耳鼻咽喉科の医院開業動向情報
耳鼻咽喉科クリニックの開業に必要な資金や注意点とは?

「耳鼻咽喉科クリニックを開業するには、どうしたらいいの?」
そういった疑問にお答えすべく、この記事では耳鼻咽喉科クリニックの開業について知っておきたい情報をまとめました。耳鼻咽喉科でのクリニック開業を失敗しないために、ぜひ参考にしてください。
耳鼻咽喉科クリニックが受ける少子高齢化の影響
耳鼻咽喉科は他の科と比べ「患者さんの年齢層が幅広い」という特徴があります。
総務省の「統計トピックスNo.145 我が国のこどもの数-「こどもの日」にちなんで-(人口推計から)」によると、2025年4月1日現在の子供の数(15歳未満人口)は前年に比べ35万人少ない1,366万人であり、1982年から41年連続の減少で過去最少となりました。少子化が進むと小児患者が減少するため、耳鼻咽喉科の収益減少にも繋がります。
一方で、総務省「統計トピックスNo.146 統計からみた我が国の高齢者 -「敬老の日」にちなんで-」によると65歳以上の高齢者人口は3,619万人と、前年(3,624万人)に比べ25万人増加しており、総人口に占める割合は29.4%と過去最高となりました。
総人口に占める高齢者人口の割合の推移を確認すると、1950年以降から上昇が続き、2005年には20%を超え、2025年は29.4%となっています。これは今後も上昇し、1971〜1974年の第2次ベビーブーム期に生まれた世代が65歳以上になる2040年には、35.3%になるとも言われています。
これから先、耳鼻咽喉科クリニックを開業して患者さんの数を維持するためには、専門分野や特定の患者層に特化して経営するといった対策が必要となるでしょう。
耳鼻咽喉科クリニックの開業の資金調達から収入・資金繰りまでのロードマップ
耳鼻咽喉科クリニック開業を考えるにあたり、まず問題となるのが資金面です。開業資金は大きくわけて「設備資金」と「創業資金」にわけられます。
「設備資金」はテナント契約費や医療機器・設備購入費などです。設計・内装工事費その他を合わせ約5,500万円から約1億3,000万円が必要で、テナント契約費は賃料の約3カ月分から12カ月分が見込まれます。また、「創業資金」は人件費やリース料、医薬品などです。耳鼻咽喉科クリニックの開業資金を項目ごとに簡単に解説していきます。
開業資金
開業資金の一例として、下記の項目が挙げられます。
耳鼻咽喉科クリニック開業に必要な設備資金
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| 項目(耳鼻咽喉科:テナント開業の場合) | 所要資金 |
|---|---|
| テナント契約費(保証金・敷金など) | 賃料の3カ月分~12カ月分 |
| 設計・内装工事費 | 2,000万円~5,000万円 |
| 医療機器・電子カルテ購入費 | 1,500万円~3,000万円 |
| 什器・備品購入費(待合設備、診察机など) | 100万円~300万円 |
| IT設備(PC、院内ネットワーク構築、オンライン予約、資格確認システムなど) | 50万円~250万円 |
| その他開業時諸費用(医師会加入、保険加入、広告・広報、医薬品購入など) | 150万円~800万円 |
| 開業前運転資金(賃料、人件費、手元資金など) | 1,700万円~4,000万円 |
耳鼻咽喉科の場合、ユニットの数やネブライザーの数、CTの設置の有無など、設備投資をどこまでおこなうかによって開業に必要な費用が大きく変わります。もし知り合いのクリニックがあれば、開業前に見学させてもらうと参考になるでしょう。
専門の医療機器は高価であり、中には保守契約が発生するものもあるため、最初からすべてを揃えると高額になってしまいます。どのような分野の診療をおこなうかによって揃えなければいけない機器も変わるため、開業時は必要最小限の機器で様子を見ながら、必要に応じて増やしていくのがおすすめです。
加えて耳鼻咽喉科では、検査や処置のために防音室が必要になります。一つの部屋として作るよりも備付型の防音室を購入するほうがコストは下がりますが、備付型の防音室は価格差が大きいため、事前に設備についての説明を受け、搬入と設置費用を含めた見積もりを比較しましょう。
また開業する場所に関して、クリニックのメインターゲットを子供の患者さんににするのであれば、駐車スペースも広く取れるような立地がよいでしょう。例えば、幼稚園・小学校の近くで、お迎えの後などに車で通院しやすい物件が望ましいです。一方で成人の患者さんをメインターゲットにする場合は、駅から徒歩圏内の立地にすると集患しやすいでしょう。
