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ドラマ・漫画にみる医療問題「小児救急」

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2年ほど前、女性タレントの子どもが呼吸困難に陥り救急車を呼んだものの、複数の病院から受け入れ拒否に遭うトラブルに巻き込まれたことがありました。結局、女性タレント自身が事前に調べていた小児科に連絡を取り、大事に至らずに済みましたが、小児救急医療が抱える問題を考えさせられるニュースだったのではないでしょうか。

総務省消防庁と厚生労働省が2009年に行った調査によると、重症以上の傷病者を救急搬送した際、3回以上の受け入れ拒否件数は約1万4,700件で全体の3.6%。このうち、小児傷病者の受け入れを断った理由の約3割が「専門外」とするものでした。

一人前の小児科医になるのに相当の年数がかかるうえに、小児医療に対応できる医師が減少するなかで、診療は限られた小児科医に集中してしまいます。おのずと小児医療の現場は過酷にならざるを得ませんが、こうした問題が最悪の形になってしまったのが、2004年に起きた小児科医の投身自殺でしょう。日頃から「小児科医は天職」と公言し、多くの親や子どもに慕われていたようでした。小児科医療の不採算、小児科医の不足、小児医療救急体制の不備といった、個人の力ではどうにもならない問題が、心優しく誠実な44歳の小児科医にのしかかり、心身を押しつぶしていってしまったのだろうと想像できます。
このような現状のなか、これからの小児救急医療をどのように考えればいいのでしょうか。

小児救急医療に横たわる現実

厚生労働省の発表した資料によると、小児科医師数は平成12年から22年で1万4,156人から1万5,870人に増加しています。対象となる小児人口はいずれも減少しており、小児人口に対する小児科医師の数も増加しています。
また、小児救急患者の特徴として、「多くが入院を必要としない軽症の患者でしめられており、重症な患者の割合は少ない」「特に、重篤な小児患者は成人と比較して数も比率も少ない」ということが挙げられています。
こうした現状のなかで、同省が指摘している「小児救急に関する課題」は、次の3点になっています。

  1. 小児救急の体系において、初期・二次救急医療と救命救急医療を区別して議論する必要があるのではないか
  2. 小児の救命救急医療において、救命処置を要する疾病 疾患・(ショック、外傷や熱傷等)に関して、質の確保及び、県域を越えた広域での診療体制も考慮する必要があるのではないか
  3. 小児救命救急医療において、小児に特有な疾病・疾患(先天性心疾患、先天奇形による形態異常や代謝異常等)に関して、質の確保及び、県域を越えた広域での診療体制も考慮する必要があるのではないか

国の行政がこのような現状認識を持っている中、小児救急医療の最前線では次のような"現実"が横たわっています。

医師の偏在とミスマッチ
患者の親からは「小児科の専門医に診てもらいたい」という要望が聞かれますが、一つの病院にいる小児科専門医はそれほど多くはないのが現実です。中には「大人とは違うから子どもを診るのは不安」という医師も少なくなく、救急医療に際しては「申し訳ありません、うちは小児科当直がいないんです」ということにもなってしまいます。そこには医師の配置の偏在や、診療ニーズと休日夜間の診療体制のミスマッチという問題もあります。

夜間に集中
子どもは、昼間は元気でも夜中にいきなり体調を崩すことがあります。また少子化や核家族化により、子育て経験の少ない、身近に相談者のいない親が増えていることも夜間診療のニーズを増やしています。「親は自分がカゼならガマンしますが、子どもは放っておけない」というのが親の気持ちです。
病院数を減らして小児科医を集約すれば、夜間診療ができるところが増えるはずですが、残念ながら、それをしようとする小児科医や病院経営者が少ないのが現状です。

手間と人件費
子どもの診療は、1人の診察に3~4人の看護師が必要なこともあるなど、手間と人件費が大人の何倍もかかります。「想像以上でした……注射一本打つのがあんなに大変だなんて」というのが実感ではないでしょうか。しかしながら、薬の量が少ない分、診療報酬は大人より低くなることもあるのです。小児科のある病院で、収支が算出された施設のうち約40%で小児科が赤字という報告もあるほどです(厚生労働省「小児科産科若手医師の確保・育成に関する研究」報告書 2005年6月)。その結果、病院は小児科の勤務医を増やすことができず、国が小児科医を増やしたとしても働く場(小児科)がないということも現実です。

小児救急医療の改善は始まっている

小児救急医療が抱える問題の原因は、主に小児科医不足にあると言われてきました。しかし、ここにみてきたように、いくつかの問題が複合的に重なり合って起きていることがわかります。
先に述べたように、親は小児科専門医に診てもらいたいと望み、小児科以外の医師は「子どもを診るのは不安」といって診療を断ってしまうこともあります。しかし、現実的には本当に専門医による診療が必要な患者の割合は、それほど多くはありません。

