多くの子供にとって、はじめて経験する医療手順や医療器具は「怖い」もの。そういった恐怖心や不安を減らすためのツールとして、今、VR(バーチャルリアリティ)テクノロジーが活躍しています。今回は実際にVRを治療の準備や患者さんのリラクゼーションに活用している海外の病院から、アイデア実例を3つ紹介します。
「心臓の手術」は、大人にも恐怖心を抱かせる響きをもっています。もし手術を受けるのが子供だったら……その恐怖心は、計り知れないものではないでしょうか。ここでご紹介するのは米国スタンフォード大学のLucile Packard子供病院が2017年3月に開始したパイロット試験です。当試験は「Project Brave Heart(プロジェクト・勇敢な心)」と呼ばれており、VRを活用することで心臓の手術を控えた子供や若い人たちの恐怖心を取り除こうというものです。
Project Brave Heartは8歳~25歳の患者40名を対象に、半数は手術前にVRを使って恐怖心を取り除く「テスト・グループ」に属させ、残りは何も行わない「コントロール・グループ」に属させて実施しています。プロジェクトの目的は、VRを活用して手術前から手術中のプロセスを前もって体験することで、手術に向けてより心を落ち着かせたり、不安を取り除いたりすることができるかを調べることで、現在も試験期間が続いています。
カナダのトロントにあるリサーチホスピタル「The Hospital for Sick Children」(通称SickKids)では、サムスン(SAMSUNG)の協力のもと、院内9階にVR特設フロアを設置しました。これは、同病院で治療を受けている子供やその家族がリラックスできる場所を病院内に設けよう……という趣旨の下に作られたものです。
この特設フロアを訪れる患者さんや家族は、サムスンのGear VRと呼ばれるヘッドセットをつけることで、病院内にいながらまるで月や火星に実際にいるかのような気分を味わえたり、拡張現実を活用したゲームで遊べたりします。このような空間を提供することで、病気の子供たちに子供らしく楽しめる時間を与え、寂しさや心細さを少しでも減らしてあげたいという願いが込められています。
筒状の機械の中にすっぽりと入らなければならないMRIは、子供の不安をあおりやすいものです。そういった不安を減らすために、イギリスのキングス・カレッジ・ホスピタル NHS ファウンデーション・トラストによってデザインされたのが「My MRI at King's」と呼ばれるアプリです。
VRのヘッドセットやスマホ、タブレットと当アプリを組み合わせると、MRIの中を360℃動画として見ることができます。このテクノロジーを使って子供たちにMRIについて知ってもらい不安を減らすことで、子供がMRIに入る際に使用される麻酔の使用を減少させたいというのが願いです。VRを使って子供たちをトレーニングしておくことでMRIの環境に慣れてもらうことができ、それによって恐怖心や不安な気持ちを取り除きます。
実際にこのアプリを使用した子供は、「はじめてのMRIの前は、父が説明してくれても、実際どんなものか想像できずにとても怖かったけれど、アプリを使うことで実際にMRIの中にいるような感覚になれて、とても役にたった」といった感想を語っています。
病気や怪我で治療を受けている子供たちの不安を取り除いたり、病院に入院している小児患者さんたちを少しでも早く元気にしたりしてあげたい……少しでもこの子たちの笑顔を増やしてあげたい……そんな想いは世界共通のものです。そのためにはもちろん医師や医療スタッフ、家族の献身的なケアも大切ですが、今回ご紹介したようなVRなどの最新テクノロジーを駆使したアイデアも、今後どんどん活用されていきそうです。ぜひこういった情報もマメにチェックしていきましょう。
DtoD会員約33,000名対象にアンケートを実施しました。
ドクターライフをより快適にするための情報や、患者さんとのコミュニケーションに使えるお役立ち情報を紹介します。
全国500名のドクターの本音を大公開。市中×医局ドクター「ぶっちゃけトーク」満載のスペシャル座談会です。
医療マンガの著者に苦労やエピソードを語って頂きます。