1. 膜型人工肺活用法:溺れた子供の治療に成功

海外医療トピックス

2017.07.14

膜型人工肺活用法:
溺れた子供の治療に成功

今回ご紹介する事例の主役は、日本でも心臓や肺をサポートする治療法のひとつとして使われている、膜型人口肺(ECMO)です。ECMOは心臓や肺に障害のある、重篤な乳児に使われることが多い医療器具ですが、今回ご紹介する事例は、溺水(できすい)した子供の治療として使われたケースです。米国フロリダの病院のThe Cardiac Critical Care(心疾患系救命救急)チームが、どういった状況下でECMOを活用し、子供の命を救ったのかを見てみましょう。

生死を分けたのは搬送された病院の医師の決断

患者はフロリダ州在住の、生後22ヶ月のJassaih君。2017年4月のある日、昼寝から目覚めたあとに実家をこっそり抜け出したJassaih君は、自宅裏の池で顔を水面につけておぼれた状態で発見されました。連絡を受けた救急隊員はCPRを実施しながら、Jassaih君をフロリダ州のネマールズ・チルドレンズ病院へ搬送しました。

生死をさまよう状態で病院に搬入されたJassaih君を担当したDr, Chrysostomouとそのチームは、命を救える可能性を秘めた1つの方法として、ご両親にECMOを使った治療法を提示しました。Dr, Chrysostomouは「もし彼が搬入された病院がネマールズ・チルドレン病院でなかったら、危険すぎるという理由でECMOを治療に使うことはなかっただろう」と感じたそうです。

ECMOを使うにあたり、家族に伝えられた生存率は50%。合併症を引き起こすかもしれない……効果がないかもしれない……そんな状況の下で、医師がECMOを動かし始めたとき「奇跡は起きた」とJassaih君の祖母は語ります。今回、Jassaih君の救命を行うにあたり、ECMOは患者さんの肺や心臓を休めている間に、心臓が本来持つ機能を代替することに成功しました。ECMOを4日間繋げていたJassaih君ですが、一か月後には元気に動き回れるほど回復したそうです。

ECMOのこれまでの歴史

では、ここでECMOの歴史を振り返ってみましょう。ECMOは体外循環とガス交換を行うことにより、心不全や肺不全を起こしている患者に一時的な生命維持を行う装置です。ECMOの持つ重要な機能は半透性の膜を通して血液中に酸素を送りこむことですが、これは1944年に発見された人工腎臓のセロハンチャンバーを通過させることで、血液が含酸素化するという実証がヒントになっています。

心肺バイパスのコンセプトが1950年に開発され、1960年代・1970年代にテクノロジーが進化したことにより、より長時間にわたり肺機能のサポートができるようになりました。この時期にThe National Heart, Lung, and Blood Instituteによって行われた研究では、9つの病院のコラボにより、肺機能不全の成人とECMOセラピーとの有効な関連性が確かめられました。しかし研究の結果は思わしくなく、生存率の向上は確認されませんでした。

小児に対して行われた同じ内容の研究でも生存率の向上はみられませんでしたが、不可逆性肺疾患がなく、早い時期にECMOセラピーを受けた患者については、当セラピーによって肺疾患を回復させる可能性があることが判明しました。その後もECMOセラピーの研究は続けられてきました。Nicklaus子供病院のウェブサイトによると、現在では2万人以上の子供がこの治療を受けており、ECMOなしでの生存率は20%と宣言されていた新生児も、ECMOを使うことで平均生存率は83%まで上がっています。

事故防止への取り組みも大切

今回ご紹介した実例のように、医療機器の進化により多くの命が救われるようになってきています。しかし医師や医療スタッフをはじめ、医療機関でも、事故の防止に関する正しい情報を発信し、事故防止に取り組んでもらいたいものです。特にこれからの季節は、子供や大人がおぼれる水難事故が増加傾向になります。事故が発生しないような防止知識を人々が持つのはもちろん、実際に事故が起こったときにとるべき行動や救急処置といった知識が少しでもあることが、事故に遭われた人の生死を分けることになるかもしれません。

そこでぜひ、医療機関内の掲示板やホームページで、患者さんや地域の人々へ向けて、水難事故に関する注意喚起や、おぼれた人を見つけたときにできる応急処置についての情報発信を行うなど、自分たちにできることを率先して実践していきましょう。さまざまな場所で、大切な知識のシェアや、知っておくと役に立つ情報のアピールを行うことで、より多くの命を救うことにつながっていくのではないでしょうか。

まとめ

医師や医療スタッフにとって「より多くの命を救いたい」という気持ちは共通のものでしょう。今回紹介した事例は、従来は血液中に酸素を取り込む生命維持装置であるECMOを、心臓の代わりとして働かせることで、命を救うことができたというものでした。今後もこのような成功事例がたくさん生まれることを祈ります。

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