【第2回】医師のSNS発信――炎上を起こさないために
【第2回】医師のSNS発信――炎上を起こさないために
SNS発信は医師にとっても日常になった。たとえば学会報告の共有、医療情報の啓発、診療上の所感まで、勤務医が個人アカウントで発信する光景はもはや珍しくない。だが、その何気ない一投稿が「医師の公式見解」として独り歩きし、フェイク情報の補強に使われたり、炎上の火種になったりすることがある。第2回は、医師のSNS発信に潜む構造的なリスクと、炎上を起こさないための視点を整理したい。
医師の一言は「肩書き」を背負っている
医師アカウントの発信は、一般ユーザーの投稿より重く受け止められる。肩書きがSNS上で強力な「権威」として機能するからだ。本人が「個人的な感想です」と書き添えても、受け手は「医師が言うなら」と受け取り、投稿をリポストする。
前回述べたように、人は肩書きや見た目に判断を肩代わりさせる。とりわけ医療情報の領域では、その傾向が強い。軽い気持ちの投稿が、「医師の公式見解」として切り取られ、フェイク情報の正当化に流用される。本人が後から修正しても、最初の発言だけが拡散し続ける。継続影響効果が、医師の発信ではとりわけ強く働く。
炎上は驚くほど少数から始まる
ここで読者である医師の方々にぜひ知っておいてほしいのが、炎上の「規模感」の実態である。私が2020年に起きた炎上22件を抽出して分析したところ、炎上1件あたりでX上にネガティブな投稿をしていたアカウントは、ネット利用者全体の約40万人に1人(0.00025%)にとどまっていた。これは、実際にXへ投稿されたデータをテキスト分析で仕分け、ネガティブな投稿をしていたアカウントの数を数え上げて、その実数をネット利用者数と突き合わせて算出した値(22件の中央値)である。
それにもかかわらず炎上が「世論」に見えるのは、拡散の連鎖による錯覚である。ネガティブな投稿は注意を引きやすく、リポストやシェアを通じて広がる。インフルエンサーやまとめサイト、そしてメディアが加われば、少数の声が多数派の意見のように映る。当事者からは社会全体に責められているように感じられるが、実態は、ごく少数の投稿が増幅された結果だ。しかしその社会的影響は非常に大きい。
医師に起きやすい炎上パターンとは
実際の医療現場で繰り返し起きている炎上には、いくつかの典型がある。
まず問題になりやすいのは、患者情報の漏えいである。電子カルテ画面や患者画像をSNSに投稿した事例では、2026年に入ってからも複数の医療機関が公式に謝罪している。「氏名を伏せたから」「鍵アカだから」は通用しない。受診日・診療科・地域・症状の組み合わせから個人は特定される可能性がある。
手術室や研修現場での「記念写真」も繰り返し炎上している。手術中の医師の脇でピースサインをした集合写真、術後の達成感をそのままSNSに上げた一枚――本人たちは記念のつもりでも、患者側からは「自分の手術中にこれをやっていたのか」と受け止められる。2024年12月には、美容外科医が海外でのカダバートレーニング(人体解剖研修)の様子を投稿し、SNS上の批判に留まらずNHKや各種メディアに報じられる事態に発展した。「モザイクをかけたつもりだった」という弁明は、論点が違うとしてかえって二次炎上を招いている。
もう一つの典型が、診療室外での軽口だ。「最近のクレーマー患者」「○○な患者」といった愚痴は、書いた側にとっては仲間内のガス抜きでも、SNSではあらゆる患者さんが「自分のことではないか」と感じる。匿名アカウントで、インシデント隠蔽や患者対応に関する不適切行為を示唆して炎上した事例も近年報じられている。職場や本人が特定されれば、医師個人だけでなく医療機関全体が炎上の対象になる。
医療情報そのものへの軽率な言及も危うい。標準治療への揶揄、ワクチンへの含みのある言い回し、自由診療や再生医療を「効果絶大」と謳う発信──いずれも医師が発したとなれば、フェイク情報側に都合よく切り取られて拡散する可能性がある。現行の医療広告等ガイドラインでは、誘引性・特定性に加え、医業や病院・診療所に関する内容である場合、医療広告に該当し得る。
対策は「投稿前の3秒」と「炎上時の沈黙」
対策の核心はシンプルだ。まず投稿前に3秒、「これは『医師の公式見解』として読まれて困らないか」と自問する。患者情報・院内情報は、間接的にも書かない。怒りや疲労を感じている時間帯には投稿しない。
そして万一、自分の投稿が炎上しはじめたとき。火を大きくするのは「2度目の発言」である。怒りに怒りで応じれば油を注ぐことになる。明らかな誤解やフェイク情報があるなら、感情を排して事実・訂正を出す。
医師の発信は、医療情報環境を左右する。勤務医、開業医に関わらず、その重みを自覚した発信こそ、フェイク情報への対抗手段になる。
■ 筆者プロフィール

山口 真一(やまぐち しんいち)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授
1986年東京生まれ。博士(経済学)。専門は計量経済学、社会情報学、情報経済論。NHKや日本経済新聞をはじめとして、メディアにも多数出演・掲載。KDDI Foundation Award貢献賞、電気通信普及財団賞など受賞多数。著書に『スマホを持たせる前に親子で読む本』『嘘で満ちていく社会』『炎上で世論はつくられる』など。内閣府「AI戦略専門調査会」を始めとし、総務省、厚生労働省、文部科学省、公正取引委員会などの様々な政府有識者会議委員を務める。