1. 手術部位感染を防ぐ最先端技術 安全にMRSAを殺菌できる遠短波長紫外線

海外医療トピックス

2016.08.09

手術部位感染を防ぐ最先端技術
安全にMRSAを殺菌できる遠短波長紫外線

手術につきまとう、手術部位感染のリスク。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のような薬剤耐性菌に悩まされている医師は多いことでしょう。そんなMRSAへの感染を防ぐ技術の研究が、米国のコロンビア大学医療センターで進められています。

医療業界に大きく貢献する可能性があるとの期待からメディアがこぞって取り上げた、今回の新しい発見の詳細をご紹介しましょう。

遠短波長紫外線(遠UVC)は救世主となるか

海外の医療系情報サイト「メディカル・ニュース・トゥデイ」によると、清潔な環境で行われた手術の場合でも0.5~10.0%の確率で手術部位感染症が起こると推定されるそうです。それを米国全体の人口で換算すると、年間275,000人に相当します。

手術部位感染症にかかった患者さんの死亡率は、感染しなかった場合と比べると2倍となり、年間8,200人が手術部位感染症によって亡くなっているとのことです。手術部位感染症によって長引く入院費用の総額は、年間最大100億ドル(約1兆円)にのぼるとも考えられています。こうした状況を悪化させている、MRSAのような薬剤耐性菌の問題も解決の兆しが見えていません。

そんななか、コロンビア大学医療センターが主導する研究が注目されています。より安価で安全な感染防止策として、遠短波長紫外線(遠UVC)を照射し手術部位を殺菌しようというのです。

MRSAを殺菌しつつ人体には安全な207ナノメートルの波長

コロンビア大学医療センターが「PLOS ONE」で発表した論文によると、研究チームは紫外線による殺菌を研究するなかで遠短波長紫外線の有用な特性を発見したといいます。

海外のニュースサイト「Newswise」によると、この研究チームが行ったこれまでの研究により、紫外線がMRSAの殺菌にも有効であることはすでに明らかになっているとのこと。ただし、患者さんと医療スタッフの健康被害が懸念されるため、現在のところ現場では使用されていません。

これに対し、今回の新しい発見は、有害であるはずの紫外線のなかに「照射しても安全な波長」が存在するというものでした。コロンビア大学医療センターが今回の研究で用いた波長は、207ナノメートル。この水準での照射では、殺菌効果はそのままに、生物学的な損傷は起こらないようです。

人工皮膚とヘアレスマウスを用いた実験結果は良好

207ナノメートルの遠UVCが人体に害を及ぼさないのは、角質細胞や角膜の厚さを貫通できないから。つまり、その下の生きた細胞が紫外線にさらされることはないのです。それでもウイルスや細菌は非常に小さいため、遠UVCでも浸透し殺菌できるのだといいます。

コロンビア大学医療センターが新たに取り組んだ人工皮膚とヘアレスマウスを用いた実験においては、いずれも細胞は損傷しませんでした。この遠UVCなら安全な手術部位感染の防止策として臨床利用にこぎ着けられるのではと、研究者の間でも熱気を帯びています。

研究に携わっているデビッド・J・ブレナー博士は、次のステップのひとつとして、外科的な設定で大型動物やヒトを対象とした実験が必要であると話しています。これにより、結核、インフルエンザといった浮遊菌やウイルスに対して、今回発見した遠UVCの殺菌力が効果を発揮するかどうか調べられるとのことです。

MRSA殺菌法として、臨床での実用化に向けて着々と研究が進んでいる遠UVC。手術部位感染症をゼロにすることはできないにせよ、これが実際に外科手術の現場に登場すれば、きっと多くの人々の感染症を防いでくれることでしょう。

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