こうしたことから、まず、小児科専門医による診療が必要なのかどうかを判断できる医師を増やそうと、すでに、研修期間中に小児への救急対応を学ばせる取り組みも始まっています。また女性医師が離職することなく、働き続けられる支援や、離職した女性医師の復職への研修支援を実施する自治体もあります。県内の小児科勤務を義務づけた医学生への奨学金や研修医に対する研修資金貸与の取り組みも始まっているようです。国も、医師不足の診療科の医師確保対策として、救急医(産科医、新生児科医、小児科医などを含む)に救急勤務医手当を支給する2次救急医療機関などに対して財政支援を行っています。

このように解決すべき課題は山積していますが、そうした志ある医師の働きが報われるように、各地域、各分野で小児救急医療改善のための取り組みは始まっているのです。

小児科を背景としたドラマや漫画

そしてこうした小児救急医療の問題は、近年、実は多くの漫画やドラマでも取り上げられています。さまざまなメディアや作品を通して、このような医療現場の実態や課題が語られることにより、少しずつ世間一般市民の認識や業界の問題意識を高め、今日の取り組みにつながってきた側面があるでしょう。ここでは最後に、その主な例と取り上げられている問題を挙げてみます。

『ブラックジャックによろしく』(作:佐藤秀峰 コミック) 参照:第5巻38話~41話
研修医・斎藤英二郎は、理想とかけ離れた日本の医療の矛盾に苦悩しつつも懸命に毎日を送る。小児科研修では、症状を自分で伝えられない子ども、我が子の様子を過剰に心配してしまう親、夜間に集中しがちな外来患者と少ない小児科医という現実に直面する。

ある日の深夜、斎藤の指導医である安富は、救急患者の受け入れ要請を断る。子どもを救えなかったことを悔やむ斎藤だが、その後、同じような状況に立たされた時、自らも現実を考えて拒否の返答をする。研修を終える際、安富に小児科医を続ける理由を問うと、「僕がやらなきゃ…… 誰がやるんですか……?」。今、自分が折れてしまったら目の前の患者すら助けられない。自分にできることを全力で行うことが重要ではないか。安富の言葉から斎藤は、悪条件下でも使命感に動かされる小児科医のあり方を知る。

【作中で取り上げられている問題点】
・親の過剰な期待
・夜間診療への集中
・やる気ある小児科医への負担増大

『最上の命医』(2011年 テレビ東京系列ドラマ)
天才小児外科医の西條命はアメリカから帰国し、日本最大級の私立総合病院・平聖中央病院に赴任する。
しかし、手術をめぐる訴訟問題をきっかけに「儲けにならずリスクが高い」という理由から小児外科は閉鎖されていた。西條は、「見殺しより人殺しの方がいい」と全身全霊をかけて困難な手術に挑み、助からないといったんは見放されていた小さな命を次々に救っていく。「子どもの命を救うことは未来を創ること」という西條の信念と天才的な医療技術が、他の医師たちの心を動かしていく。

【作中で取り上げられている問題点】
・医療事故のリスク
・小児外科の診療報酬の低さ
・地方での小児外科医の不足

『真夜中のこじか』(作:北原雅紀 コミック)
生命の最前線で奮闘する新米小児科医の物語。弟を救ってくれた医師・土門大吾への憧れと感謝から小児科医になった朝比奈伴美。土門小児科クリニックで働き始めるが、24時間診療の職場は戦場そのもの。主力となっていた医師にも辞められ、ついに大吾も過労で倒れてしまう。
そこへ現れた院長代理が独断で夜間専門の体制に変える。当初は24時間診療にこだわる伴美だが、肝要なのは、地域で24時間の医療体制を作り、医療の質を上げることと気づく。だが、夜間専門に切り替えても、クリニックの医師たちの負担は相変わらず続くことになる。
慢性的な医師不足で危機に瀕する小児科医療の現場。未来を担う子どもたちのため、伴美は今日も奮闘する。

【作中で取り上げられている問題点】
・慢性的な小児科医不足
・24時間診療制の困難さ
・医療現場の過酷さによる医師離れ

『小児救命』(2008年 テレビ朝日系列ドラマ)
青山宇宙(そら)は、子どもたちの命を救うため、なりふり構わず尽力する熱心な小児科医。同僚であり恋人である狩矢と共に、父が半年以上前に閉院した医院を継ぎ、24時間診療の「青空こどもクリニック」を再開する。青空こどもクリニックは次第に広く世に知られるようになり、遠方からの来院患者も増え、連日たくさんの患者でごった返すが、人件費がかさみ経営難に陥る。

【作中で取り上げられている問題点】
・24時間診療の困難さ
・受け入れ拒否の実態
・小児科病院経営の不採算性

まとめ
いかがだったでしょうか?漫画やテレビドラマはフィクションですが、一人でも多くの子どもを救うためにベストを尽くし続ける小児科医は、現実の医療現場にもいます。誰に言われるでもなく世に現れてきたこれらの作品たちは、ドクター一人一人の小児医療にかける想いが自然に創りだした産物なのかもしれません。
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