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 > 〔3時限〕【判断に絶対はない】よりよい医療判断のために

【第13回】最善の医療判断のために大切なこと

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医療現場では、医師は状況に応じてさまざまな判断を迫られます。治る見込みが高い場合などの軽度な判断もあれば、生命に関わる重大な判断を下さなければならないこともあります。「判断すること」は、医師にとって避けては通れない重責といえるでしょう。昨今は、その重責を患者さんが担うインフォームド・チョイスの時代ですが、だからこそ、重責を担う患者さんを積極的にサポートし、よりよい判断を下せる状況に導いてあげることこそ、これからの医師に求められるスキルではないでしょうか。今回は、医療判断支援の活動を行っている私が、「最善の医療判断のために大切なこと」についてお話しします。

寺下 謙三

寺下 謙三(てらした・けんぞう)
寺下医学事務所 寺下謙三クリニック代表
内科医、心療内科医、医療判断医(独自の分野)、執筆家
1978年東京大学医学部卒業。研修歴として心療内科学、脳神経外科学、一般内科学、老年病学を専攻。寺下医学事務所にて民間版侍医サービス「主侍医倶楽部」および「法人主侍医」を提供。医療関連企業の学術アドバイザーを受託。
慶應義塾大学医学部薬理学教室にて、1996年から2006年まで、新分野として「医療判断学」の特別講義を開催。

〔3時限〕 【判断に絶対はない】よりよい医療判断のために

3時限では、4つの事例をご紹介します。医療判断の実例を見ながら、その中にある「よりよい医療判断」のヒントを探っていきましょう。

■ ケース1

CASE 相談者Aさんの弟さんは、肝臓がんで大学病院に入院していましたが、担当医に何もしなければ余命は数か月と言われました。
がんは肝臓近くの門脈という手術が難しい場所にありました。

肝臓がんの専門家で、手術の腕もよいK医師を招いて、患者さんとそのご家族と私で面談しました。患者さんが持参した検査結果を見ながらの話し合いは2時間におよびました。その最後にK医師は患者さんにこう尋ねました。

専門医K医師
放置したら、担当医が言うように確実に近い将来、致命的になるでしょう。
50%以上の勝算があれば手術をしますか?

それに対して患者さんは…

患者さんAさんの弟
一度あきらめた命。
兄が信頼する医師が推薦する専門医が引き受けてくれるなら…

患者さんの大きな決断とその覚悟に、私自身も緊張したのを覚えています。

後日、K医師から「手術ではなく、がんにつながる血管を詰まらせてがんを小さくする塞栓術がうまくいった。経過も良好」との連絡がありました。再度、精密検査をしたところ、思ったより、がんは門脈から離れていたということでした。手術を無理だとあきらめて、何もしなかったら、やはり数ヶ月の命だったでしょう。
この方は「運」もよかったわけですが、命を左右する重大な決断には、手間暇を惜しまず検討を重ねることがいかに大切か、ということです。
患者さんがよりよい選択ができるようにする水先案内人である医療判断医であっても、もちろん、よい手立てが見つからず悩むことも少なくありません。しかし、その判断から逃げず、じっくりと時間をかけて丁寧に考えることを避けてはいけないのです。

ポイント
手間暇を惜しんではいけない

■ ケース2

CASE 未破裂脳動脈瘤が発見されて、来週にも開頭手術をするという方が相談にこられました。
手術をすべきか、様子を見るか、ガイドライン上はギリギリの大きさです。
現在のガイドラインでは、5ミリ以上の未破裂脳動脈瘤は10年以内に破裂する確率が跳ね上がりますので、手術が検討されます。では3ミリなら安心できるかといえばそうではありませんし、4ミリの場合はどうすべきかと意見が分かれるところです。
相談者の資料では動脈瘤は4ミリくらいでした。

私は未破裂脳動脈瘤の血管内手術のパイオニア、A医師に依頼しました。開頭手術も血管内手術もできる彼なら、ニュートラルな判断ができると思ったからです。 ゆっくりと時間をかけて、患者さんの病状をヒアリングしたA医師が導き出した答えは…。

専門医A医師
もう少し観察していいんじゃないか。
動脈瘤は大きいけれど、今は手術が得策でない

それに対して患者さんは、「手術することで日々の不安から逃れたかったが」と迷われましたが、翌週の開頭手術はしないという決断をしました。
後日、改めて新たに導入された最新のMRIにて再検査したところ、それが動脈瘤ではなく、非常にまぎらわしいけれど、動脈の蛇行であるということが判明したのです。
この場合は、熟慮を重ねた結果のポジティブな行為として、手術をキャンセルして先送りにするという「何もしないという判断」が功を奏したのです。

ポイント
医療判断には、「何もしない」という判断もある。

■ ケース3
これは私自身の家族に起こった出来事です。

CASE 母親が劇症肝炎を患い、可能な限り手だてを尽くしても快復が難しい状況でした。

私たち兄弟の意見は分かれました。


結局、最後まで徹底した治療を続け、数日後に母は他界しました。

その後、私は医師になりましたが、治療の現場で、難しい判断に直面するたびに、このときのことを思い出します。どちらが正しかったのか? それは今振り返っても結論は出ません。
ただ、治療現場での判断は、患者さんにとって、人生における大きな決断となることは確かです。そのときに医師と患者さんとの関係が、親友や家族のような親しい間柄であることがよいとは限りません。「医師も自分の家族の治療はとても難しい」と言いますが、職業人である医師としての判断と、家族としての判断はときに異なるでしょう。
もちろんEBM(Evidence-Based Medicine)は大切ですが、実際の医療現場では、単純な確率論だけでは判断を下せない場面にも多く出会う、ということを覚えておいてください。

ポイント
  • 医療判断に「正解」「不正解」という結論はない。
  • 確率だけでは判断できないこともある。

■ ケース4

CASE プロゴルファーの杉原輝雄氏が、前立腺がんの治療を受ける際に、「プロゴルフ人生を優先する」ことを理由に、手術はせず、保存的治療を選択しました。

2時限でもお話ししたように、私は、一般的に重要とされるEBM(Evidence-Based Medicine)に加え「心理学的情況」と「社会学的背景」を考慮した総合医療判断を行っています。
上記の事例は有名な話ですが、このときの判断では「社会学的背景」を重要視しています。
このように、患者さんの職業や経済的なこと、宗教上の問題などを考慮して医療判断を下すことが、患者さんやご家族の満足へとつながる場合も多く見られます。

ポイント
患者さんの希望や状況に応じて判断することも大切。

■ よりよい医療判断とは
アメリカの医学生はほとんどが、卒業時に「ヒポクラテスの誓い」を宣誓します。「ヒポクラテスの誓い」に書かれていることは、医師を志すものとしては、ごく当たり前のことですが、医療判断医の立場からすると、厳密に実行することは不可能に近いと言わざるをえません。副作用のない治療法はほぼありませんし、誤診をしない名医もいないからです。
仮にAとBという選択肢があったとして、どちらを選んだにせよ、それぞれの結果を実際に比べることはできません。たとえ、予後が悪かったからといっても、その選択が間違っていたとは言い切れないのです。

私たち医療判断医に模範解答はなく、常に不確実性は伴います。
しかし、「不確実さ」を理由に不誠実な診療をすることは許されません。
不確実であっても、ヒポクラテスの誓いにある究極の命題を追い求め、患者さんと真摯に向き合い、常に誠意を持って対処することが、よりよい医療判断につながると私は信じています。

4時限では、よりよい医療判断のための「患者さんとのコミュニケーション」についてお話しします。