1. 学会誌発表!メイヨークリニックが発見した腫瘍メカニズムは、新たながん治療につながるか

海外医療トピックス

2015.10.26

学会誌発表!メイヨークリニックが発見した腫瘍メカニズムは、
新たながん治療につながるか

医療が発達した現在でも多くの患者さんの命を脅かす「がん」ですが、アメリカで新たながん治療につながる可能性のある腫瘍メカニズムが発見されました。
このメカニズムの研究を行ったのは、メイヨークリニック、フロリダ・キャンパスのがん生物学科長、パノス・アナスタシアディス博士の研究室です。研究者たちは、がん細胞をプログラミングし直すことで正常細胞に戻せるのではないかと考えています。
ここでは、この研究についてメイヨークリニックがインターネット媒体の報道機関「アルファ・ガリレオ」に発表した情報を中心にご紹介します。

がん細胞を良性細胞に戻すことは可能か?

がんは正常な細胞から発生した「異常な細胞」で、体の状況などを無視して増え続けます。今回発見されたメカニズムは、この「異常になってしまった細胞」を正常な細胞に戻せるかもしれない、というものです。
この異常な細胞を、細胞全体を統括しているプロセッサのプログラミングが狂うことによって生まれたものと考えてみます。つまり、プロセッサが異常な命令を出している状態です。このとき、そのプロセッサをプログラミングし直し正常な命令を出させることで、がん細胞を正常細胞に戻せる可能性があるというのが、今回の研究の趣旨です。
それは一体どのような仕組みなのでしょうか。

キーとなるのはマイクロRNAと接着タンパク質の相互作用

新たに発見されたこのメカニズムのキーとなっているのは、「マイクロRNA」と「接着タンパク質(Adhesion Proteins)」の相互作用です。これらは通常、細胞同士の接触・接着において、それぞれ次のような働きをすると考えられています。

マイクロRNA(のうち、特定のもの)
正常な細胞同士が接触するときに、細胞の増殖を促す遺伝子の動きを抑制する(すなわち、細胞の成長を抑える)。
接着タンパク質(Adhesion Proteins)
組織を形成するために、細胞同士を接着する。

今回の研究では、研究者ががん細胞のサンプルを観察したところ、接着タンパク質で接着されている部分に異常が出ていると、マイクロRNAにも異常が発生していることが判明しました。マイクロRNAに異常が発生していると、この分子は、本来の働きである「細胞の増殖を促す遺伝子の動きを抑制する」という力を発揮できません。つまり、細胞の増殖をコントロールすることができない状態(すなわち、「がん」)になるというわけです。

そして、がん細胞内のマイクロRNA発現量を通常レベルに修復すれば、こうした異常な細胞増殖が元に戻る可能性のあることが実験で示されました。
では、この「マイクロRNAに異常が発生している」ときに同時に観察されていた「接着部分に異常が出ている」とは、どんな状態のことでしょうか。

接着部分の異常とはどんな状態か?-接着タンパク質E-カドヘリン、p120カテニンが持つ2つの顔

ここで注目されているのは、「E-カドヘリン」 と「 p120カテニン」という2つの接着タンパク質です。これらは、長い間、腫瘍を抑制するものと考えられていました。
しかし、研究者はその仮説に矛盾する現象を発見したのです。それは、「腫瘍細胞にもE-カドヘリンとp120カテニンが存在する」というもの。つまり、腫瘍を抑制するはずのそれらが存在しているにもかかわらず、腫瘍が発生していたということです。

この発見により、これらの接着タンパク質には、細胞を正常に維持する「良い働き」と、腫瘍形成性の「悪い働き」という、二面性があることがわかりました。それでは、なぜ、善悪2つの顔が現れるのでしょうか?
その謎を解明するために、研究者はE‐カドへリンとp120-カテニンと共に存在する新規タンパク質「PLEKHA7」について研究を進めました。

タンパク質PLEKHA7との関係

PLEKHA7がE‐カドへリンとp120-カテニンと共に存在しているときは、あるメカニズムによって細胞は正常な状態に保たれます。すなわち、この2つの接着タンパク質が「良い顔」を見せます。
ところが、PLEKHA7が失われると、細胞間接着複合体に異常が生じ、マイクロRNAにも異常が発生します。このとき、E-カドヘリンやp120カテニンは、腫瘍形成性という「悪い顔」を見せるのです。つまり、E-カドヘリンとp120カテニンが「悪い顔」を見せる条件は、「PLEKHA7がないとき」ということになります。

がん治療へのアプローチ

今回の研究について、同病院のアナスタシアディス博士は、「がん細胞においては、異常になったマイクロRNAの発現量を正常レベルに戻すことによって、がん細胞増殖への『ブレーキ』を復活させ、細胞の正常な機能を回復することが可能ではないか。一部の侵攻性(aggressive)のがんについての初期実験は、非常に良い結果が期待できそうだ」と述べています。

つまり、この研究においては、異常になったマイクロRNAの発現量を正常レベルに戻すということが、「がん細胞をプログラミングし直す」ということにあたります。
がん細胞を正常に戻す糸口である今回の発見は、新たな治療法の確立につながるのでしょうか?
メイヨークリニックが行う研究と今後の学会発表に期待が高まります。

※この研究についての論文「Distinct E-cadherin-based complexes regulate cell behaviour through miRNA processing or Src and p120-catenin activity」は、学術誌「Nature Cell Biology 17(2015年8月24日発行、DOI: 10.1038/ncb3227)」に掲載されています。

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