外科の医院開業動向情報
外科の開業に失敗しないための経営戦略!注意すべき3つのポイントも

「外科で開業しても失敗しないか不安……」
「どうすれば外科の開業で成功できるかわからない……」
このように思われている外科医の方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、外科医の開業について掘り下げていきます。
開業に成功するためのポイントもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
外科をとりまく動向
厚生労働省の「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、医療施設に従事する医師のなかで外科を主たる診療科にしている医師は 1万2,775人で、医療施設に従事する医師全体(32万7,444人)の3.9%を占めています。また全国で診療所に従事する外科医は2,433人で診療所に従事する医師全体の2.3%です。
また同調査によると、医療施設に従事する医師全体の平均年齢が50.3歳であるのに対し、主な診療科を外科としている医師の平均年齢は53.7歳となっており、他科と比較して若手の医師が少ない傾向があるといえます。
厚生労働省の「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」では外科を標榜する診療所は、全国に1万1,773施設あり、全体の11.2%となっています。「全体の11.2%」と聞くと少ないと感じるかもしれませんが、「内科61.7%(64,747施設)」「小児科16.9%(17,778施設)」「消化器内科(胃腸内科)16.2%(17,028施設)」「皮膚科12.6%(13,185施設)」に次いで「循環器内科12.0%(12,585施設)」「整形外科11.7%(12,298施設)」と、ほぼ同率で7番目に診療所の数が多い診療科目です。
外科クリニック開業の資金調達から収入・資金繰りまでのロードマップ
クリニック開業を考えるにあたり、まず問題となるのが資金面です。開業資金は、「設備資金」と「創業資金」にわけられます。
「設備資金」はテナント契約費や医療機器・設備購入費などです。設計・内装工事費その他を合わせて約6,000万円から約1億8,000万円が必要で、テナント契約費は賃料の約3カ月分から12カ月分が見込まれます。また、「創業資金」は開業前の人件費や賃料、広告費、医薬品などの購入費用です。
開業資金
開業資金の一例として、下記の項目が挙げられます。
外科クリニック開業に必要な設備資金
横スクロールでご確認いただけます
| 項目(外科:テナント開業の場合) | 所要資金 |
|---|---|
| テナント契約費(保証金・敷金など) | 賃料の3カ月分~12カ月分 |
| 設計・内装工事費 | 2,000万円~6,000万円 |
| 医療機器・電子カルテ購入費 | 1,500万円~5,000万円 |
| 什器・備品購入費(待合設備、診察机など) | 200万円~400万円 |
| IT設備(PC、院内ネットワーク構築、オンライン予約、資格確認システムなど) | 50万円~250万円 |
| その他開業時諸費用(医師会加入、保険加入、広告・広報、医薬品購入など) | 200万円~900万円 |
| 開業前運転資金(賃料、人件費、手元資金など) | 2,000万円~5,000万円 |
外科の設備資金は対象とする診療領域によって大きく異なります。特に手術室を設置するかどうかは金額感を左右する大きなポイントです。
また医療機器の費用は、開業後の資金繰りに大きく影響します。消化器外科であれば内視鏡を、乳腺外科であればマンモグラフィや超音波診断装置(エコー)を導入することが多いです。
競合クリニックとの差別化のため、医療機器や設備を充実させるとなると資金はより多くかかることになります。
そして医療機器を導入する際に、診療放射線技師や臨床検査技師を新たに雇用する場合は人件費もかかります。
機器を購入するのかリースで導入するのか、導入したとして見合うだけの利用数があるか、診療報酬で採算が取れるかなどをしっかり見極めることが大切です。CTやMRIの撮影を外注できる画像診断クリニックも増えてきているため、そうした専門クリニックと提携することも一つの戦略です。
医療機器を導入して、本当に経営の強みになるのか、具体的に試算をしてみて採算が取れるかどうかを慎重に検討するとよいでしょう。
また、立地選びも大事なポイントです。利便性の高さを強みに新規での集患を狙って、利用者が多い駅から近い地域で開業することも戦略のひとつです。ただしその分、テナント代や土地代が高くなってしまう可能性があります。
