1. PHR(パーソナル ヘルス レコード) これからどうなる医療情報

医師のための医療情報特報便

2019.02.15

PHR(パーソナル ヘルス レコード)
これからどうなる医療情報

病院を受診する際や入院をする際には、必ずと言っていいほど問診があります。問診した内容はその人の「医療(個人)情報」になりますが、問診以外にも検査や治療した際の情報などがそれに値します。医療情報は本人か医療福祉機関しか知り得ることはない情報です。しかし近年、これらのデータを一元化して管理するPHRというシステムが注目されています。今回はこのPHRについて考えていきます。

PHRとは?

PHRとは、パーソナル・ヘルス・レコード(Personal Health Record)の略で、生涯型電子カルテを指します。生涯型電子カルテとはその名の通り、個人の生涯にわたる医療情報を電子カルテ化して、一元的に管理することをいいます。この医療情報には診療所や病院での検査結果や診断、治療、服用薬はもちろんのこと、健康診断の結果や自宅で測定した血圧や体温なども含めて、これらの医療情報を統合的に記録、管理しようとするシステムがPHRです。

PHR導入のメリット、デメリットは?

PHRは個人の裁量で自由に受診する病院を選択できる日本において、大きな効果をもたらすといわれています。フリーアクセスが可能となっている現状では、どんな方でも自分が納得するまで自由にどこの病院を受診することも出来ますし、ある程度の治療であれば皆が平等に治療を受けられる権利があります。これは一見素晴らしいシステムに感じますが、どの医療機関でも自由に受診可能ということによって情報が分散しやすく、受けたい治療があった際にも、過去に遡って必要な情報を得ることが難しくなってしまいます。

他国には、日本のような受診する病院を自由に選択する形ではなく、加入している保険などによってかかりつけ医が決まり、服薬する薬の種類が決まる国もあります。そういった制度をとっている国は医療を国営化しており、患者さんがどの機関で自分の医療、健康情報を提供しても一元的にその情報を管理する場があります。また、医療を提供する側が過去からの正確な情報を全て確認することが出来るので、安全かつスムーズな医療提供が可能となります。

以下では、PHRのメリット、デメリットをもう少し詳しくみていくことにしましょう。

PHRのメリット

医療的な観点から言えば、情報を一元化して、まとまった正確な情報をすぐに受け取ることができるということは、フリーアクセスである日本では沢山のメリットがあります。

たとえば他院からセカンドオピニオンなどで受診を望んでいる際、診療情報提供書があれば円滑に対応できます。しかし、無い場合、PHRがあればすぐに医療情報を確認して対応することが可能になります。

また、フリーアクセスが可能な日本でPHRが普及することにより、他院での受診歴、投薬情報などをすぐに確認できるようになります。これにより投薬の際、同じ薬を処方されていないかなどを確認できるので、二重投与を回避することにもつながります。

2008年から特定健診・特定保健指導が始まったことで、国民の医療、健康に関する関心は高まりを見せています。自分でスポーツジムに通う、食事に気を遣うことで健康を意識する人も増えてきたと思います。スポーツジムなどでも、PHRの普及を将来的には検討されています。もし運動量や食事の内容などを医療機関にも共有できるような形になれば、スポーツジムでの記録を医師が確認し、運動量や食事量に基づいた運動指導などを更に効率的に行えるようになります。

このようにPHRが普及し、医療機関だけでなく地域に点在する医療、健康に付随する施設の情報が共有されることによって、その人の医療、健康に関する問題を解決しやすくなるメリットがあります。

PHRのデメリット

医療機関や産業医、そして患者さんにとっても診療や指導、そして自分の健康を考えていく上で、記録を共有できることは大きく役立つと言えるでしょう。一方で、こういった仕組みを日本で広めていく上ではいくつかの問題点もあります。

まず、情報を一元化する上で情報セキュリティは万全なのかという問題です。医療情報は個人情報の中でも特にプライバシーが集約された内容になります。一元化できたとしても、セキュリティが万全でなければ情報漏洩につながり、医療、社会を良くするためのツールが悪用されてしまう可能性もあります。情報を管理する会社のセキュリティが万全であったとしても、その会社自体がどのような収益体制を維持しながら、情報の一元化という事業の基盤を保ち、継続させていくのかが課題になっていくでしょう。

PHR普及の先に見える医療

高齢化社会である現代において、医療、福祉の重要性は計り知れないものがあります。しかしその一方で、医療・福祉機関を利用する方が多くなることが医療費高騰にも繋がります。PHRの導入によって、医療費高騰により現在の制度が崩壊してしまえばPHRも本来の役割を果たすことは出来ません。

実は今、PHRは単に情報共有する仕組みとしてだけではなく、自身をセルフマネジメントすることによって、場合によっては医療機関を受診せずに健康を維持することが可能になるのではないかと考えられています。体重や血圧、食事の記録を自分で毎日手帳に記載している方もいるのではないでしょうか。そのように自身のことを記録し、健康における自己課題を導き出して必要に応じて運動や食生活を見直していく方法は「セルフレコーディング」といわれます。セルフレコーディングは、自分で自分の健康をマネジメントするわけですから、しない人よりもする人の方が病気を未然に防ぎ、身体機能に良い影響を与えるとされています。

セルフレコーディングを実施する際、現代においては手帳よりもスマートフォンや電子ダブレットが主流となっています。スマートフォンや電子タブレットは、どこにでも持ち運べて簡単に記録できるツールとして、PHR普及に向けても大きく期待されています。端末さえあれば、どこにいても医療機関で撮影したCTなどの画像や血液データ、スポーツジムや家庭でのセルフレコーディングなどを共有できるということになれば、救急受診や災害の現場でも役に立つと考えられています。また、医師がPHRによってその情報を共有し、患者さんが受診せずとも端末を通じてアドバイスを与えることが可能になるかもしれません。また、病院以外でも地域の健康に関する施設にて医師の記録をもとに運動や食事指導ができることにも繋がってきます。これらはすなわち、医療費の削減にもなるのです。

まとめ:PHRをうまく活用した社会

日夜問わず働き、医療業界を牽引している医師であれば、PHRは聞いたことがあり興味関心がある言葉だと思います。しかし、一般社会においては情報が少なくまだまだ不透明なことが多いのが現状です。そのため、今後はPHRのことを理解して発信していく医師がより多く必要になってきます。PHRが普及することで個人の医療情報を効率よく管理・共有・活用でき、さらに医療費削減に繋がり、我が国の医療制度を維持することにもなり、必要な人に必要な医療情報を届けることが可能となる社会に近づきます。PHRは多くの個人情報を取り扱うことになるため、上述したようにセキュリティ面などの課題もあります。今後は電子端末などを通じて、実用に向けて働きかけながら課題を克服し、PHRをより多くの人の支援に役立てる社会を構築することが望まれます。

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