1. 〔第24回〕 高齢社会の中毒(誤飲、過量服薬)

太田祥一ブログ医の王道に向かって

〔第24回〕 高齢社会の中毒(誤飲、過量服薬)

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誤飲や過量服薬による急性中毒は、救命救急センターに多く搬送されていますが、医薬品で生命に関わるのは三環系抗うつ薬を代表とする、(QT時間延長等から)重篤な不整脈を誘発する薬剤、肝不全を来すアセトアミノフェンがあり、これらの中毒には除染、拮抗薬投与、集中管理等が必要です。
最近は、高齢になるほど発生は多く、症状が重くなる傾向にあるようです。高齢者の急性中毒事故の原因の7割は、入れ歯洗浄剤、ポータブルトイレ用消臭剤、乾燥剤、保冷剤、芳香剤、浴用剤、食器用洗剤等の家庭用品で、次いで医薬品です。
入れ歯洗浄剤はpHで2種類に分類できます。アルカリが強いと喉頭浮腫等A(気道)の問題があるので救急対応が必要になりますので、使用している商品を確認します。中性~弱アルカリでは、悪心、嘔吐、下痢、腹痛、出血性胃腸炎等の消化器症状が主なので、吐かせる、牛乳を飲ませる、等が有効のようです。中毒情報センターの情報も参考になります(公益財団法人日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報)。

高齢者の中毒、特に誤飲、過量服薬は認知症の進行が大きな原因になりますが、それだけではなく、味覚、視覚の低下も影響していると思われます。また、薬と間違えたり洗剤等をペットボトルに移し替えて冷蔵庫に保管してあるものを間違えて飲んだり等思い込む、という状況でも起こっているようです。いずれにしてもやはり予防は大切で、間違いやすいものは一緒に置かない、使う前に必ず製品と表示を確認する、食品以外を食品容器に移し替えない、冷蔵庫に食品以外のものをいれない、等で予防できそうです。また、紙おむつや芳香剤の高吸水性ポリマーの誤飲は消化管閉塞や窒息が、石灰乾燥剤は発熱による熱傷等に注意が必要です。

虚血性心疾患や高血圧の治療に用いられるカルシウム拮抗薬の過量服薬も高齢者に増える可能性があります。これに対する特異的な治療として、カルシウム製剤(塩化カルシウム、末梢から投与可能なグルコン酸カルシウム)投与があります。他、ドパミン、ドブタミン、ノルエピネフリン、グルカゴン等で血圧の安定化を図ります。もちろん、酸素飽和度や動脈血液ガス分析、心電図等でモニターしながら治療します。効果がない場合には、高インスリンー正常血糖値治療(hyperinsulinemia-euglycemia therapy)があります。Caチャネルが開くことによってインスリン分泌を亢進させ、心筋および平滑筋の収縮を促進します(Calcium channel blocker poisoning: Rapid overview )。また、静脈脂肪乳剤(intravenous lipid emulsion;ILE)療法も注目されています。静脈脂肪乳剤は、局所麻酔薬の全身毒性(local anesthetic systemic toxicity;LAST)による心停止蘇生に臨床応用されてきましたが、近年、脂溶性で分布容積の大きい薬物(三環系抗うつ薬,カルシウム拮抗薬,β遮断薬など)による中毒の解毒法として有効であるとの報告があります(Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2010 5;18:51. Intravenous lipid emulsion in clinical toxicology. Rothschild L1, Bern S, Oswald S, Weinberg G.)。

今年の3月で地下鉄サリン事件から今年で20年という報道がありました。これはまさしく化学テロですが、当時は私もこの診療に関わっていましたが、そういうことは考えていませんでした。こういった場合、医療者自身の身を守るためにも除染(脱衣とシャワー)の要否判断とゾーニングが重要です。原因物質の同定は重要ですが、同定される前にもトキシドロームを参考にABCDEアプローチで対応します。特に第一印象では縮瞳、鼻汁や唾液等の分泌亢進、線維束攣縮等を診ます。

トキシドローム
・抗コリン作用(副交感神経遮断作用)
症状:皮膚乾燥・ほてり、頻脈、高血圧、高体温、イレウス、せん妄
薬剤:抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬、アトロピン、スコポラミン
・コリン作用(副交感神経賦活作用)
症状:多汗、流涎,流涙,尿失禁,便失禁,嘔吐,縮瞳,気道分泌,喘鳴,徐脈
薬剤:有機リン、神経剤(サリン)
・交感神経賦活作用
症状:頻脈,高血圧,散瞳、発汗,高体温
薬剤:アンフェタミン、カフェイン、コカイン、エフェドリン、テオフィリン

高齢社会、グローバル化、各種ドラッグの氾濫等で、これからはいろいろな中毒の可能性がありそうです。AIUEOTIPSにもあるように意識障害はもちろん、何か変、と感じたら中毒の可能性を視野に入れて対応するのが良いのでしょう。

さて、皆様には一年お付き合いいただきありがとうございました。今回で終わりますが、これからの未曾有の超高齢社会では医療も大きく変わると思います。地域包括ケアシステム構築に向けて、医療、看護、介護に関わる方々が、患者さんを中心に、お互い思いを馳せてより良い連携ができるように願ってご挨拶といたします。