1. 世界が一丸となり取り組むべき課題:抗菌薬耐性の怖さ

海外医療トピックス

2016.08.30

世界が一丸となり取り組むべき課題
抗菌薬耐性の怖さ

抗菌薬に耐性を持つ驚異の菌「スーパーバグ」。イギリスのエコノミストであるJim O'Neill氏が行った研究を元に、「このままでは2050年に達する頃には毎年1,000万人が、スーパーバグが原因で死亡するようになる」との警告が出されました。これは、実に3秒に1人が死亡する計算になり、決して軽視できる問題ではありません。

世界的に感染が広がるスーパーバグ

近年、抗菌薬が効かない細菌「スーパーバグ」の存在が、世界各国の医療ニュースで取り上げられるようになってきました。O'Neil氏がチェアマンとなって発表が行われた報告書、「Review on Antimicrobial Resistance(抗菌薬耐性に関する考察)」によると、このままでは2050年には毎年1,000万人が抗菌薬耐性(AMR)によって死亡することになると予想されています。これは現在の年間死亡者数70万人の15倍に近い数字です。

報告書のなかでO'Neil氏は、今回の調査が開始された2014年の夏から、結果が発表された2016年5月という短い期間でも、スーパーバグが原因で死亡した人数は100万を超えていると述べています。また、このままスーパーバグによる問題が続けば、2050年までに世界経済が受けるダメージは100兆ドルにも達するのではないかとも予測しています。
この数値を現実のものとしないために、今、我々は何をするべきなのでしょうか。以下にO'Neil氏の提案した内容を紹介します。

行動を起こすべき10の分野とは?

報告書内でO'Neil氏が提示した「行動を起こすべき10の分野」は以下のとおりです。

  • 1. 世界的啓蒙活動の実施:まずは、「問題を抱えている」という現実を世界各国のより多くの人々に知ってもらうことが大切です。これにより、患者さんが不必要に抗生物質を欲しがったり、医療スタッフが過剰に抗生物質を処方したりするケースを減らす必要があります。
  • 2. 衛生状態の向上と感染拡大の予防: 菌の感染の拡大を最小限に抑えるには、衛生状態や衛生観念の向上が欠かせません。これは、19世紀も今も変わらぬ課題です。菌に感染する人の数が減れば、抗菌剤の使用率も下がることになります。
  • 3. 農業分野での不必要な抗菌薬使用の中止: 現代の農業界や水産業界には「抗生物質の使用は不可欠」という風潮があります。しかし、その多くは病気の動物の治療ではなく、感染予防や成長促進の目的で用いられています。アメリカではFDAが人にとって重要であると判断した抗生物質の70%が、動物への使用目的で販売されているそうです。
  • 4. 人と動物における薬剤耐性・抗菌剤消費に対する世界的監視システムの強化: 感染症の管理で重要なポイントのひとつに「監視」がありますが、AMRに対する監視システムが設立されたのはつい最近のこと。各国の政府には、自国内の抗生物質の使用やその耐性に関するデータを採取する努力が求められており、耐性を生み出す原因となっている、生物学的理由を見い出していく必要があります。
  • 5. 不必要な抗菌剤使用を止めるための新しい診察システムの推奨: 抗生物質の使用を減らすには、より素早く正確な診断ができるようなシステムを構築する必要があります。
  • 6. ワクチンやその他の方法の開発・使用の推奨: 感染症が発生しなければ、抗生物質を使用する必要はありません。ワクチンやその他の方法で感染症の発生を予防すればいいのです。
  • 7. 感染症分野で働く人々の労働環境をよりよいものに: 医療分野を進展させていくには「その分野で働きたい」と感じてもらわなければなりません。今回のケースでは、感染症分野で働く人の質を上げ、数を増やさなければならず、感染症分野の労働環境をよりよいものにし、給与も上げる必要があります。
  • 8. ファンドの設立: AMRに関するデータを採取する機関(個人・公共とも)の数は、現在不十分です。こういった機関をより増やすにはその資金調達源となるファンドを設立する必要があります(イギリス、中国、アメリカではすでにファンド設立済み)。
  • 9. 新薬開発・既存薬改善への投資や報酬金の推奨: 現状では、抗生物質の新薬の開発や既存薬の改善を行うことに資金や時間をかけることは、企業にとって魅力の低いこととなっています。政府は、こういった研究を行う企業に対して報酬を用意するといった施策を行う必要があります。
  • 10.行動を起こすための世界的連合の結成: AMR問題は、一国で独自に解決できる問題ではありません。G20やUNを含む世界的連合を設立して取り組みを行っていくべきです。

正確なデータの採取がこれからの医療のプラスに

このまま対応が遅れると、数十年後には多くの人々の命を脅かす存在として、スーパーバグはその勢力をどんどん強めてしまう可能性があります。それを防ぐために、世界中の医療機関や研究機関が協力し合い、一丸となってこの問題に取り組んでいくことが求められています。そんな現実を人々は受け入れ、行動に移していかなければならないでしょう。

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