皮膚科の医院開業動向情報
皮膚科の開業のポイント!経営戦略や開業準備・業界の動向まとめ

「もともと開業にも興味があって皮膚科医になったものの開業や経営の方法がわからない」
そんな悩みを抱えている皮膚科医の方は、開業前に経営の戦略や注意点を知ることが重要です。また皮膚科の業界の動向を把握すると、より具体的な戦略を思いつきやすくなるでしょう。
他の専門科の疾患でも皮膚症状が見られることは多く、皮膚科は非常に多彩な疾患を扱う診療科です。クリニックでできる診療行為も多く、自身の経験や専門性をフルに活かすために開業するというケースも少なくありません。
この記事では、皮膚科の開業の失敗しないポイントに加えて、必要な開業資金なども解説しているので、皮膚科の開業を考えている方はぜひ参考にしてください。
皮膚科をとりまく動向
皮膚科クリニックの開業には、多くの課題があります。厚生労働省の「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」で、皮膚科医は医師全体(327,444人)の3.1%、10,031人でした。そのうち全国で診療所に従事する皮膚科医は6,124人です。皮膚科医の約6割が診療所に従事しており、これは他の科目に比べ、開業医(またはそれに準ずる職種)の割合が高いことを示しています。
また同調査では専門医を持つ医師の動向も調査しており、皮膚科専門医5,851人のうち1,907人が病院に、3,944人が診療所に従事していることがわかっています。診療所に従事する医師の約64%が皮膚科専門医を取得していることから、競合に引けを取らないためにも、専門医は取得しておいたほうがよいでしょう。
さらに厚生労働省の「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査」によると、全国に皮膚科を標榜する診療所は13,185施設あり、全体の12.6%を占めています。これは全43診療科のうち「内科(61.7%(64,747施設)」「小児科16.9%(17,778施設)」「消化器内科(胃腸内科)16.2%(17,028施設)」に次いで4番目です。前回の調査に比べ、「循環器内科(12.0%(12,585施設)」、「整形外科(11.7%(12,298施設)」の施設数を逆転したことから、診療所の数は相対的に多い診療科だといえるでしょう。
皮膚科はどの地域にも競合相手がいる可能性がある診療科です。そこで開業に際して検討したいのが「保険診療中心」にするか「美容中心」にするか、という点です。
アトピーや蕁麻疹(じんましん)など保険診療中心の皮膚科クリニックは、平均単価が安くなりますが、年齢や性別を問わず集患が可能です。
対して美容中心の皮膚科クリニックでは、自由診療と併用することで平均単価は高くなりますが、集患が若い女性中心になるため男性や子供、高齢者が通いにくくなるというデメリットがあります。 また美容皮膚科クリニックは、皮膚科クリニックと美容外科クリニックの両方がライバルになる可能性があります。美容系機器の設備投資も必要で、初期投資は皮膚科のみを開業するよりも高額になります。
開業エリアの特徴をリサーチし、十分なターゲティングをおこなったうえで開業戦略を立てていきましょう。
皮膚科クリニック開業の資金調達から収入・資金繰りまでのロードマップ
クリニック開業を考えるうえで、まず検討したいのは「資金」です。開業資金は「設備資金」と「創業資金」に分けることができます。「設備資金」はテナント契約費や医療機器・設備購入費などです。設計・内装工事費その他を合わせおおよそ4,500万円から1億5,000万円が必要で、テナント契約費は賃料の約3カ月分から12カ月分が見込まれます。また、「創業資金」は人件費やリース料、医薬品などです。
皮膚科クリニックの開業資金を、項目ごとに解説していきます。
開業資金
開業資金の一例として、下記の項目が挙げられます。
皮膚科クリニック開業に必要な開業資
横スクロールでご確認いただけます
| 項目(皮膚科:テナント開業の場合) | 所要資金 |
|---|---|
| テナント契約費(保証金・敷金など) | 賃料の3カ月分~12カ月分 |
| 設計・内装工事費 | 2,000万円~4,000万円 |
| 医療機器・電子カルテ購入費 | 500万円~5,000万円 |
| 什器・備品購入費(待合設備、診察机など) | 100万円~500万円 |
| IT設備(PC、院内ネットワーク構築、オンライン予約、資格確認システムなど) | 50万円~250万円 |