一方で費用を抑えるため、利用者が多い駅から離れた地域で開業するという方法もあります。しかし集患対策で運転資金にあたる広告宣伝費が継続的にかかる場合もあるため、長い目でみたときにどちらのほうがよりコストパフォーマンスが高いか、しっかり見極めて決めるようにしましょう。
開業を検討している地域に病院・クリニックがどれくらいあるか、ターゲットとなる患者さんがどの程度いるのか、潜在的患者の行動パターンや年齢層など、しっかりとリサーチすることが重要です。
開業後の運転資金
次に、開業後の運転資金としては、下記の項目が挙げられます。
外科クリニック開業後の運転資金
横スクロールでご確認いただけます
| 項目(外科:テナント開業の場合) | 概算費用(月額) |
|---|---|
| 人件費 | 収入の20~25% |
| 医業原価(医薬品、消耗品など) | 収入の5~30% |
| 家賃・駐車場など | 立地、面積、設備等により異なる |
| 水道光熱費 | 10万円~30万円 |
| リース料 | 5万円~50万円(リース物件による) |
| その他諸経費(広告費、通信費、保険料、医師会費、租税公課など) | 20万円~65万円 |
開業前に資金計画を立て、無理のない経営を目指しましょう。従業員を必要以上に雇ってしまうと人件費が経営を圧迫してしまいます。開業時は最低限の従業員だけを雇用して、患者さんが増えてきたら従業員の数を増やすようにしましょう。外科クリニックの収入源や資金繰りについては、次の章で詳しく解説します。
外科クリニックの収入源と資金繰り
全国の「令和7年度保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表」を平均すると、「外科」はレセプト(診療報酬明細書)1件当たり1,331点で、「内科(人工透析)」の7,515点、「産科」の1,528点、「内科(人工透析以外(その他))の1,435点に次いで高い点数です。関西の平均は1,464点、九州の平均は1,387点で全国平均より高くなります。両エリアでも大阪府は1,865点、鹿児島県は1,843点と点数が高くなっています。
外科は経営するにあたり、看護師と医療事務は必要なことが多く、状況によっては診療放射線技師や臨床検査技師なども必要になります。医師が診療に集中できる環境を整えることで結果として売上の増加に繋がるため、状況に応じた採用を心がけましょう。
とはいえ、開業初期は人件費を極力抑えることがおすすめです。すべてのクリニックが開業当初から順調に集患できるとは限りません。思わぬところで費用が発生する場合もあります。経営が軌道に乗るまでは、無理をしてまですべての従業員を常勤で雇用する必要はありません。パート職員と常勤の組み合わせによっては、人件費が15%ほど変わることもあります。必要なスタッフ数がわかるまでは、パートのスタッフで臨機応変にシフトを組み、柔軟に対応することも大事な戦略です。
開業当初はすべてのスタッフをパート採用にして、1年後をめどに黒字化してクリニックが軌道に乗ってから、能力のある人を常勤雇用とする方法も有効です。スタッフのモチベーションアップにも繋がります。
また、その他にも以下の点を考えて採用人数や各職種の採用比率を検討しましょう。
- 医療事務も会計業務もできる事務スタッフを採用する
- スタッフの質とコスト面を考えて、正看護師と准看護師の採用比率を決める
- パート採用を検討する
個人開業と法人開業における収益
「医療経済実態調査(令和5年実施)」によると、外科の個人開業診療所の医業収益は1億2,798万円、介護収益は4万円、医業・介護費用は9,627万円で、損益差額は3,175万円です。一方、法人開業診療所の医業収益は1億7,139万円、介護収益は209万円、医業・介護費用は1憶4,738万円で、損益差額は2,610万円です。
個人開業に比べ法人開業の方が医業収益は高い一方、医療・介護費用も高くなっています。事業規模は一般的に法人開業の方が大きいため、収益は高くなる傾向があります。また、院長給与に相当する役員報酬が費用として計上されるため、個人開業より費用が大きくなる傾向もあります。加えて、事業規模拡大に伴い各経費も増加する事が多く、結果的に法人開業は個人開業に比べて医業収益も医療・介護費用も高いことになります。
また、法人開業には法人設立や決算対応など、様々な手続きが必要ですが、法人化により節税効果を得られるほか、将来の事業継承が有利に働くことが多いというメリットもあります。分院化や業務範囲の拡大など経営計画によって、個人開業、法人開業の選択が必要です。
外科クリニック開業において注意すべき3つのポイント
実際に開業するときに注意すべき3つのポイントについてまとめました。
- 外科で得た知識や技術を活かすコンセプト作り
- 集患を意識した立地
- 常に新患を得続けるためのマーケティング
事前に把握しておきましょう。
