1. 最先端のAI技術が可能にする「予防医療」 AI技術の利用における疑念

医師のための医療情報特報便

2018.11.06

最先端のAI技術が可能にする「予防医療」
AI技術の利用における疑念

現在の医療業界をみてみると、少子高齢化にともない医療費は年々増加しており、特に団塊世代の高齢化により一層加速しているのが現状です。一方で、医学部の定員を管理することで医師の数が調整されている結果として、地域や診療科によっては医師が不足しているという問題もあり、その打開策として近年、AI(人工知能)の医療への応用が推進されています。診断精度が向上し、医師不足の解消にもつながるという最先端のAI技術についてみていきましょう。

AI技術で、がん診断や創薬が劇的に変化

医療業界の課題を解消し、健康長寿を享受するためにも、“治療”から“予防”医療への転換こそがのぞましいとされています。しかし現状は、専門知識や高度なスキルをもつ医療従事者に大きな負担がかかっているという問題が起きており、その有効な打開策として、画像処理や機械学習などの技術を用いたAI技術が使われはじめています。

◆コンセンサスが進む「医工連携」

また、医療業界では診断の精度を向上させるため、「医工連携」して研究を積極的に進めています。たとえば、乳房超音波検査の動画像を用いたがん診断を支援する技術開発など、人工知能を用いた統合的ながん医療システムの開発への取り組みもなされてきています。
さらに、数理統計手法と高速アルゴリズムを導入することで、遺伝性疾患の複数因子を組み合わせて複雑な疾患を特定する手法も具現化されつつあります。今後は医療系機関との連携により、診断と治療に有効な医療技術の進展がさらに進んでいくと考えられます。

◆ロボット実験と人工知能の融合

また、ロボット実験と人工知能を組み合わせた創薬の支援も注力されており、AI・ロボット駆動型バイオ研究が推進され、診断マーカーの探索自動化、個別化医療の低コスト化などが実現間近です。この取り組みは世界的にも高く評価されており、2016年に開催されたタンパク質立体構造予測実験 CASP(12th Community Wide Experiment on the Critical Assessment of Techniques for Protein Structure Prediction)の多量体予測部門では、日本の人工知能研究センターのチームが世界第1位になるという快挙も成し遂げています。

◆AIで患者さんの治療計画を劇的に早める

AIを活用したがんなどの疾病検査や治療方法などの精度は、人間の医師の判断を凌駕しはじめています。2016年には、日本の有名大学の付属病院で医師陣が見抜けなかった特殊な白血病をAIがわずか10分ほどで発見し、治療法の変更を提言した結果、患者さんの命が救われるというケースもありました。
現在、診断(主に画像診断など)に多くのシェアをもつ代表的なAIの開発担当者は、「既存のガン治療においては、初期に適用した治療法の44%が途中で変更されているというデータがあることから、臨床現場の決定の半分は証拠がないといえる」と明言しています。

◆ビッグデータの処理が得意なAI

膨大なデータから適切な診断を下すことを可能にしたAIの能力は今後さらに発展し、従来では医師の経験則や勘で行われていた検査も、より効率的かつ的確な判断により精度を上げていくと予想されます。また、複雑な治療計画を立てる際にもAIの力が発揮されることで、これまで救えなかった患者さんの命を救える可能性がでてきたといっても過言ではありません。

病気と健康の未来を予測し始めるAI医療

世界中で導入されはじめたAI医療

2016年、英国の人工知能企業とロンドン大学が、がんの治療そのものにAIを導入していく計画を発表しました。たとえば、頭頸部がんの治療には放射線治療が用いられるのが一般的で、患者さんの健康な組織を傷つけないために、事前に放射線を照射する部位や方向、量、回数のプランをたてるのに約4時間を要します。
しかし、人工知能を上手く活用できれば、治療計画に要する時間は1時間にまで短縮できるといいます。こうした技術が今後どんどん実用化されていけば、現在負担を強いられている医師サイドからしても非常に大きなメリットであることはいうまでもありません。