| その他開業時諸費用(医師会加入、保険加入、広告・広報、医薬品購入など) | 150万円~800万円 |
| 開業前運転資金(賃料、人件費、手元資金など) | 1,700万円~4,000万円 |
立地に関わる資金については、金額以外にも考慮するポイントがあります。
誰もが気軽に入りやすい場所での開業は認知されやすいため、皮膚科クリニックは人通りが多く明るい場所での開業がおすすめです。
美容皮膚科をメインに開業するのであれば、ターゲットである女性が多いエリアや、通勤で通いやすい駅前エリアなどが向いています。
一方保険診療を主体とした皮膚科クリニックであれば、駅前にこだわる必要はありません。住宅地エリアや大規模集合住宅を診療圏内にして、子供からお年寄りまでをターゲットとした開業もおすすめです。特に小児皮膚科は数が少ないため、乳児湿疹やアトピーなどに特化したクリニックの専門性をアピールすると患者さんは通いやすくなります。
どんな診療科でも言えることですが、患者さんにわかりやすいブランディングでライバルとの差別化を図ることがより効果的な集患に繋がります。
皮膚科クリニックの対象患者さんの年齢層は幅広く、赤ちゃんから高齢者まで受診する可能性があります。車椅子やベビーカーの患者さんも受診しやすいように受付や待合室は広めに確保しましょう。
診察室は2~3室、処置室も2室以上あると、円滑に診療が進むでしょう。将来的に美容皮膚科を展開する可能性があれば、診察室・処置室ともに機械を置くスペースを確保し、コンセントも複数箇所配置した設計にしておきましょう。超音波検査に関しては腫瘤(しゅりゅう)などの診察に使用する可能性があるため、導入を検討しましょう。
また皮膚科の診察では、患部によっては脱衣をする場面があります。誤ってドアを開けてしまっても、患者さんの様子がほかの患者さんの目に触れることがないよう、入口にカーテンをつけるなどして、プライバシーに配慮することが重要です。デリケートな部分を診察することもあるため、会話が漏れないよう防音性の高い診察室・処置室にし、音楽をかけるなどの工夫も、患者さんの安心感に繋がります。
皮膚科クリニック特有の施設基準はありませんが、やけどの患者さんなどを診察する可能性がある場合、厚生労働省の「労災保険指定医療機関」の認定を受けておくと、患者さんにとってメリットも大きく集患に繋がります。
例えば、飲食店や工場での勤務中にやけどを負い、労災指定医療機関以外を受診した場合、患者さんは受診費用を一旦自己負担で清算する必要があります。これに対して、受診したクリニックが労災指定医療機関であれば、患者さんは労災保険補償を現物給付の医療行為という形で受けることができるため、治療費を自己負担する必要がありません。
もし美容皮膚科を併設したクリニックを開業する場合は、可能であれば他の皮膚科受診患者さんとエリアわけをすることをおすすめします。「美容専門エリア」として患者さんがリラックスして治療を受けられるような環境をつくることがリピーターを増やすためには欠かせません。
パウダールームに大きめの鏡を設置したり、ホテルライクなアメニティやドクターズコスメを充実させたりして、非日常感のある演出をすることも女性の支持を集めるためには重要なポイントです。イメージ戦略として、例えばスタッフのユニフォームを選定する際、清潔感だけでなくデザイン性が高く上質な生地のものを選ぶことで、高級感のあるクリニックを演出するのもよいでしょう。
あざ・ほくろ・シミなど一部の診療や治療は保険適用も可能です。保険診療でできる範囲をWeb上などで患者さんにアピールすることで、受診する科を悩む患者さんも皮膚科クリニックを受診しやすくなります。
美容皮膚科を開院するためには高額な医療機器を購入する必要がありますが、開業当初は初期投資が少なくて済む美容系の注射や塗り薬などの治療から始めるとよいでしょう。
開業後の運転資金
次に、運転資金としては、下記の項目が挙げられます。
皮膚科クリニック開業後の運転資金
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| 項目(皮膚科:テナント開業の場合) | 概算費用(月額) |
|---|---|
| 人件費 | 収入の20~25% |
| 医業原価(医薬品、消耗品など) | 収入の5~20% |
| 家賃・駐車場など | 立地、面積、設備等により異なる |
| 水道光熱費 | 10万円~30万円 |
| リース料 | 5万円~60万円(リース物件による) |
| その他諸経費(広告費、通信費、保険料、医師会費、租税公課など) | 20万円~75万円 |
