素早く低コストで人工装具を作製できるとして、3Dプリンターが注目されています。身体に装着する人工装具は、その安全性はもちろんのこと、実用性の面でも真価が問われるものです。そこで今回は「American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation」が実施した、3Dプリンターで作製された義足と従来のキャスティング法で作製された義足の実用性比較調査の結果を見てみましょう。
今回の研究は16歳から70歳までの、72名の下腿切断者を対象としておこなわれました。これらの患者さんは36名ずつの2グループに分けられ、一方のグループ(以降、「グループ1」)はCAD/CAM(コンピュータ援用設計、コンピュータ援用製造)技術を用いて作製されたソケット(断端を収納する部分)を装着し、もう一方のグループ(以降、「グループ2」)は従来の手作業による鋳造法で作製されたソケットを装着して、それぞれリハビリを行いました。
リハビリ後、患者さんが痛みの程度、歩行距離、使用時間、無痛で歩けた時間などの項目について評価し、その結果が比較されました。また、36項目の健康調査(SF-36)と、「Trinity Amputation and Prosthesis Experience Scales(TAPES)」というアンケートを用いて、QOLについての評価も行われました。
収集されたデータをもとに両グループの評価を比較した結果、グループ1のほうが「歩行時間」「歩行距離」「無痛で歩けた時間」の3項目において、グループ2より有意に良好でした。また3Dプリンターで作製された義足のほうが、従来の方法で作製されたものよりも装着にかかった時間が短く、ソケットの適合にかかる時間も圧倒的に短かったそうです。
一方、患者さんのQOLを調査するTAPESのアンケート項目を見ると、「行動制限」に関してはグループ1のほうがスコアは低く、「義足への満足度」はグループ1のほうが高いスコアを記録しました。また、36項目の健康調査についても、「心理的理由による活動制限」の項目以外では、グループ1の患者さんのほうが良い結果が出ています。義足への満足度やQOLが高いといったメリットは、日常生活からストレスを減らし、義足をつけて生活する人々の暮らしを良い方向に変えてくれるのではないでしょうか。
今回の調査で有意に良好な結果を得た3Dプリンター製の下肢用人工装具ですが、まだ今後の研究による進化を必要としています。なかでも大きな課題は、いかにして患者さんの「日々の歩行」という過酷な使用状況に耐えられるものを作れるかということです。そのためにはどのような材料を使うのがよいのか、どういったデザインの改善が必要かといった情報を収集していく必要があります。
上肢用人工装具に関しては、National Institute of Healthが3Dプリント用のデータをウェブサイト上で提供していることもあり、幅広い研究・調査、そして情報の共有がすでに行われています。下肢用人工装具に関しても同じような環境が調えば、よりスピーディーに高品質で実用的なプロテーゼの生産が可能となっていくのではないでしょうか。技術や知識を「共有」していくことが、今後の医療への貢献につながっていくでしょう。
3Dプリンターはさまざまな医療器具の作製に役立つ技術です。今回ご紹介したような人工装具はもちろんのこと、他の医療器具の改良にも活用されることを願います。
■ 参考サイト
DtoD会員約33,000名対象にアンケートを実施しました。
ドクターライフをより快適にするための情報や、患者さんとのコミュニケーションに使えるお役立ち情報を紹介します。
全国500名のドクターの本音を大公開。市中×医局ドクター「ぶっちゃけトーク」満載のスペシャル座談会です。
医療マンガの著者に苦労やエピソードを語って頂きます。