1. 脊髄損傷で全身麻痺となった患者の両手の機能が回復!バイオ医薬品による実験的治療に世界が注目

海外医療トピックス

2017.01.11

脊髄損傷で全身麻痺となった患者の両手の機能が回復!
バイオ医薬品による実験的治療に世界が注目

脊髄(せきずい)損傷による身体麻痺(まひ)は、不治の病のうちのひとつです。患者さんによっては、呼吸まで機械まかせとなり、合併症におびえながら暮らしていかなければならないケースもあります。そんな厳しい状況に光明をもたらす新しい治療法を、南カリフォルニア大学のケック医学校が試験中です。バイオ医薬品を注入して四肢の機能を取り戻そうとするその技術についてご紹介します。

首から下が麻痺している青年の頸椎にバイオ医薬品を注入

2016年4月上旬、南カリフォルニア大学のケック医学校を中心とする研究チームが、バイオ医薬品による実験的治療をおこないました。被験者となった21歳の青年は、同年3月6日に起きた車の交通事故で頸椎(けいつい)に外傷を負い、治療前は首から下が一生麻痺したままの可能性が十分にある状況だったとのことです。

脊髄損傷後におこなわれる治療といえば安定化させる手術が一般的であり、それによって麻痺した手足の感覚が戻るケースはほとんどありません。それに対し、この新しい治療法は「幹細胞から作られた特殊な細胞を患部に注入する」ことで、損傷した神経の修復をねらいとしています。
脊髄を損傷し身体が麻痺してしまった患者さんにとって、再び手を動かせるようになるかどうかはその後の日常生活の質に大きくかかわる問題です。研究チームは神経機能を向上させる方法を試験中であり、これが手を動かせるようにする治療法につながる可能性もあります。

3カ月で手を動かせるようになり周囲はうれしい悲鳴

ケック医学校の発表によると、被験者の青年に改善の兆しが現れ始めたのは、注入手術から2週間後だったそうです。そして、3カ月後には自力での食事、携帯電話の操作、名前の筆記、電動車いすの操作、友人や家族の抱擁などができるようになりました。つまり、2つの脊髄レベル(C2~C4とC5~T1)までの運動機能がある程度回復してきていることがわかります。

もちろん、歯を磨いたりコンピューターを操作したりできるだけで自立した生活が送れると誇張することはできませんし、今後さらに身体機能が回復してゆくとも限りません。しかし、世界の最先端をゆく実験的治療の被験者として抜擢(ばってき)され、こうした奇跡的な結果が少しでも現れたことは、青年の両親にとっては大きな感動であったようです。

研究チームは、注入手術から7日後、30日後、60日後、そして90日後にも青年の経過をみており、180日後、270日後そして1年後には詳細な評価をおこなうとしています。

最先端のバイオ医薬品「AST-OPC1細胞」とは

今回の実験的な幹細胞治療で青年の頚髄に注入されたのは、1千万個の「AST-OPC1」と呼ばれる細胞です。AST-OPC1細胞は、「胚性(はいせい)幹細胞」を、神経細胞を正常に機能させる役割が知られている「オリゴデンドロサイト前駆細胞」へ慎重に変換させることによって生成されます。

前臨床試験においては、AST-OPC1細胞が神経栄養因子を生成し、血管新生反応を起こして露出した軸索の再ミエリン化を誘発するという結果が出ているとのことです。これらの働きはいずれも、脊髄の損傷部位における神経インパルスの生存、再生、そして軸索を通る誘導などにかかわる非常に重要なものだといいます。
このバイオ医薬品はカリフォルニア州のフリーモント社が開発したもので、現在は安全性と効果を調べるための臨床試験の最中です。今回の実験的治療も、その一部となっています。

完ぺきとはいかないまでも、1度は完全に感覚の失われていた手を再び動かせるという快挙は、その後の患者さんの生活を大きく変えることでしょう。注射で麻痺を改善できるという革新的なこの治療法の今後の進歩が期待されます。

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