1. 第3回目 「自分の『ストレス解消法』がよくわからない」

日常の「モヤモヤ」を「スッキリ」に変えるワザ 医師のための「セルフサポート・コーチング」奥田 弘美医師 監修

第3回目 「自分の『ストレス解消法』がよくわからない」

「疲れている」という自覚があっても、効果的な「休息の取り方」や有効な「ストレス解消」の方法がよくわからないというドクターも多いのではないでしょうか? ドクター自身が自分を「癒やすツール」を把握していないのは考えもの。
どんな感覚があればストレスコントロールの「よきツール」になるのか、考えてみましょう。

取材協力

奥田 弘美(おくだ・ひろみ)医師 奥田 弘美(おくだ・ひろみ)医師

精神科、精神保健指定医、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント、作家。
日本マインドフルネス普及協会代表理事、メディカル&ライフサポートコーチ研究会代表。

平成4年山口大学医学部卒。精神科医・産業医として都内20か所の企業で産業医として働く人の心身のストレスケアに携わるほか、東都クリニックにて診療およびコーチングやマインドフルネスを活用したカウンセリングを行っている。

事例
1か月後に臨床データをまとめた学会発表を控え、忙しくなってきた医局勤務のA医師(35歳・女性)。「化粧を落とさず寝てしまう」「ケアレスミスが増える」「身体が重い、だるい感じがする」など、ストレスがたまったときに表れがちな兆候が見えてきた。
そこで、ちょうど友人に「ストレス解消に行こう」と誘われ、休日に日帰りで温泉ドライブに行ったが、かえってひどくくたびれてしまった。しかし、忙しいこの時期に休日をまとめてとるわけにはいかない。疲れているときに、自分がどうすればいいのかよくわからない。「ストレス解消」ってどうすればいいのだろうか。

自分の「心のエネルギー消費を抑える方法」

前回は、「ココロ充電池」と「マイ・ストレスサイン」の見つけ方についてお伝えしました。A医師は、マイ・ストレスサインに気づき、何らかのケアが必要だと自覚することができました。
では、ココロのエネルギーが少なく、マイ・ストレスサインが表れているときの自己調整法にはどんなものがあるでしょうか。

まず注意したいのは、医師をはじめ、忙しく日々を送っている人ほど、リフレッシュするときも、「何もしない」ことが考えつきづらく、まず「何かを行う」ことでストレスを解消しようとする傾向があるということです。A医師のように、かなり疲れがたまっているところに、「ストレス解消」の名目でさらにエネルギーを消費する行動をすると、疲れを加速してしまう可能性が高いのです。
実際、私が過去に相談を受けた中には、「仕事が多忙すぎたので、気分転換したいと思ってスポーツジムに行ったところ、かえって疲労を上乗せしてしまって体調不良が悪化した」、「医局の人間関係の問題でイライラが続き、連日同僚を誘ってストレス解消のために飲み会をしていたところ、睡眠リズムが崩れて重症の不眠になってしまった」というケースもありました。

事例のように、マイ・ストレスサインが表れ、明らかな「疲れの兆候」が出ているときは、ココロのエネルギーを速やかに回復させる必要があります。まずはよく休み、エネルギーの消費を抑える行動をとりましょう。

  • エネルギーを補う行動⇒Charge!⇒【ココロ充電池】⇒Lost…⇒エネルギーの消費を抑える行動 充電レベル(マイ・ストレスサイン)点滅!

