1. 脳とコミュニケーションを図る?「光遺伝学」の話

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脳とコミュニケーションを図る?「光遺伝学」の話

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「脳をテーマにした映画」大盛況の裏にあるもの

キアヌ・リーブス主演「マトリックス」は、近未来の脳とコンピュータ、仮想現実と現実をテーマにした映画として大ヒットしました。そのほかにも、ヒトの夢の中に入り込んでアイデアを盗みだすというレオナルド・ディカプリオ主演の「インセプション」など、脳の中をテーマにした映画が盛んに作られています。

こうした映画が次々と制作されている裏には、現実にBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)などの技術によって脳とコンピュータを連動させたり、脳の中の状態をMRI(磁気共鳴画像)などで撮影できる技術の進歩があるのでしょう。
さらに最近では、脳を観察するだけでなく、脳の機能を光と遺伝子を使ってコントロールしようとする技術までが開発されるようになっています。

脳の神経活動を操作することの難しさ

脳の神経活動を何とか操作したい、それは脳科学を専門とする研究者にとっては長い間の夢でした。しかし、夢はあっても、現実には壊れやすい脳を扱う場合、さまざまな壁が立ちふさがります。ヒトの脳に電極を刺して電流を流し、神経活動の操作する方法では、被験者の身体にダメージをあたえかねませんし、ある特定の細胞を狙い撃ちするには適さないなどの問題があったからです。また、薬を投与して神経活動を制御する方法もありますが、いつ、どの神経細胞を制御できるのかなどがこれもまた問題でした。

狙った脳細胞の働きを光だけで制御できる

そこで、登場したのが光遺伝学です。私たちヒトを含めて、あらゆる生物には光を受容するタンパク質が備わっています。これを光応答性タンパク質(チャネルロドプシン)といいます。この光応答性タンパク質を働かせる遺伝子を目的の細胞に送り込むと、その細胞は光によって制御できるようになります。

たとえば、マウスの特定の脳細胞の働きを調べたり、その働きを抑制したりしたかったら、遺伝子導入によって光応答性タンパク質が働くようにしておきます。そして目的の細胞に光を当てたり(オン)、光を消したり(オフ)することによって、その働きを操ることができるようになるのです。この技術を使えば、脳に電極を埋め込んだりすることなく、遺伝子の働きだけで神経活動を見たり、操ったりできるというわけです。

将来はPTSDやALSの改善にも期待

光遺伝学の技術を使えば、ヒトの記憶の回路に変更を加えることも可能になるといわれています。たとえば大きな災害に遭い、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に罹った人の記憶をほかの記憶に置き換えることによって、PTSDの治療に役立てるなどもできるかもしれません。

あるいは脳以外の細胞を光遺伝学によって操作できれば、運動神経細胞が侵されることによって起きるALS(筋委縮性側索硬化症)の改善にも道が開けるのではないかといわれています。光遺伝学の研究はまだ始まったばかりで、こうした実際の病気などに応用できるのはまだ先の話ですが、その可能性を秘めた最先端技術として期待されています。

しかし、科学はメリットとデメリットが表裏一体です。ヒトの記憶を書き換えることが悪用されないとも限りません。結局は、それを使う人間が重要ということになるのでしょうか。

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