耳鼻咽喉科クリニックは子供から高齢者の方まで幅広い年齢層の人が来院します。そのため、外から見てもクリニックであることがわかりやすく、ビルのテナントであれば低層階であることが望ましいです。ベビーカーや車いすでも来院しやすいような広さの場所を検討しましょう。また午前中は高齢の方、午後や夕方は学校が終わった子供や仕事帰りの人が主な患者さんになると考えられるため、待合室の子供たちを飽きさせない工夫や患者さんをなるべく待たせない工夫、感染症対策を講じた部屋割りも必要です。
待ち時間短縮のためには、いかに医師の動線を短くするかも考える必要があります。医師が診察をしてそのままネブライザーや点滴などの処置や他の検査をおこなうこともあります。
開業後の運転資金
次に、運転資金としては、下記の項目が挙げられます。
耳鼻咽喉科クリニック開業後の運転資金
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| 項目(耳鼻咽喉科:テナント開業の場合) | 概算費用(月額) |
|---|---|
| 人件費 | 収入の20~25% |
| 医業原価(医薬品、消耗品など) | 収入の5~20% |
| 家賃・駐車場など | 立地、面積、設備等により異なる |
| 水道光熱費 | 10万円~30万円 |
| リース料 | 5万円~50万円(リース物件による) |
| その他諸経費(広告費、通信費、保険料、医師会費、租税公課など) | 20万円~65万円 |
開業前に資金計画を立て、無理のない経営を目指しましょう。従業員を必要以上に雇ってしまうと人件費が経営を圧迫してしまいます。開業時は最低限の従業員だけを雇用して、患者さんが増えてきたら従業員の数を増やすようにしましょう。耳鼻咽喉科クリニックの収入源や資金繰りについては、次の章で詳しく解説します。
耳鼻咽喉科クリニックの収入源と資金繰り
全国の「令和7年度保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表」を平均すると、「耳鼻咽喉科」がレセプト(診療報酬明細書)1件当たり787[準遠1.1]点で、「内科」の1,119点と比べて低くなっています。地域別で一番高いのは東京都の997点、一番低いのは長崎県の654点で約350点の差があります。
売上を向上させるため、点滴や耳鳴りの治療などの保険診療外の自由診療を取り入れているクリニックも多くあります。
幅広い年齢層から需要が高い診療科目とはいえ、開業してすぐの集患は難しいでしょう。開業初期は人件費などの費用を極力抑えたいところではありますが、円滑な診療をおこなうには医療事務員の雇用が必要です。診療体制を万全に整え、安心して受診できるイメージを保っておくことで口コミでの集患に繋がります。
厚生労働省の「第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査)報告 -令和5年 実施-」調査結果を確認すると、看護師1人を常勤で雇用する場合、平均で年間400万円の人件費が発生します。経験があり、子供と親の対応に慣れているスタッフ、高齢者の対応に慣れているスタッフを雇用したほうが経営は上手くいきやすいでしょう。
また言語リハビリができる個人クリニックは少ないため、言語聴覚士を雇用することで他院との違いをアピールすることもできます。開業当初から常勤で雇用することが難しければ、曜日や時間を限定しての雇用を検討してもよいでしょう。
個人開業と法人開業における収益
「医療経済実態調査(令和5年実施)」によると、耳鼻咽喉科の個人開業診療所の医業収益は7,810万円、医業費用は4,695万円で、損益差額は3,116円です。一方、法人開業診療所の医業収益は1億1,662万円、医業費用は1億325万円で、損益差額は1,336万円です。
個人開業に比べ法人開業の方が医業収益は高い一方、医療費用も高くなっています。事業規模は一般的に法人開業の方が大きいため、収益は高くなる傾向があります。また、院長給与に相当する役員報酬が費用として計上されるため、個人開業より費用が大きくなる傾向もあります。加えて、事業規模拡大に伴い各経費も増加することが多く、結果的に法人開業は医業収益も医療費用も個人開業に比べて高いことになります。