ココロのエネルギー消費を抑えるためには、日常生活を以下のような方針で過ごしてみてください。

①可能な限り、ストレスの原因から遠ざかる
ストレスの原因が明確なら、できるだけ遠ざけたり、防御するためのバリアを張ります。例えば、増えた仕事量を元に戻したり、関係が悪くなっている人と距離をおいてみます。
多くのストレスはそう簡単に排除できないもの。それでも、短時間、少しの距離でもよいので、物理的にも心理的にも遠ざけてみるようにしましょう。
職場でのことがストレスなら、1人で職場を離れてランチや夕食に行くのを増やしたり、家の中でエネルギーを使うなら、お気に入りの店でひと息ついてから家に帰るなど、ワンクッションおいてみましょう。

②しっかり休み、食べ、寝る
あたりまえのことなのですが、忙しさでエネルギーが消費されてしまった場合、やはり「休む」ことでエネルギーがチャージされてくることがほとんどです。でも、A医師のように「まとまった休みはとれない」のがドクターの悩み。
ならばまずは、日常にあるべき休み時間、すなわち休憩時間・睡眠時間を確保するところからはじめましょう。食後、すぐに検査データに目を通すのではなく、15分程度仮眠室で目をつぶってみたり、1時間でも早く帰宅してリラックス時間や睡眠を長くとるように心がけてみましょう。特に睡眠は、できるだけ6時間以上コンスタントに確保することをお勧めします。
リラックスするときも、SNSやゲームなど交感神経を活性化させることは避けて、ゆったりと心が落ち着くよう環境を整えて副交感神経が優位になるように工夫しましょう。
食事は、疲労回復物質が豊富なたんぱく質やビタミン・ミネラルの摂取を増やし、よりよい栄養バランスを心がけます。

③新たな変化やチャレンジは一時休止する
失敗をすると、なんとかまき直そうと新たに仕切り直して気分一新したくなることもありますが、エネルギーが不足しているときは、新しく何かをはじめても、いつものパフォーマンスが出せず、通常よりもうまくいかない可能性が高いのです。元気を出すために自分から積極的に何かをはじめるのは控えたほうがよいでしょう。
特に、結婚や昇進・異動など、嬉しい変化や大きな環境変化がきたときの「はりきりすぎ」には要注意。例えば、転職や異動してすぐに難解な論文執筆に取り組むとか、結婚してすぐ禁煙するなどです。まずは、変化に十分心身が慣れてから、積極的に動き出すことを心がけます。
逆に、いままで継続していたチャレンジを「しんどい」と感じたら、「調子が戻ったら再開すればOK」と気長に考え、思い切って一時お休みしましょう。例えば自主的な勉強会や英会話レッスンなどの参加が苦痛になってきたら、心のエネルギーが回復するまで休むことも検討してみましょう。

④「やらねばならない」ことを極力減らす
「~ねばならない」は、エネルギーを無理矢理絞り出す思考パターンです。義務で強制的に「やらされている」感覚で行動していると、さらに負担を生じさせ、エネルギーをより多く消費します。ストレスサインが表れているときは、自分に甘くなって、「~したい」を優先させ「~ねばならない」ことを極力減らします。
例えば、どうしても重要で緊急性の高い仕事のみにしぼり、時間的に猶予がある仕事は締め切りを延ばしてもらう、誰かに交代してもらえそうな役割は思い切って替わってもらうなど検討してみてはいかがでしょうか?
また、気の進まない飲み会、プライベートの義理のつきあい、頼まれごとなど、はじめから「面倒」「やらなきゃダメ?」と思うようなことは引き受けず、勇気を出して断ることも必要です。

こうしていくと、多少の時間は確保でき、「休む」ことにあてられます。

自分の「心のエネルギーを補う方法」の見つけ方

少し休んで、「何かやってみようかな」という気持ちになったら、下のような、リラックスを高めるほんの小さなアクションを増やしていってもよいでしょう。一般的に、副交感神経を高める種類のアクションはエネルギーを供給してくれます。ただし、好みや向き不向きもありますので、「気が進まないときは無理にやらない」のが鉄則です。

①リラックス・ツールを使う
現代のストレス社会を反映して、手軽なリラックスのためのシステムやグッズが巷にあふれていますので、活用しましょう。以下のような手軽なリラックスツールの活用は、主に女性が得意ですが、自分に合うものであれば性別は問いません。男性も手軽にできるものから是非試してみてください。