◆ビッグデータの分析をもとに“未来予測”

AIと医療について考えてみると、その活用方法は診断や治療法の決定だけにとどまりません。AIの最も得意であり、人為の及ばない能力のひとつに、ビッグデータの分析をもとにした“未来予測”を行い、医療の水準をより高めていく可能性が挙げられます。2017年には、世界各国から“病気を予測するAI”の研究結果が発表され始めました。これはすなわち、“AI予測医療”の誕生と位置付けてもよいのではないでしょうか。
なかでも画期的なのは、カナダの研究チームがAIおよびビッグデータを駆使して開発した、発症2年前に認知症を予測するアルゴリズムです。これは現在、高齢化社会で激増している認知症への対策になるのではと、大いに期待が寄せられています。

◆AIを使った遺伝子分析でがん予防・早期発見

一方、遺伝子とがんの発病率の相関関係をAIおよびビッグデータ解析から、ある遺伝子情報解析企業が分析した結果によれば、がん発病の約33%~88%は遺伝的脆弱性によるもので、その他は環境や生活習慣によって左右されるという結論を導き出しています。
この研究結果は、いままで困難をきわめてきたがんの予防・早期発見方法において、AIを使った遺伝子分析が発展することで、がんを克服する時代が想定以上に早く訪れる可能性を示唆しています。しかし、病気と健康の未来を予測できる医療AIを使いこなすのも医師であることに変わりはなく、AIと医療従事者の協業が必要といえます。

医療現場でのAI活用、メリット・デメリット

医療関係者はAIと患者さんの橋渡し?

今、医療業界では他の産業と同じように“人間と人工知能はどちらが上か”といった論議が起きているのも否定できないところです。今後、医療関係者はAIと患者さんの“橋渡し”か“翻訳機”になってしまうのでは、という懸念もあるかもしれません。しかし、ベストな医療を提供するために、AIと人間の二者択一ではなく両者の連携こそが有効なのではないでしょうか。

◆AI活用のメリット

AI活用のメリットは、短時間で精度の高い診断ができることです。今後、AI医療がますます進化していくなかで、AIが病名を見抜き医師が症状に合った薬を出すだけになり、いつかAIに仕事をとって替わられるのでは、と懸念される方もいらっしゃるかもしれません。 しかし、患者さんが医療に求めているものとして、病気を治すことはもちろんですが、症状を和らげてほしい、話を聞いて不安を解消してほしいなど、さまざまな期待があります。

◆AI活用のデメリット

AI活用のデメリットは、AIの判断に100%誤りがないとは現状では断言できないこと、また、機械特有の故障や不具合の懸念も否めません。加えて、いくらAIが優れた判断を下すことができたとしても、患者さんがそれを信用するかどうかという問題もあります。 あと数十年経てば、医療面においてもAIを信じたほうが健康寿命を得られるというコンセンサスができるかもしれません。しかし、現状ではAIの診断結果を患者さんに適切に伝え、安心させるための仲介役が必要であり、その役割を担うのが医師といえるでしょう。

AI時代の医療は役割分担と協業

医師の仕事のなかでも特に大切なのは、問診から患者さんと深くコミュニケーションをとり、患者さんが本当に必要としていることやそれに対してできる医療を一緒にみつけることです。これは、現在のAIでは対応が困難なことであり、人間と同じような知性をもつAIが出現しないかぎり代替はできません。 AI時代の医療としては、データや画像分析はAIが下処理をして、確認や診断は医師がおこなうという役割分担が進むと考えられます。AIが発展を遂げるいま、医師や医療関係者が持つべきスキルや素養も変化していかなければなりません。

まとめ

AI医療が発展することで診断する過程において強力なバックアップを受けられ、医師は従来に比べてより患者さんに向き合う時間を持てるようになるでしょう。医療へのAIの応用は今後ますます拡大していくと想定されますが、AIがさらに高いパフォーマンスを発揮するようなったとしても、医療という分野は人間が築き上げてきた英知と経験なくしては成立しえないと考えられます。

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