太田祥一ブログ医の王道に向かって

〔第23回〕 スポーツ救急(2)

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もう1回は、外傷への標準的な対応を中心にお話ししました。
外傷診療では、(1)意識障害の原因を頭部外傷に求めてCTを優先する、(2)派手な目立つ外傷の局所の治療から開始する、(3)訴えから診療に入る、などによってピットフォールに陥りやすいとされています。ピットフォールに陥った結果、PTD(Preventable Trauma Death:避け得た死亡)を避けられなくなってしまう、とされています。PTDを回避するために、外傷診療の質の向上を目指し、病院前から病院での外傷初期診療が標準化されてきました。

病院での初期診療のガイドライン(JATECTM:Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)では、救命のために生命危機の状態をいち早く認知することを目標に、まず第1ステップ(プライマリサーベイ)で生理的な機能異常を速やかに発見し、必要に応じてその安定化(蘇生)を図る、つまりけがから先に診ない、ということが最大のポイントです。また、PTDを回避するために、現場から一貫した概念で対応することを目標に病院前救護での対応との整合性が図られています。病院前外傷救護ガイドライン(JPTECTM:Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care)は、病院前での救急救命士等がどのように対応について標準化されたガイドラインで、全国の救急隊員が行っています。スポーツ現場や災害現場にも応用できます。

ここでは病院前外傷救護ガイドライン、外傷初期診療ガイドラインの概要をまとめてみます。

外傷の評価・観察の手順

病院前外傷救護ガイドラインではまず最初に状況を評価します。

【1】状況評価
?感染防御
?携行資器材の確認
?安全確認/二次災害防止
?傷病者数の確認(応援隊要請)
?受傷機転の把握
受傷機転では以下のようなものを高エネルギー外傷と定義し、すべて重症と判断して対応します。
(1)6m以上の高さからの墜落
(2)自動車・鉄道車両にはねられた歩行者・自転車
(3)搭乗者が飛ばされた二輪車事故
(4)同乗者が即死した車両事故
(5)車外に放り出されていた車両事故
(6)搭乗空間の高度な変形があった車両事故
(7)救出に20分以上を要した車両事故
(8)横転した車両事故
(9)体幹を重圧で挟まれた外傷
(10)頸部から鼠径部までの鋭的損傷

外傷では、PTDを減らす観点からも、オーバートリアージ(重症でない患者を重症と判断して高次の救急医療機関へ搬送すること)は容認されます。
受傷から1時間以内に手術療法などの根治的治療を行うために、現場では生命予後に関係のない観察・処置は省略し、適切な医療機関へ早く搬送します。この概念をロードアンドゴー(Load and Go)といいます。受傷から1時間をゴールデンアワーといいます。

状況評価に続く初期評価と全身観察を以下にまとめます。初期評価とは、まず生理学的に評価して、その安定化を図ることです。

【2】初期評価(生理学的評価とその安定化)

(1)頸椎保護
高エネルギー外傷には脊髄外傷があるものと仮定し、それを悪化させないために全例に行います。傷病者を振り向かせないように接近し、用手的に頸椎を正中位に保持するように頭部を固定します。固定は継続し、全脊柱固定、ログロール等でそれ以上に悪化させないように注意します。

(2)気道と意識レベル評価
呼びかけおよび痛み刺激に対する反応から意識の程度を大まかに把握するとともに、発語の有無から気道の開通状態を確認します。発語があれば軌道破壊痛していると判断し、不十分な場合には下顎拳上法で確保します。

(3)呼吸評価
胸郭を「見て、聞いて、感じて」、呼吸の有無だけでなく、速さ(速い、遅い)、深さ(浅い、深い)、様式(規則的等)を観察します。

(4)循環評価
橈骨動脈の脈拍を触知して、その性状(強い、弱い、速い、遅い)を観察する。脈が速く、弱く、皮膚が蒼白で冷たく湿っていればショックと判断します(ショックの徴候:蒼白・虚脱・冷汗・脈拍不整・呼吸不全)。全身を見て活動性外出血の有無を確認します。もし活動性の外出血があれば直ちに圧迫止血します。橈骨動脈で脈拍触知不能なら(収縮期血圧80mmHg以下と予想される)、頸動脈を触知します。毛細血管再充満時間(capillary refilling time)も有用です。