リラックス・ツールの例

■ 簡単アロマテラピー
リラックス効果のある香りのオイル(ラベンダーやカモミールなどの精度の高い精油にはリラックス効果があることが科学的に証明されています)を、ハンカチやティッシュに染み込ませて枕元に置いておくだけで、アロマテラピーになります。
■ 音楽療法
心が落ち着き、穏やかになるタイプの音楽の中から好みの曲を、ソファーなどに寝転がってのんびり聞いてみましょう。

②身近な自然と光に接する
ときには人工的な環境から離れ、自然に触れてエネルギーをわけてもらいましょう。明るい太陽の光には、うつ的気分を改善する効果がありますし、木々のそばに行くと、樹木が発散する芳香物質「フィトンチッド」により心が落ち着く効果が期待できます。近くの公園や川辺などの手軽な場所へ散歩に行ったり、帰り道に少し立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
最近は、患者さんのリハビリなどのために、敷地内に緑地帯を設ける病院も少なくありません。朝早い時間に、そこで深呼吸をしてみたり、ベンチで数分間青空を眺めたりというような、ごく簡単なことだけでも、かなりリラックス効果が得られます。

③自分のわがままをいつもより許してあげる
ココロのエネルギーが下がりはじめたときは、自分を少しだけ甘やかして、いま「やりたい」と感じていることや大好きなことを、いつもより多くやってみます。例えば、本当に美味しいと感じるものを食べるなど、「~したい」と心から思うことを、罪悪感にかられずに、自分のわがままを認めて行動してみてください(ただし原則として体によいことに限ります)。
健康によく、かつ自分が本当にやりたいことであれば、その行動がエネルギーを補充してくれます。

④聞き上手な人に傾聴してもらう
自分のやりきれない気持ちや、モヤモヤした感覚を人に話したら、ココロがスッキリと晴れてくるような感覚を味わったことがある方もいるでしょう。アウトプットすることで、自分が悩んでいた情報が整理され、クリアになることもあります。それが「傾聴」の力です。
しかし、当然ですが誰にでも話せばいいわけではありません。話すことでストレスが増してしまう場合もあります。以下のような条件にあてはまりそうな人を見極めてから、話を聞いてもらいましょう。

こんな「聞き上手な人」がオススメ

  • 口が堅い人で、あなた自身が信頼している人
  • ネガティブすぎずアグレッシブすぎず、いわゆる癒やし系の人
  • あなたの話を、自分の見方で評価・断定・批判をしすぎない人
  • 求めてもいない自分の体験談やアドバイスを話しすぎない人

これらはどれも、いわゆる「ストレス解消」といわれるものでしょう。しかし、やったあとにエネルギーダウンしないかどうかが大切です。
A医師のように、「ストレス解消」になっているかどうかわからない、という場合、その行動でちゃんとエネルギーがチャージされているかを、「自分にとって快適なサインが出ているかどうか」で見極めます。例えば、以下のような感覚が感じられれば、ココロのエネルギーはチャージされています。

「ストレス解消」の快適なサインの例

  • 気分が軽くなる。気分がよくなる。
  • 心が高揚するのではなく、落ち着き、穏やかになっている。
  • 「ちょっとやってみようかな」という程度のほどよいやる気が出ている。

やったあとに静かに自分の心身をふりかえり、評価してみてください。
自分らしいエネルギーチャージを積み重ね、少しずつココロのエネルギーを取り戻していきましょう。

人手不足の職場の勤務医などは、実際に休めないこともかなり多くありますよね。「休む」というより、エネルギーの消費を抑え、ゆっくりと補う一定の期間、いわば「スローダウン・ウィーク(マンス)」を作ろうと意識してみてください。

しかし、どのような方法を講じても、強いストレスサインが2週間以上続く場合は、自分で解決することは難しいと思われます。皆さんが患者さんに伝えているように、どの病気も早期発見、早期治療がとても大事。無理をせず、専門の医療者に相談をしてみてください。

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参考文献:奥田弘美『医者になったらすぐ読む本』日本医事新報社