厚生労働省の発表(2015年1月)によると、団塊の世代が75歳以上になる2025年には認知症の患者さんが700万人を超え、65歳以上の高齢者の5人に1人が発症すると推測されています。
このことは医師にとっても他人事ではありません。自身が認知症を患う可能性ももちろんあります。また、担当している患者さんにも認知症の人が増えてくることは間違いありません。
たとえば、診療後の会計時に、少額であっても常に5千円や1万円札を出す、診療の予約日や予約時間をしょっちゅう間違える、以前診療に来たことや話したことを覚えていない、といった患者さんが思いあたったら、それは認知症の症状かもしれません。注意深く観察し、必要であれば専門医を紹介することも検討すべきでしょう。
認知症の大きな問題に「いまだ有効な治療法がない」ことがあります。
現在開発されている薬剤は、進行を遅らせたり、暴言・暴力、うつなどの周辺症状を一時的に抑える対症療法がメイン。しかもそれすら効果が出ない場合もあるのです。
そうなると、少しでも発症リスクを減らすための「認知症予防」が重要となります。
厚生労働省認知症研究班・九州大学大学院医学研究院が福岡県久山町で半世紀にわたっておこなった疫学調査では、中年期からの高血圧は脳血管性認知症のリスクとなり、糖尿病は主としてアルツハイマー型認知症のリスクになるという結果が出ました。言い換えれば、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の予防が、認知症の予防にもつながるということです。
認知症予防の具体的な方法として参考となるのが、健康長寿医療センター研究所(東京都)や国立長寿医療研究センター(愛知県)などが提唱する、①脳の老化を防ぐ食生活、②脳の血流をよくする運動、③脳を活性化する、人との積極的交流や知的活動、④禁煙・節酒など悪しき生活習慣の改善――です。これは認知症のみならず、さまざまな疾患リスクも低減する理想的な生き方のモデルとなりえます。
なお、国際アルツハイマー病協会(ADI)では、2017年4月に京都でADI国際会議を開催します。国内外から約4,000人が参加の予定で、アルツハイマーや認知症への関心の高さがうかがえます。