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序章 患者さんに向きあうこと

「父は自分の背中で、息子に人生を語る」と言うけれど…と、篠﨑俊郎(しのざきとしろう)は、その写真を目にするたびに思う。
「父は、患者さんに向きあう姿で、それを私に教えてくれた」
写真の中で、幼い患者さんに一心に向きあう在りし日の父。その慈しみの視線は温かい。差しだした手の先にまで医師としての意識は集中しているが、そこには緊張感ではなく、やわらかな空気があふれている。そして、少女を抱く母親の背に見てとれる信頼と安堵…。

「これが医療の原点だ。父が示した医師の姿なのだ」

医業継承をし、開業医となってすでに数年が経とうとしていた。父が最初に開業した「篠﨑整形外科」から、 その後の「澁江(しぶえ)整形外科」 そして、現在の「しのざき整形外科クリニック」と続いたこの診療所には、父の頃からの患者さんも少なくない。今日も、父のことを知る患者さんが、診療所を訪れた。話はおのずと父のことにおよぶ…。
「お父さんは本当に車が好きでしたね。新車が納車されると、どうしてもすぐに走ってみたくなるようで、その初ドライブに私も同乗させてもらいましたよ」 確かに、そういう子供みたいなところもあったが、父はまさに「患者さん第一」の医師だった。 家族には厳しい家長であったが、深夜の急診でも、おだやかで、丁寧な診察・治療は何ら変わることはなかった。 全身全霊で仕事に向かい、医師としての使命を全うしていた。
「私は、父の志をしっかりと継承できているだろうか」
俊郎は、いつも、そう思い返す。

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