また、法人開業には法人設立や決算対応など、様々な手続きが必要ですが、法人化により節税効果を得られるほか、将来の事業継承が有利に働くことが多いというメリットもあります。分院化や業務範囲の拡大など経営計画によって、個人開業、法人開業の選択が必要です。
耳鼻咽喉科クリニック開業において注意すべき3つのポイント
実際に開業するときに注意すべきポイントは、以下の3つです。
- エリアマーケティング
- ホームページやSNSを活用した患者さんへのPR
- Webや電話の予約制度を導入し、待ち時間の短縮を図る
それぞれ解説していきます。
ポイント1:エリアマーケティング
耳鼻咽喉科を開業するにあたって、エリアマーケティングは非常に重要です。
開業を考えている地域の人口や競合医療機関の調査をおこない、ターゲットとなる患者さんの層を決めておくことが重要です。「子供向け」「高齢者向け」などターゲットを絞ることも、周りのクリニックとの差別化を図ることに繋がります。
例えば子供がいる家庭の母親をターゲットとした場合、幼稚園・保育園・商業施設の前などに広告を展開したり、地域のフリーペーパーに広告を展開したりするのが効果的です。
ポイント2:ホームページやSNSを活用した患者さんへのPR
患者さんはホームページや口コミ、各種広告を通して医療機関を認知し、予防接種や風邪で受診する機会に来院します。そこで医師の対応やスタッフの接遇マナー、院内の雰囲気などを見て、継続して受診するかどうかを判断します。気に入った場合は、自分の家族や知り合いにも紹介してくれるでしょう。
厚生労働省の「令和5(2023)年受療行動調査(概数)の概況」によると、医療機関にかかるときに「情報を入手している」人は外来患者全体の80.7%にのぼり、その内28.8%の人が「医療機関が発信するインターネットの情報」を頼りにしていると回答しています。そのためホームページやSNSでのPRは欠かせません。中でもホームページの診療日や診療時間、医師の紹介などのページは患者さんが必ず確認する大切な情報です。患者さんが他の病院と比較する際にも参考となるため、自院の強みや特徴となる情報も記載しておくとよいでしょう。
ポイント3:Webや電話の予約制度を導入し、待ち時間の短縮を図る
Webや電話を使った予約や問診システムの導入も検討しましょう。日時指定の予約システムを導入することで空いている時間をWeb上で確認することができるようになり、混雑の解消に繋がります。
耳鼻咽喉科の特徴として、花粉症の時期は診療に訪れる人数が増えるため、患者さんの待ち時間が長くなることがあります。無駄に待たせることのないよう、予約システムを導入すると予約や診察がスムーズになります。患者さんへ快適なサービスを提供できれば、多くの患者さんからの支持を得られるでしょう。
今後の耳鼻咽喉科クリニックに求められること
厚生労働省の「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)〜認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて〜(概要)」(54)の中で、認知症の危険因子に難聴が加えられました。 高齢化にともない、認知症高齢者の数はますます増加すると言われており、来院できない患者さん宅や施設への往診の需要が高まることが予想されます。
また多くの自治体では新生児聴覚スクリーニングの助成制度を導入しており、国で定められている3歳児検診でも難聴の発見に努めています。難聴は早期発見・早期治療が大切であることが周知されてきている中、新生児聴覚スクリーニングや3歳児健診後の精密検査を要する小児に対しては、早期に対応できる体制作りも進められています。これまで小児難聴医療に携わっていなかった施設も、今後ABR(聴性脳幹反応) やASSR(聴性定常反応)を活用した協力が求められるでしょう。
まとめ
耳鼻咽喉科クリニックは導入設備によっては開業費用が多くかかる一方で一人当たりの診療単価は低いため、売上をあげるためには多くの患者さんを診療する必要があります。しかし診察のスピードや回転率だけに囚われると、患者さんに与える印象は悪くなりがちです。
経営のことも考えながら、「またこの先生に診てもらいたいな」「次もここに来れば安心だな」と思ってもらえるようなクリニックを開業しましょう。開業に関して不明点があれば、ぜひフォームからお問い合わせください。

























