1. レーザー治療のたびに開頭しなくて済む!透明の頭蓋骨インプラント新素材を開発中

海外医療トピックス

2016.10.11

レーザー治療のたびに開頭しなくて済む!
透明の頭蓋骨インプラント新素材を開発中

延命の手立てがあったとしても、侵襲性の高い外科手術が前提ならば、事前にそのリスクを慎重に考える必要があります。たとえば、レーザー治療が必要で、疾患部位が脳の場合、開頭するしかありません。
しかし、仮に頭蓋骨(ずがいこつ)にレーザーを通す「透明な窓」があれば、事情は変わってくるのでしょうか?カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)がインプラント用の新素材研究を進めており、その進捗(しんちょく)状況の発表が話題となっています。

外から脳のレーザー治療を可能にするインプラント

「外部から脳にレーザー治療を施すため、頭蓋骨に窓をつける」UCRが中心となり、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)やメキシコ科学研究・高等教育センター(CICESE)と共同で進めているこの斬新(ざんしん)なプロジェクトは、UCRの研究チームが「イットリア安定化ジルコニア(YSZ)」を透明にする方法を発見したことから始まりました。

イットリア安定化ジルコニアとは、ジルコニアに酸化イットリウムを加え室温下での結晶構造を安定させたもので、股関節インプラントや歯冠(しかん)の素材として知られています。透明な素材は他にもありますが、イットリア安定化ジルコニアはガラス系素材よりも耐衝撃性に優れているのが特長です。UCRの発表によると、現在のところYSZが人の頭蓋骨インプラントに利用できそうな唯一の透明素材とされています。

研究チームの最終ゴールは、レーザー治療が必要な脳障害をもつ患者さんにとってこの「頭の窓」が標準的な処置になるほど、技術開発を進めることだそうです。

インプラントによる細菌感染症を克服する方法

YSZが頭蓋骨の一部を置き換える素材として優れているとはいえ、それだけではインプラント移植は成功しません。頭蓋骨インプラントの主な失敗原因の1つが細菌感染です。

その課題を克服する方法についても、研究チームは医療レーザーの学術誌「Lasers in Surgery and Medicine」で説明しています。透明インプラントの移植によって発生する可能性のある感染症問題を、インプラントのおかげで克服できるというのです。

研究室でおこなった大腸菌感染の実験では、透明YSZの利便性を活かし、レーザー照射によって周りの組織を損傷することなく治療に成功。本来は脳障害のレーザー処置を目的とした研究ですが、透明のインプラントと医療レーザーの組み合わせは、細菌感染症の治療にも有利であることを示しました。

仮にインプラント移植によってこのような脳の細菌感染症が発生し抗生物質を投与しても、その多くは血液脳関門(Blood Brain Barrier)を通過できないため、治療は困難です。そのことからも、この発見はとても重要だと言えるでしょう。

ハムスターへの移植実験が無事成功

ナノテクノロジー、生物および医学専門の学術誌「Nanomedicine」でチームが発表したもう1つの新しい研究は、動物モデルを用いたYSZ移植実験の結果です。ハムスターの頭蓋骨に透明YSZインプラントを移植した結果は良好で、免疫応答やその他の副作用も出ることなく宿主の組織に適合したといいます。

チタンや熱可塑性ポリマーなどの生体適合性の高い従来の素材と比較した結果、YSZがさらに優秀であったこともわかりました。それに対し、この研究を主導するギレルモ・アギラール博士は、「透明YSZを頭蓋骨インプラント用の素材として開発している我々にとって、これはもう1つの朗報だ」と今後の研究への意気込みを新たにしています。

果たして患者さんが「透明な窓」を用いて脳のレーザー治療を受ける日は来るのでしょうか?より安全性の高い医療を実現する技術開発のひとつとして、この研究の今後を見守りたいところです。

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