開業前に資金計画を立て、無理のない経営を目指しましょう。
従業員を必要以上に雇ってしまうと人件費が経営を圧迫してしまいます。開業時は最低限の従業員だけを雇用して、患者さんが増えてきたら従業員の数を増やすようにしましょう。
皮膚科クリニックの収入源や資金繰りについては、次の章で詳しく解説します。
皮膚科クリニックの収入源と資金繰り
全国の「令和7年度 保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表」によると、皮膚科クリニックにおける外来診療1件当たりのレセプト(診療報酬明細書)平均点数は638点と、内科のレセプト平均点数1,119点を大きく下回っています。収益をあげるためにはより多くの集患が必要です。
皮膚科クリニックの集患のためには、何より効率的な診療フローの構築が重要になります。具体例を紹介します。
- 来院時に問診票を記載する
- 診察前に看護師が改めて問診をおこなう(ここで受診の目的や希望を明確化しておく)
- 診察室に患者さんを呼び込み、すぐに診察できる状態で待機させる
- 医師が診察室に来室し、問診を確認する
- 診療をおこなう
- 外用薬や生活指導なと、診療後のフォローを看護師がおこなう
- 患者さんは診察室を退室する
上記のような診療効率化において、看護師は重要な役割を担っています。看護師が診察前後に介入するシステムを構築することで、診察室に入ってから医師が患者さんに主訴を確認する必要がなくなり、診療時間の短縮に繋がります。さらに複数の診察室があれば、よりスムーズに多くの患者さんを診察することができます。
また診察後に看護師が塗り薬の使い方や、自己処置の方法などを伝えることで、患者さんは安心して治療を継続することができます。こういったアフターフォローにも力を入れることで、患者さんの満足度も上がり、口コミによる集客も期待できます。
厚生労働省「第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査)報告 -令和5年 実施-」によると、看護師1人を常勤で雇用する場合、平均で年間400万円の人件費が発生します。開業当初は人件費を抑えたくなりますが、診察効率化を考えた人員配置と明確な業務分担が、より多くの患者さんを診察し収益を上げることに繋がります。
皮膚科クリニックにおける職員への福利厚生として多くのスタッフが期待しているのは、一部の美容施術を安価で利用できることです。多くの美容系クリニック・美容皮膚科ではスタッフ雇用の売りにしているため、採用をおこなう場合は検討するとよいでしょう。
個人開業と法人開業における収益
医療経済実態調査(令和5年実施)によると、個人開業診療所の医業収益は6,811万円、医業・介護費用は4,006万円で、損益差額は2,805万円です。一方、法人開業診療所の医業収益は1億1,286万円、介護収益は51万円、医業・介護費用は1億469万円で、損益差額は868万円です。
個人開業に比べ法人開業の方が医業収益は高い一方、医療・介護費用も高くなっています。事業規模は一般的に法人開業の方が大きいため、収益は高くなる傾向があります。また、院長給与に相当する役員報酬が費用として計上されるため、個人開業より費用が大きくなる傾向もあります。加えて、事業規模拡大に伴い各経費も増加する事が多く、結果的に法人開業は個人開業に比べて医業収益も医療・介護費用も高いことになります。
また、法人開業には法人設立や決算対応など、様々な手続きが必要ですが、法人化により節税効果を得られるほか、将来の事業継承が有利に働くことが多いというメリットもあります。分院化や業務範囲の拡大など経営計画によって、個人開業、法人開業の選択が必要です。
皮膚科クリニック開業において注意すべき「医療広告ガイドライン」の遵守
クリニックのホームページを作成する際には、厚生労働省の「医業もしくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」の遵守を忘れてはいけません。これはどの診療科の開業でも当てはまりますが、特に美容系診療をおこなうクリニックでは細心の注意が必要です。
2018年6月1日より、これまで広告の扱いを受けていなかったホームページに対しても医療広告ガイドラインが適応されることになりました。2018年におこなわれた改正ではより細かい部分まで適応となっています。
