1. 診療拒否って可能!? 診療拒否における日本の現状

医師のための医療情報特報便

2018.12.03

診療拒否って可能!?
診療拒否における日本の現状

医師は患者さんに対して真摯に向き合い診察をする義務があり、これは医師法第19条に定められています。それでは、医師は命の危険や精神的危機など、どんな状況にあったとしても必ず診察しなければならないのでしょうか。今回は、診療拒否の現状や今後トラブルを防止する際のポイントについて考えていきます。

応召義務について

医師である限り患者さんに対して真摯に向き合い診察する必要があります。医師法19条で「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければこれを拒んではならない。」と、診察に応じなくてはならない応召義務が定められています。この義務は、医師と患者さんの間に診療契約が結ばれていなければ公法上の応招義務違反を理由に民事責任を追及できないと解されています。しかし、その一方で医師には診察拒否をすることは許されないという意味にも捉えられ、患者さんはどんな状況においても安心していつでも診察を受けることができると解釈されることもあります。

では、医師はどんな状況下においても診療を実施しなければならないのでしょうか。この法令は、もともとフランスの刑法を基本としており、ドイツなどの大陸法を参考に戦前、戦後改定を重ねながら今日の医師法の形になりました。

立法関係者は、「医師の応召義務は法以前のものである性格にかんがみ、これは罰則を伴わない倫理規程であるとの認識に」たったものと解説しています。(高橋勝好「医師に必要な法律」南山堂)

つまり、過去の時代背景により生み出されたこの条文は、医師の住み分けが一般化し、たくさんの医療機関が整備された現代においては、少々時代錯誤なものになっているようです。

日本では医師のみが一方的に診察に応じる義務がありますが、外国では異なります。一例としてドイツの「医師職業規範」によると、「医師はその職業を行う場合自由である。医師は自分と患者さんとの間に必要な信頼関係がないと確信したときなどには、診療を拒否することが出来る。救急の場合に救助するという義務はこれに該当しない」とされています。つまり、医師法の中で医師が場合によっては診療拒否をすることも可能であると規定しているのです。

診療拒否の実際

日本では、診療を拒否することは難しいことを前述しました。ではここで、実際に診療拒否をした事例で違法となった事例、違法とならなかった事例の両方を見ていきます。

診療拒否をして違法となった事例

千葉地裁昭和61年7月25日判決の事案です。

「呼吸促迫とチアノーゼが出現している1歳女児の受け入れ要請を受けた救急告示病院(小児科38床)は満床を理由に収容を断ったが、その返事を待たずに救急車は出発し同病院に到着した。その後、救急車は同病院前で約1時間にわたり搬送先を探したが見つからず、その間にも数回にわたる受け入れ要請を同病院に行ったが拒否された。結局、同病院の小児科医が救急車内で診察を行い搬送に耐えうると判断し、約2 時間かけて管外の小児科医院に搬送したが、女児は死亡した。」というものです。

この事案の争点は「救急性がある場合、満床という理由だけで受け入れを拒否するとこが妥当であったか否か」です。結果として、裁判所の判断は「救急告知病院は救急患者用の優先的な病床を有すること」が求められ、「満床」のみでは正当な理由とされず、応召義務違反とされて損害賠償請求が認められたという事案でした。

従来同じような事案の場合、判例では「応召義務違反で民事責任はなし」としていましたが、この事案において裁判所は異なる判断を下しました。「医師が診療拒否によって患者さんに損害を与えた場合には、医師に過失があると一応の推定がなされ、診療拒否に正当な事由があるとの反証がない限り、医師の民事責任が認められると解すべきである」として、 公法上の応召義務違反を民事上の過失として取り扱うことを判示したという例です。

診療拒否をして違法とならなかった事例

札幌地裁平成13年4月19日判決の事案です。

「酩酊して交通事故を起こした男性が、病院に救急搬送された。男性は医師らの説明、説得にもかかわらず検査の続行を拒否して警察の事情聴取へと向かったが、警察署でスポーツ飲料を飲んだ途端に倒れて再度救急搬送されたものの死亡した。本件は、患者さんの妻子が、医師には診療を続行すべき義務の違反があるなどとして損害賠償を求めたものの、審理の結果、請求が棄却された」というものです。

この事案の争点は「医師らに1度目の搬送時、患者さんの診察、検査を続行すべき義務や経過を観察すべき義務があったか否か」です。

裁判所の判断としては、患者さんの状態が経過観察をすべきと判断された場合、患者さんが診察、検査を拒んだとしても人の生命および健康を管理すべき業務に従事するものとして医療行為を受ける必要性を説明し、適切な医療行為を受けるように説得する必要があったが、医師が説得を続けても患者さんが医療行為を受けることを拒否したため、それ以上医師らに経過観察すべき義務は無いとの見解でした。

なぜなら、医療行為を受けるか否かの意思決定は患者さんの人格権の一内容として尊重されており、最終的に医療行為を行うか否かは患者さんの意思決定に委ねるべきだと判断したためです。

診療拒否をする場合に留意するポイント

診療拒否をした場合の事例を2つ挙げましたが、実際にはこれよりも多くの事例があります。では、診察拒否がどのような場合に義務違反となるのか、その判断にはどのようなポイントがあるのでしょうか。前述した2例以外の事例も含めた判例と、過去の厚生労働省通知・回答から、診療を拒める正当な事由として次に挙げる3点のポイントが基本になると考えています。

  1. 医師側の事情:医師不在、病気、酩酊の程度、専門外、時間外など
  2. 患者側の事情:疾病が軽く、緊急性がない場合
  3. 地域・その他の事情:近くに専門医、専門病院がある場合

が挙げられますが、事案ごとに社会通念上妥当であるか否かを総合的に考慮するべきだと考えます。

まとめ:医師も人である

医師であれば誰しも直面する可能性がある診療拒否の場面。これから先、患者さんや病院を利用する人のヘルスリテラシーの低下や、社会情勢により様々な事案が突然発生する可能性がでてきます。そのような場合でも、どのような事案が民事上の過失を判断される傾向にあるのか、ポイントを知っているといないとでは、いざという時の対応が違ってくると思います。日ごろから不測の事態を想定し、今回の記事を参考にしながら関連法規を理解した上で、応召義務にとらわれることなく毅然とした態度で診療に臨むことが必要になると考えます。

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