太田祥一ブログ医の王道に向かって

〔第16回〕 誤嚥性肺炎

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肺炎による死亡は増加傾向で、平成26年10月1日から、高齢者を対象とした肺炎球菌ワクチンが定期接種となりました([厚生労働省]肺炎球菌感染症(高齢者))。市中肺炎(CAP)のガイドラインでも重症度評価が重要とされ、その指標には全身の生理学的所見が取り上げられています。これは救急での緊急度判定=トリアージにとてもよくマッチする考え方だと思います。

日本呼吸器学会 成人市中肺炎診療ガイドラインにおける重症度分類(A-DROP 分類)
A(Age)  : 男性70 歳以上,女性75 歳以上
D(Dehydration)  : BUN 21 mg/dL 以上,または脱水あり
R(Respiration)  : SpO2 90%(≒ PaO2 60Torr)以下
O(Orientation)  : 意識障害あり
P(Blood Pressure)  : 血圧(収縮期)90 mmHg 以下

慢性閉塞性肺疾患(COPD)や誤嚥性肺炎も増えています。肺炎については上述した市中肺炎以外に院内肺炎、医療・介護関連肺炎(NHCAP)のガイドラインが策定されています(日本呼吸器学会「医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン」)。

NHCAPとは以下で定義されています。
1.長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している
2.90 日以内に病院を退院した
3.介護を必要とする高齢者,身障者
4.通院にて継続的に血管内治療(透析,抗菌薬,化学療法,免疫抑制薬等による治療)を受けている

以下の生命予後予測因子該当項目が3項目以上で重症と判断されます。
1.生命予後予測因子
(1)悪性腫瘍または免疫不全状態
(2)意識レベルの低下
(3)Sp02>90%を維持するためにFi02>35%を要する
(4)男性70 歳以上,女性75 歳以上
(5)乏尿または脱水
2項目以下で、以下に該当すれば中等症、しなければ軽症と判断されます。
2.肺炎重症度規定因子
(1)CRP≧20mg/dL
(2)胸部X 線写真陰影の拡がりが1側肺の2/3以上
その原因として誤嚥性肺炎もあります。誤嚥はいろいろな疾患が原因で起こります。

NHCAPのリスクとして嚥下障害、経口摂取困難があり、予後規定因子として嚥下機能評価をしていないことが指摘されています。以下にガイドラインに占められている治療方針をまとめます。

NHCAP における誤嚥性肺炎の治療方針
(1)抗菌薬治療(口腔内常在菌,嫌気菌に有効な薬剤を優先する)
(2)PPV 接種は可能であれば実施(重症化を防ぐためにインフルエンザワクチンの接種が望ましい)
(3)口腔ケアを行う
(4)摂食・嚥下リハビリテーションを行う
(5)嚥下機能を改善させる薬物療法を考慮(ACE 阻害剤,シロスタゾール,など)
(6)意識レベルを高める努力(鎮静剤,睡眠剤の減量,中止,など)
(7)嚥下困難を生ずる薬剤の減量,中止
(8)栄養状態の改善を図る
(9)就寝時の体位は頭位(上半身)の軽度挙上が望ましい

急性期の治療は禁食、補液で、必要に応じて、酸素投与、の他、抗菌薬、去痰剤、気管支拡張薬等の薬物療法、ネブライザーや吸痰等を総合的に行います。これらの治療は在宅で可能です。気管挿管、人工呼吸等の積極的な治療を希望される場合には入院での治療になります。いずれも安静の時間が長いとADLが低下しますので注意が必要です。

(1)の抗菌薬についてはガイドラインで示されています(図6-1P29)。内服はオーグメンチンがよく使われていると思います。点滴では嫌気性菌をカバーする意味でもユナシンが用いられることが多いと思いますが、JAID/JSC 感染症治療ガイドライン―呼吸器感染症―ではクリンダマイシンが第二選択、重症ではゾシンやカルバペネムとなっています。しかし、一日頻回投与は在宅医療ではあまり適していません。ロセフィンやクラビットだけでは嫌気性菌をすべてはカバーできないので、非定型性肺炎も視野に入れて、ロセフィンとジスロマックが現実的な選択になるのでしょうか。

このなかで(5)について少し考えてみます。
誤嚥性肺炎はもちろん嚥下障害により起こりますが、脳血管障害等で咳反射が低下すると誤嚥が意識されないことがあり、これを不顕性誤嚥といいます。つまり明らかな誤嚥のエピソードがなくても誤嚥性肺炎は起こりえるということです。
嚥下や咳反射にはサブスタンスP(SP)という物質が関与しています。SPは咽喉頭、気管粘膜に放出されます。脳血管障害等でドーパミン産生が減少すると、SPは減少するので誤嚥が起こりやすくなる、と考えられています。
高齢者の肺炎は熱や症状が出にくいという特徴があるので診断は難しく、何となく元気がない、食欲がない等の一般症状から肺炎を疑い、酸素飽和度、聴診所見、血液検査所見から早めに判断することが大切です。特に基礎疾患のある方は誤嚥性肺炎が多いことを念頭に置いて、さらに早めに治療を開始する必要があります。
予防には嚥下機能評価、嚥下訓練、口腔ケア、食事(食後の座位保持)、体位変換、肺理学療法、抗精神病薬等の検討も必要です。口腔ケアによって、常在細菌量が減少するために不顕性誤嚥による肺炎発症頻度が減少するという効果も報告されています。他に薬剤による予防もいくつか試みられています(日本気管食道科学会会報 Vol. 65 (2014) No. 2 p. 191-193 )。

薬剤による予防
(1)アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(タナトリル)
降圧剤のACEはSPの分解酵素の一つで、嚥下反射や咳反射が亢進します。
(2)シロスタゾール
抗血小板作用と脳血管拡張作用があるので脳梗塞再発予防に有効とされています。
この二つの薬剤は肺炎発症抑制効果がありエビデンスレベルⅡ、Minds 推奨グレードBになっています。
(3)漢方
半夏厚朴湯は嚥下反射の改善から肺炎発症抑制効果が報告されています。微小誤嚥によるものは補中益気湯、十全大補湯等も効果があるようです。六君子湯は、救急集中治療領域でも、胃蠕動低下、胃内容貯留に対して改善効果が報告され、早期経管栄養の成功に役立っているという報告もあります。最近ではグレリン分泌促進から食欲増強効果も報告されています。経管あるいは胃瘻栄養下での誤嚥性肺炎予防効果が報告されています。
(4)カプサイシン
赤唐辛子に多く含まれています。咽頭および食道粘膜知覚神経末端からSPを放出させる作用があると報告されています。

その他、ドーパミン作動薬、アマンタジン(ドーパミン遊離促進薬)、葉酸(ドーパミン合成酵素の補酵素として働く)、メンソール、ブラックペッパー(黒胡椒)、クエン酸モサプリド等も可能性がありそうです。

また予防として、経口摂取を中止してPEGへの移行を検討されることもあると思いますが、肺炎発症は経鼻胃管と同等という報告もあり、あまり推奨されていないようです。
食事はやはり、よく咬み、よく味わい、おいしいものを食べるあるいは想像するのが良いと思います。COPDでも食事前には休息して、食欲不振には少量を頻回にゆっくり食べる、早期満腹感には、冷たいものを食べる、食事中の飲水を制限する、等の注意点があります。
食べることは人生の楽しみの一つですから、ご本人、ご家族の希望や生活の質を考えてどのようなサポートがより良いかを関わる人々で相談して進めていくのが良いと考えています。