厚生労働省は定期的に「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」をおこない、2022年3月にも医療広告ガイドラインの改定をおこなっています。最新の動向を把握しておきましょう。
医療広告ガイドラインに違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性もあります。
皮膚科クリニックで特に注意したい「医療広告ガイドライン」のポイントは以下の通りです。
- 安易なビフォーアフターの掲載
- 写真の修正
- 他の病院との比較
- 専門医資格の掲載
この機会に覚えておきましょう。
安易なビフォーアフターの掲載
皮膚科や美容系クリニックの広告で多いのが、ビフォーアフター写真の掲載です。
ビフォーアフター写真は2017年の改正医療法で「患者さんを誤認させる恐れがある」として、広告禁止事項となりました。しかし限定解除対象となっているため、以下の情報をケースそれぞれに詳細に記載した場合は例外的に掲載が可能です。
- 通常必要とされる治療内容
- 費用に関する事項
- 治療等の主なリスク
- 副作用等に関する事項
この限定解除はホームページのみが対象で、チラシや雑誌は限定解除の対象になりません。また今後限定解除の方針や内容が変わる可能性もあるため、動向は注視する必要があります。
写真の修正
写真を修正し、色味や明るさを変えるのも虚偽広告に当たります。写真は撮影したものをそのまま掲載し、患者さんの状態をわかりやすく伝えるようにしましょう。
他の病院との比較
医療広告ガイドラインでは、他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告(比較有料広告)はNGとされています。例えば「芸能人の〇〇も推薦」「地域No.1の技術」などの文言がそれにあたります。
患者さんの主観に基づく、治療の内容や効果に関する体験談の記載もNGです。ホームページだけでなくブログやSNSも対象になるので注意しておきましょう。
専門医資格の掲載
皮膚科クリニックでは、在籍医師の日本皮膚科学会専門医資格や学会資格を掲載する事も多いでしょう。しかし、厚生労働省「広告が可能な医師等の専門性に関する資格名等について」にあるように、専門性資格として掲載できるのは、厚生労働省が認めた学会の専門医に限られています。
これらの点に注意しながら、ホームページやSNSなどの広告戦略を展開していきましょう。
ライバルの多い皮膚科で他院との差別化をはかる経営戦略
皮膚科領域で患者さんにアピールできる専門領域がある場合、ターゲットを明確にしたうえで、わかりやすいキャッチコピーでアピールしていきましょう。例えば「子供の皮膚科」「肌荒れ・かゆみ治療のプロ」「しみ・あざ・ほくろを保険で治療できる」などです。
これにより患者さんは自分がその皮膚科に行くべきかどうかわかりますし、「専門的に見てくれるなら受診したい」と受診の動機づけにも繋がります。
また近隣医療施設、特に内科やアレルギー科のクリニック、総合病院との連携を図る事も重要です。皮膚科クリニックでは、診療が困難な場合でも近隣で連携している医療機関で治療をおこなえるということが、患者さんの安心に繋がり、結果として集患に繋げられるからです。
社会保険診療報酬支払基金「統計月報(令和4年4月診療分)」統計によると、皮膚科の1件当たりの平均来院日数は1.3日ですが、アトピーやアレルギーに関しては治療期間が長くなりやすく、中長期的な集患が見込めます。また美容皮膚科は自由診療と併用することで平均単価が高くなる傾向にあります。十分な利益確保のため、アトピーなどに特化したクリニックや美容皮膚科に舵を切る皮膚科クリニックも増加しています。
皮膚科クリニックは単科であれば開業にかかる初期費用も比較的安価ですが、美容系を併設すると設備が増えるため、初期費用が高額になる可能性があります。そのため皮膚科単科で開業し、徐々に美容系へと事業を拡大していくのが賢明です。
開業したい地域やターゲット、周辺の競合状況などを調査したうえで、しっかりとした戦略を立ててクリニックを開業しましょう。
まとめ
皮膚科は他科と比べて、総合病院よりも診療所の割合が多い診療科です。将来的にもその傾向は続くでしょう。
開業を成功させるには、他院にない優位性を持ちライバルのクリニックと差別化を図ることが重要です。例えば子供に特化したり、美容に特化したりするのも選択肢の一つです。
ライバルにはない優位性を持ち、地域に愛される皮膚科クリニックを開業しましょう。開業に関して不明点があれば、ぜひフォームからお問い合わせください。

























