループ会社で医療・介護施設の企画・設計・施工を専門とする総合メディカルの「株式会社ソム・テック」がお手伝いいたします。
土地や建物の新規取得から始める新規開業と比較して、低コストでクリニックを引き継ぐことのできる継承開業だからこそ、設備や内装だけはこだわりたい、あるいは診察室の動線などの気になる部分だけ、自分の使いやすいように改装したい、など、さまざまなご要望をぜひお聞かせください。
いつかは開業したいと考えていますが、どのような形式がありますか。
大きく分けて、新しく不動産を購入または賃貸契約する新規開業と、既存の診療所を売買または賃貸契約によって引き継ぐ継承開業があります。
新規開業には戸建て、建て貸し、テナント型(ビル診)、クリニックモールのタイプがあり、継承開業は引き継ぐ診療所の形式によります。
新規開業と継承開業それぞれの特徴を教えてください。
新規開業のメリットは、建物などハード面、診療内容などソフト面ともにご自身の理想とする開業イメージをダイレクトに実現できることです。一方で、投資額が大きいうえに、患者さんを集め、経営が安定するまでには時間がかかる場合もあります。
継承開業の場合は、患者さんを引き継ぐことができれば、立ち上がりから一定の収入を見込めます。診療所が地域ですでに認知されていることも大きなメリットです。コストに関していえば、例えば内装をリフォームした場合、新規に比べて費用を抑えることができます。継承物件の見極めや契約内容の精査、書類の届出等にあたっては、それぞれに留意すべき点がありますので、継承開業の支援実績が豊富な総合メディカルに相談されることをおすすめします。
開業を考えていますが、自己資金がありません。
近年の傾向として、金融機関は医療機関への融資に積極的です。そのため、自己資金が貯まるまで待つよりも、自分の希望する物件が見つかったタイミングで決断されることをおすすめします。自己資金はあるにこしたことはないのですが、いざ資金が貯まったタイミングでいい物件が見つかるとは限りません。また、継承開業は初期のコストが抑えられ、立ち上がりから安定が見込めるため、金融機関からの評価もより高いといえます。
開業に適した場所がなかなか見つかりません。
都市部ではすでに多くの競合となる診療所がありますので、開業に適した場所を見つけることが難しく、決めきれないうちに何年も過ぎてしまった、という話もよくうかがいます。継承開業であれば、今ある診療所を引き継ぎますので、年月の経過による地域性の変化は考慮する必要がありますが、診療所に適した場所で開業することができます。
現在の勤務先から離れた場所での開業を考えているので、医師会や地域の医療機関との連携が気になります。
医師会との関係は科目によっても異なりますが、継承開業の場合、診療内容を引き継ぐことが評価され、スムーズに入会できる傾向にあります。他の医療機関との連携は、開業する先生ご自身の働きかけによって築いていくことができます。
診療所の継承開業にはどのくらいの期間がかかりますか。
譲る先生のリタイア時期や物件の状態にもよりますが、すでに建物があるため、早いものでは契約合意して3か月で開業、というケースもあります。とはいうものの、現在の勤務先を退職する際に、医局への通知や後任医師の招聘で思いのほか手間取ることもありますので、4~6か月程度が妥当でしょう。それでも、一般的にテナントでの新規開業の場合は不動産契約してから6か月、建物から建てる場合は1年くらいかかることから、比較的短期間で開業できるといえます。
専門科が異なる診療所の継承も可能ですか。
多くはありませんが、可能性はあります。専門が同じ先生の場合は患者さんを引き継ぎやすく、継承開業のメリットを最大限活かすことができますが、過去には、神経内科を専門とする先生が、整形外科を中心としたプライマリーの診療所を引き継ぐため、継承前に診療をともにしながら整形外科的な手技を習得したケースもあります。また、ある程度割り切って、開業する場所と建物を引き継ぐ、という考え方もあります。
建物や内装の老朽化が気になります。
