1. 心臓の筋肉を模倣するソフトロボット装置を設計 心不全患者の命を救う可能性も

海外医療トピックス

2017.06.05

心臓の筋肉を模倣するソフトロボット装置を設計
心不全患者の命を救う可能性も

正常に機能しなくなった臓器を補助してくれる装置はたくさんあり、多くの人にとってなくてはならない存在です。今回は、ボストン小児病院やハーバード大学などが一丸となって取り組んでいる、心臓の筋肉を模倣する最新のロボット装置研究をご紹介します。

従来の補助人工心臓の問題点と、新たな装置の方向性

この研究に携わっているフランク・ピグーラ医師は、従来の補助人工心臓(VADまたはVAS)について、まず合併症を発症しやすいという欠点を指摘しています。その原因は、薬剤と構造です。

補助人工心臓を移植する場合は、血栓の形成を予防するために抗血小板薬や抗凝固剤を投与する必要があります。しかし、そうした薬剤は脳卒中のリスクを最大20%高めてしまうのです。また、ポンプで血液を送り出すという仕組みのため、患者さんの血液がチューブをはじめとした人工素材に直接触れ、常に深刻な感染症を引き起こす危険にもさらされています。

そこで今回脚光を浴びたのが、「心臓の働き」を補助する装置ではなく、「心筋の動き」を補助する装置です。心臓を収縮させるという方向性は、これまで技術的な制限によって断念されてきました。ところが、伸縮性のあるソフトロボットの登場によって、ついにそれが可能となったのです。

心臓の筋肉を支援するソフトロボットの仕組み

心筋の動きを補助する新しいロボット装置は、心臓を包むように巻きつける帯のような形状をしています。柔らかいこのソフトロボットは生体適合性のある素材のみで作られ、柔軟性のない硬い部分はありません。装置は心臓の外側からぴったりと沿い、患者さんの血液に触れることなく、心筋の役割を果たして心臓を動かす仕組みです。

ここで利用しているのは空気圧式の「エアー・マッスル」で、遠隔制御された駆動装置によって動作を始めます。筋繊維の収縮を模倣し、装置の一部分は心臓をひねり、また同時に別の部分は心臓を絞るのです。つまり、このソフトロボット装置が補助する心臓は、心筋が正常に動いているときと同じように血液を送り出すということになります。

ボストン小児病院がアメリカ科学振興協会(AAAS)の運営するサイト「EurekAlert!」で発表した情報のなかでも、研究者は「このソフトロボットは本質的に人工筋肉である」と述べています。筋肉を模倣し、心臓の両心室の動きを同時におこなうことで、自然な心臓の「ねじれ」が生まれるのが今回の装置の特徴です。別の類似装置による心臓の補助は、圧縮運動だけにとどまっており、全体のねじれ運動は起こせないのだといいます。

新しい心臓支援装置が救命に役立つ可能性も

研究チームはすでにこの新しいロボット装置の非臨床試験をおこなっており、その結果は良好です。実験には、人間と同等の大きさと構造をした心臓を持っているという理由で豚が使用されました。なお、心不全の豚にこの新しい心臓支援装置を移植したところ、発症前の心拍出量と比べて97%まで回復したとのことです。

さらに、このロボット装置には心臓各所の圧力を把握する洗練された感知機能があるため、個々の患者さんの心臓の状態に合わせて各部の支援を調整することができます。この強みについて研究者は、心不全の患者さんへの長期支援だけでなく、短期のリハビリでも新装置が活躍するのではと期待しているようです。

心臓を動かし続ける人工筋肉ともいえる、今回のソフトロボット装置。人体を補助する人工装置の中でも心臓は特に需要が高いため、一般利用にこぎつけることができれば世界的に大きな影響がありそうです。

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