1. 「もしも」に備える 医師賠償責任保険について

医師のための医療情報特報便

2019.07.24

「もしも」に備える
医師賠償責任保険について

医療の技術が発展し、誰もが安心して医療を受けられる時代となりました。今や病院や医療機関はなくてはならない存在となりましたが、その反面、医療事故による訴訟問題も増えているのが現実です。医事関係訴訟事件は、平成21年度の新受732件に対して、平成29年度では新受857件と、約10年で100件近く増えており、訴訟により損害賠償金が発生することもあります。そのような場合に備えて、今回は賠償責任保険についてみていきます。

賠償責任保険とは?

訴訟はさまざまなことをきっかけに起こりうる問題です。その際に賠償責任保険に加入しているか否かで、賠償金などの負担が変わってきます。

日本医師会によると医療訴訟は、患者の意識変化や医療技術の進展、説明不足や誤解などさまざまな要因で起こると説明されています。医療訴訟については、ピークが平成16年で1,110件、平成23年は769件でした。その後、新規の訴訟は増えたり減ったりしていますが、解決した訴訟件数が新規の訴訟件数を下回っているため、相対的に見ると訴訟数は増加傾向にあります。医療訴訟に関しては、誰もが訴訟の対象となる可能性があり、高額な損害賠償を請求されることもあるため、その際に賠償責任保険に加入しているかが重要となってきます。

賠償責任保険について

医師を対象とした賠償責任保険にはいくつか種類があります。今回は、日本医師会の「日本医師会医師賠償責任保険制度」について以下で詳しく見ていきます。

・日本医師会医師賠償責任保険制度の特徴

昭和48年に医師賠償保険制度を発足させ、現在まで医療事故紛争の適正な処理に貢献してきていますこの保険制度は、会員相互の互助の制度であるとともに、被害者である患者の保護救済にも役立つものであるとしています。

この保険は略して「日医」と書いてあることが多く、日医医賠償保険制度は都道府県医師会で集められた医療事故紛争の関係資料に基づき、調査委員会で委員が調査検討し、日医とは切り離された中立機関である「賠償責任審査会」で公正中立の立場で審査し、その審査結果に基づいて調査委員会、日医、都道府県医師会の三者が一体となって協力して、会員と一緒に紛争を解決していくというものと明記されています。

つまり、この制度は医師会が責任を持って訴訟解決を支援する仕組みだと言えます。

保険に入るべきか否か

医療事故統計センターによると毎年800〜870件の新しい訴訟が増えていると報告されています。

訴訟件数が5年間800件以上で続いていることは、決して少ない数であるとはいえません。訴訟に際しては高額請求を求められることもあります。以下に実際に高額訴訟となった例を挙げます。

・千葉大医学部付属病院で起きた事例

A患者さんが千葉大医学部付属病院にて形成外科手術を2012年8月に受けました。手術内容は上あごと下あごのズレを矯正する手術でした。この際、気管切開をして呼吸用チューブを取り付けましたが、手術の4日後、チューブにたんが詰まって窒息状態になりました。異変に気づいた女性看護師2人が5分ほど吸引しましたが改善せず、低酸素脳症による意識障害となった事例です。

A患者さんの両親が術後の処置ミスで患者さんが重い障害を負ったとして損害賠償を求めました。

東京地裁の判決は、看護師が呼吸の回数や脈拍を確認する義務があったにもかかわらず、男性の様子を十分に把握していなかったと指摘。医師を呼ばずに吸引を続けたのも不適切で、「早く処置をしていれば障害は生じなかった」と認定しました。

この事例に関して東京地裁は病院側に約1億5千万円の支払いを命じています。また、このように医師が直接的に犯したミスでなくとも、病院や医師が責任追及されることがあります。

・大分県 市民病院で起きた事例

B患者さんは尿路感染症や脱水症の疑いで平成17年7月に入院しました。7月21日午前11時ごろ、治療のため市民病院内にて30代医師が静脈に点滴用カテーテルを挿入したところ、左肺に気胸を起こして呼吸不全や循環不全となり、意識が戻らないまま同日午後4時ごろに死亡したという事例です。死亡原因としてカテーテルの針の先が静脈を突き破って、肺に達したことが挙げられています。

この事例は裁判ではなく病院側が医療ミスを認め、遺族に和解金や損害賠償金を1,000万円支払うことになりました。

医師として、現場で働き続ける限り、自らが訴訟対象になる可能性もあります。医療訴訟を身近なことと捉え保険に加入することを検討していく必要があるでしょう。

まとめ:もしもに備えて

今回は医療訴訟などに関する賠償責任保険について考えてきましたが、いかがでしたでしょうか。医師は人の命と密接に関わる職業です。勤務医の場合は、アルバイトなどを含めると複数の勤務先があることも珍しいことではなく、医療事故の当事者になってしまう可能性もあります。

しかし、その可能性があるとわかっていても、保険に加入していない方がいらっしゃるのではないでしょうか。「もしも」に備えて賠償責任保険の検討が必要でしょう。

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