建物の耐震性などは契約前にきちんと確認しましょう。内装はリフォームによってかなり印象を変えることができます。患者さんの目に留まりやすい、待合スペースのソファーやカーテンを変えるだけでも効果的です。化粧室のバリアフリー対応も必要となります。
スタッフを引き継ぐ場合に注意すべき点は何でしょうか。
スタッフについては、継承元や本人の意向もありますが、人柄や雇用条件、退職金の処理など、契約内容を整理し書面にまとめて、認識を共有しておくことが重要です。退職者がいる場合は新規のスタッフを採用する必要があります。
開院中の診療所と閉院してしまった診療所では引き継ぐ場合にどのような違いがありますか。
閉院してから時間が経つと、患者さんは他の医療機関を受診しますし、スタッフの雇用継続も難しくなります。継承元の先生のリタイア時期と引き継ぐ先生の退職時期とのタイミングを合わせることが理想的です。
気をつけるべきこと
さて、新規開業に比べて、①低コストで、②集患の心配も少なく、③準備期間も短くてすむというメリットを持つ継承開業ですが、これらのメリットを享受するために気を付けるべきポイントがあります。
継承元であらかじめ勤務をし、経営理念や診療方針を事前に確認する
継承するクリニックを利用している患者さんの傾向や、譲る側との経営理念の違いや共通点を十分に確認しておくことは、非常に大切なポイントです。
譲る側はこれまで提供してきた医療サービスに愛着や自負があり、できることなら理念も引き継いでほしいと思っているかもしれません。そうでないにしても、院長が代わった途端に診療方針を一変してしまったら、患者さんが一番戸惑うことになります。開業を志す以上、自分のクリニックの構想や理念はぜひとも持つべきではありますが、患者さんをも引き継ぐという観点からは、前院長の経営理念、診療方針をまったく無視することはできません。そこで、継承開業する前に継承元であらかじめ勤務をし、事前に準備を進めていくことがスムーズな継承につながります。
連携のとれる医療機関/地域の関係機関とのつながりを構築しておく
入院手術や精密検査が必要な場合など、時にクリニックだけでは治療を完結できない患者んもいます。そのようなときに、病診連携は開業医にとって不可欠なことです。それまで勤務していた病院や医局は最も身近な存在となりえますから、円満に退職し、開業後にいつでも頼れる関係を築いておくことが大切です。
また、勤務医時代よりも地域の医師会などとのつながりも強くなります。前院長の認知度が高い継承開業の場合、新規開業よりも医師会への入会はスムーズに進むことが多いですが、開業前から少しずつ医師会などとも良好な関係を築いておくことが勧められます。
スタッフの引き継ぎや雇用は慎重に検討を
前院長の元で働いていた医療スタッフは、地域や患者さんについても熟知しており、引き継いで雇用できれば心強い存在になります。とはいえ、人と人との付き合いには相性もあり、引き継ぐ医師とスタッフとの関係がうまくいくとは必ずしも限りません。勤務時間や賃金など、雇用条件の見直しが必要になる場合もあります。
そのためにも、面接で新たなクリニックの理念や診療方針を説明し、理解や合意を得たうえで雇用したほうが、後のトラブルを防ぐことにつながるでしょう。経営者にとって雇用は非常に重要な課題です。場合によっては、新たなスタッフと共に一からスタートしたほうが円滑に進むこともあります。ぜひとも慎重に考えたい部分です。
診療方針の刷新は、患者さんの声を聞きながら時間をかけて
継承開業のメリットを享受するためにも、土地や建物、医療機器など引き継げるものは極力譲り受けたほうが賢明です。なかでも患者さんの引き継ぎは継承開業の大きな魅力ですが、地域に強く根付いていたクリニックほど、院長交替後の“患者離れ”には気を配らなければなりません。引き継いだ患者さんを失わないためにも、開業してしばらくは前院長の診療方針を意識し、患者さんの声を聞きながら、時間をかけて少しずつ自分の色を出していくようにすることが、継承開業成功の秘訣です。