ポイント1:外科で得た知識や技術を活かすコンセプト作り
元々持っている外科の知識や技術を活かしたコンセプトを作ることで、集患しやすくなります。たとえば「心臓手術の経験が豊富」「がん手術が専門」など、一見クリニックの診療と直接異なる経験であっても、明確にアピールすることで手術適応の判断やその後のフォローアップの強みがあることをアピールできます。
医師としての経験と経営者視点から、ご自身の強みや弱みを把握し、これまでの専門性を活かしたコンセプト作りをすることが重要です。
ポイント2:集患を意識した立地
新規での集患が成功への大切なポイントとなります。なるべく多くの集患が見込めるよう、好立地での開業が必要です。駅近などでアクセスのいい物件を選ぶようにしましょう。
しかし、車を使う人が多いエリアで近隣住民を集患するのであれば、徒歩や自転車でのアクセスのよさよりも駐車場の確保が必須です。駅からのアクセスが多少悪くても、車で通えれば大きな影響は出ないかもしれません。
また、勤務していた病院の近所で開業する「お膝元開業」という選択肢もあります。勤務医時代に築き上げたネットワークで、近隣の医院と円滑な「診診連携」を築くようにしましょう。
ポイント3:常に新患を得続けるためのマーケティング
外科クリニックでは、良性疾患の手術を受けた患者さんが継続的に来院することはあまり期待できません。そのため、常に新規の患者さんを獲得していく必要があります。
地域住民の方々に、クリニックの存在や特長を知ってもらうため、新聞・看板・チラシ広告・ホームページなど、多くの媒体でしっかり宣伝しましょう。
特にホームページの活用が重要です。専門とする科目や病気の詳しい解説文を載せるようにしましょう。厚生労働省「令和5(2023)年受療行動調査(概数)の概況」の調べでは、医療機関にかかる時に「情報を入手している」人は外来患者の80.7%、その内28.8%の人が「医療機関が発信するインターネットの情報」を入手して病院を選ぶ傾向があります。また各疾患について専門性の高い記事を定期的に載せていくことは、ホームページのSEOにも繋がります。
地域のお祭りやイベントなどに積極的に参加し、“顔”を売ることも大切です。地域の講演会や地域雑誌・フリーペーパーへの寄稿も地域住民の方々にクリニックの存在を覚えていただくきっかけになります。
外科クリニックの開業戦略
外科クリニックの開業戦略は、以下の3つです。
- 「外科・内科」両方を標榜
- 日帰り手術が可能なクリニックを開設
- 診療時間をずらして診療
それぞれ解説していきます。
戦略1:「外科・内科」両方を標榜
外科系のクリニックを開業する際は、内科も一緒に標榜しておくとよいでしょう。例えば呼吸器外科医が外科医の知見も持った呼吸器科の医師として呼吸器内科を開設したり、消化器外科医が消化器内科を標榜して内視鏡を売りにしたりする形です。
外傷の処置を手際よくやった後で「内科も外科もできる先生でよかった」となれば患者さんの満足度が上がり、リピーターの確保もしやすくなるでしょう。
戦略2:日帰り手術が可能なクリニックを開設
競合相手と差別化するために、「日帰り手術ができる」といった強みを用意しておくのも手です。
これまでは手術となると数日~1,2週間の入院が必要なことが多く、時間を確保できずに放置し悪化させてしまう患者さんも少なからずいました。しかし、日帰り手術ができれば術後に帰宅も可能で、日常生活に早く戻ることができるため、忙しい現役世代の人でも手術を受けやすくなります。
例えば、鼠径ヘルニアや下肢静脈瘤、透析シャントの手術、胆嚢や虫垂などの腹腔鏡手術を日帰りでおこなうことは、クリニックの強みとなるでしょう。
日帰り手術を売りにすることで、幅広い年齢層の集患が可能となります。
戦略3:診療時間をずらして診療
幅広い年齢層で集患するため、診療時間をずらして診療するのも戦略です。一般的な診療時間は、平日日中と、場合によっては土曜日午前ですが、「平日は夜20時まで診療している」「土日も診療している」というように一般的な診療時間と時間をずらすことで、他のクリニックと差別化することができます。
また患者さんとしても診療が受けやすくなるため、集患に繋がります。
まとめ
外科は他の診療科と違い手術によって根治的治療をおこなうため、治療後の継続的な来院が見込めないケースが多くあります。そのため認知度を高め新規の患者さんを集患し続けることが重要な科です。
立地をしっかり厳選する、マーケティングをおこなうなどの工夫を施し、集患に繋げましょう。
さらに内科も標榜する、日帰りの手術に対応する、診療時間をずらすなどの戦略も非常に重要です。
ご自身の得意分野と戦略ポイントをしっかり押さえて、外科クリニックの開業を成功させましょう。開業に関して不明点があれば、ぜひフォームからお問い合せください。

