【3】全身観察(解剖学的評価と応急処置)
解剖学的に全身を観察し、致死的外傷を認知し、緊急処置の必要性とともにロード&ゴーの適応を迅速に判断します。視診では、出血、体表面損傷、膨隆、変形、頸静脈怒張、奇異呼吸、左右伸長差等を、触診では、動揺、圧痛、腫脹、緊張、轢音、皮下気腫、打診では鼓音等で、急速に生命の危機に関わる病態を示唆する所見を確認します。
以下に、急速に生命を脅かす特徴的所見と疑うべき病態についてまとめます。

重症外傷の場合には以下を全例に行います。
?酸素投与(10L/分以上)
?バックボード上に全脊柱固定
?現場活動時間5分以内を目標
?搬送時間が30分以上の場合はヘリコプター等による搬送を考慮
以上の考え方は災害時のトリアージにそのまま応用できます。

【4】外傷初期診療ガイドライン(JATECTM)
ABCDEアプローチ
生命は、気道から肺に酸素を取り入れ、その酸素は循環系を通じて全身に供給されます。脳に血液が供給され、脳の呼吸中枢が働き、全身に指示をしています。このような生命を維持機構に沿って、気道(Airway)、呼吸(Breathing)、循環(Circulation)、意識(Dysfunction of central nerve system)、体温他(exposure and environmental control)等の生理学的異常を早急に感知し、その異常を回避し安定化させます。JATECではこれをプライマリサーベイといい、この後にセカンダリサーベイで解剖学的に評価します。以下にプライマリサーベイの要点をまとめます。

プライマリサーベイ
・Airway(気道の確保と頸椎の保護)
発語できれば気道は開通していると判断できる。吐物や出血などで気道が閉塞されている場合には、まずは吸引での除去を試み、用手的や気管挿管の適応を判断する。出血等で挿管困難で、輪状甲状靱帯穿刺あるいは切開術による外科的気道確保が必要となることも少なくない。

・Breathing(呼吸の観察と致命的となる胸部外傷の検索)
身体診察とともに、SpO2、胸部レントゲン検査等も用いて、大量気道出血による気道閉塞、フレイルチェスト、開放性気胸、緊張性気胸、大量血胸、心タンポナーデ等の致命的外傷を判断し、必要に応じて胸腔ドレナージ等の蘇生を並行して行う。以下のような所見に注意する。
視診:呼吸数、呼吸補助筋使用、頸部腫脹・変形(気道損傷)、胸郭動揺、左右差、開放創、頸静脈怒張
聴診・打診:左右差、鼓音、濁音
触診:気管偏位、皮下気腫、圧痛、胸郭動揺

・Circulation(循環動態の把握と止血)
ショックを早期に判断し対応する。初期には生体の代償機転が働くため血圧は低下しないので、その時点で察知し対応する。脈拍数増加、皮膚湿潤・冷汗等の身体所見が重要である。この代償機構が破綻すると、血圧は低下し、脳血流低下による意識障害等がみられる。
外傷で見られるショックの多くは出血性ショックである。他には心臓の拡張障害をきたす閉塞性ショック(心タンポナーデ、緊張性気胸:皮下気腫、胸郭膨隆、呼吸音運動減弱、気管偏位)や心原性ショック(鈍的心損傷)等がある。閉塞性ショックでは頸静脈怒張に注意する。ショックを伴う場合には直ちに太い静脈留置針を2本以上確保し、温めた細胞外液1~2Lを急速投与する。この初期大量輸液でショックを離脱できない場合(non-responder)には、輸血とともに手術などの外科的な止血を検討する。
体腔内への内出血は胸腔、腹腔、後腹膜腔に出血するので、出血源の検索には、胸部・骨盤正面レントゲン検査、超音波検査(FAST:Focused Assessment with Sonography for Trauma)を行う。FASTでは心嚢、胸腔、腹腔の液体貯留(出血)がないか、4点に当て6か所を確認する。

・Dysfunction of central nerve system(中枢神経障害の評価)
意識レベルはグラスゴーコーマスケール:GCSで評価し、瞳孔不同、麻痺等の神経学的所見を確認する。GCS8点以下、経過中に2以上の低下を切迫するDとし、セカンダリーサーベイの最初に頭部CT検査を行う。

・Exposure and Environmental control(脱衣と体温管理)
脱衣後に体表観察、体温測定、保温等を行う。低体温は出血傾向を助長し、代謝性アシドーシスを来す。この3つはlethal triad(死の3徴候)ともいわれるので保温に努める。
グラスゴーコーマスケール:GCS

スポーツ現場では様々な外傷が起こっています。コンタクトスポーツでは重症外傷も多く報告されています。重症では、より早く正しい対応をすることがとても重要です。スポーツをより楽しむためにも多くの人にその対応が広まればと思います。