太田祥一ブログ医の王道に向かって

〔第17回〕 Frailty(フレイルティー)

>>一覧はこちら

高齢者救急や治療の予後を考える際に、年齢だけで考えるのではなく、どれぐらい元気か、つまり元気度を基準に治療の侵襲(ダメージ)との兼ね合いを考えることが重要だと思います。そのために老年医学では総合的な評価が必要とされ、元気度に関わるいくつかの概念があります。

・老年症候群
加齢に伴う身体的、精神的な症状や疾患、例えば、摂食嚥下障害、体重減少、歩行障害・転倒、認知機能障害、うつ、頻尿・尿失禁など、のことで、一人の人としてその人の全体を評価したうえで対策を検討することが重要とされています。
下図のように、動かない、あるいは安静の時間が長期間続くことによって、身体機能が低下し、筋萎縮、関節拘縮、褥瘡、骨粗鬆症、起立性低血圧、精神的合併症、括約筋障害(便秘・尿便失禁が起こり、その結果、機能できなくなってしまいます。これが廃用症候群です。

林 泰史 日医雑誌 第127巻,第11号,2002/6/1 林 泰史 日医雑誌 第127巻,第11号,2002/6/1
・サルコペニア
筋肉量減少、筋力低下、身体能力低下のことで、この結果、身体が全体的に障害され、生活の質の低下や死などの転帰の可能性が高まります。その一方で、脂肪量は維持あるいは増加する一方で除脂肪体重は減少します。この状態はサルコペニア肥満と呼ばれ,サルコペニアは体重とは関係しないともいわれています。筋肉への脂肪浸潤、つまり筋肉組成の変化が筋肉の質や機能の低下を引き起こすことも明らかになってきました(サルコペニア:定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサスの監訳とQ&A)。

・ロコモティブシンドローム(運動器症候群)
運動器の障害で、骨折、転倒、関節疾患により要介護になるリスクの高い状態になることです。

・Frailty(フレイルティー)
虚弱と訳されていますが、ADLに障害があり介助が必要な65歳以上と定義され、その結果、加齢によるエネルギー欠乏や恒常性の低下と捉えられるようになりました。BuchnerとWagnerらは1992年に身体的予備力が低下して、機能障害に陥りやすい状態で、神経因子、物理的(筋肉、関節)機能、エネルギー代謝が主要な要因であるとしました。蛋白摂取不足やビタミンDやB、E、セレニウム等サルコペニアとの関連もあるといわれています。 その後、Rockwoodらは、疲労感、階段を昇れない、体重減少、短い距離の歩行不能、5つ以上の併存症の存在をその指標とし、Friedらは、体重減少、疲労感、活動度減少、身体機能減弱(歩行速度低下)、筋力(握力)低下のうち3つ以上満たす、と定義しました。 ストレスに対する反応が低下しているので、この状態で救急事態が起これば、機能障害、死亡に陥りやすくなります。安定を脅かすイベントがあった後に恒常性を維持・回復は難しくなる、ストレッサーに対する脆弱性が明らかになる状態、つまり機能障害、要介護状態、死亡などの不幸な転帰に陥りやすい状態とも説明されています。

フレイルティーは疾病発症、ADL低下のリスク因子として、まさに、何かあった場合に元の生活に戻れるかどうか、つまり早期に診断し介入することによって、身体の各機能だけでなく生活の維持が可能になることが期待されます。そう考えると、救急医療後の社会復帰率、今後必要となる在宅復帰率等の予後の検討はもちろん、積極的救急医療の判断を検討する際にも指標となりうる重要な概念ではないかと思い注目しています。
運動、蛋白質、ビタミンD、多剤内服時の内服薬減少等の介入で潜在的にフレイルティーの予防および治療することができるとの指摘もあります。私が抗加齢医学を勉強したきっかけもここにあります。抗加齢医学は予防だけでなくより良く生きるという意味において可能性がある学問だと思いますが、救急医学もいざという時の対応は知っておいたほうが良いですので、高齢者に関わる方々には救急医学、抗加齢医学の両方を知っておいていただきたいと思います。

高齢者救急対応ハンドブック