1. 〔第13回〕 日々の生活から医療を考える、高齢者の入浴中の事故

太田祥一ブログ医の王道に向かって

〔第13回〕 日々の生活から医療を考える、高齢者の入浴中の事故

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不慮の事故(予期しない急な事故)による死亡は、わが国の死因の5番目で、そのなかでは交通事故がもっとも多いのですが、入浴中の急死は近年増加してきていると推測されており、2011年には約17000人が亡くなっていると報告されています(東京都健康長寿医療センター研究所による研究報告)。

入浴前後には滑って転倒等の外傷を含めて、いろいろな事故が起こっています。お年寄りにとっても入浴は楽しみのひとつだと思いますが、高齢者の入浴中の事故は多く、その約8割は一人で入浴している元気なお年寄りなので、この問題は高齢社会にはとても重要だと思います。そのため厚生労働省でも調査研究されています(入浴関連事故の実態把握及び予防策に関する研究)。

わが国の入浴は他国に比べ、身体を清潔にする以外に、身体を温める、リラックスあるいは温泉もあるのでレジャーとして楽しむ、といった様々な理由があり、また、全身高温浴という入浴スタイルにも特徴があります。そのためか入浴中の事故は他国より多くなっています。お風呂好きな高齢者は多いので、人生をより楽しむためにも注意できることは注意して予防したいものです。

まず入浴による身体の影響を考えてみます。
入浴して身体が温められると血管が拡張し血行が促進されます。この結果、組織への酸素供給が増加するため心拍出量は増加します。これは高齢者や心機能によっては負担となるので、悪い効果を及ぼす可能性があります。
この効果はもちろん湯温や室温によっても異なります。高温浴では温められた体表の皮膚血管が拡張するので、この血流が増加します。その結果、脳や心臓などの重要臓器に流れる血流量は相対的に減少し、これは重要臓器の栄養血管に動脈硬化があるとさらに減少し、その結果、臓器は虚血となります。これがいわゆるのぼせや湯あたりの状態だと考えられます。この状態で浴槽から出るために立ちあがると血圧がさらに低下して失神することもあります。
高齢者は血圧の調節機構が低下しているのでさらに失神を起こしやすくなっています。また熱いお風呂に長く入ると汗をかき血液量が減少し脱水になります。その結果、さらに血液の流れが悪くなるので、この結果、臓器の虚血が進んで脳梗塞や心筋梗塞となる可能性があります。

このような理由から、高齢者は全身高温浴、特に長時間の入浴は避けたほうが安全とされています。この状況は入浴前脱衣場等が寒いとその時点で血管が収縮し血圧が上昇します。その結果、先ほどとは逆に全身の血液は心臓、脳などの重要な臓器に集中します。その後急に入浴すると先ほどの状態がより悪化してしまうのでそうならないように掛け湯をしてからの入浴が勧められているのだと思います。
全身浴ではさらに身体に静水圧がかかっているのでその分圧迫されていることになります。また、より圧のかかる下肢では静脈血が心臓に還流され心拍出量が増えるので、その双方の作用から心臓への負担は増加します。逆に急に立ち上がると静水圧がなくなり心拍出量が減るので立ちくらみ等を起こしやすくなります。

このように考えると、入浴中の事故は血管が収縮して血圧が高くなって、心筋梗塞や脳出血になることによって起こると考えられてきました。しかし、解剖等ではこれらの死因がさほど多くないことがわかってきました。慶應義塾大学救急医学の堀先生は長時間入浴でヒトの体温が平均的な夏季(41℃)、冬季(43℃)の湯温に近似すれば健康障害が起こり、この原因は熱中症である指摘されています(入浴中の事故 日本臨床71:1047-1052、2013)(特別講演1 入浴中急死への取り組み日温気物医誌77:14-16、2013)。

入浴事故は、高齢、女性、気温の低い日、深夜から早朝に通報されたものが死亡例が多く、一方、夕方に発生した場合は死亡例が少ないことから、東京都健康長寿医療センター研究所の高橋先生は入浴事故予防のための対策として以下を提唱されています(引用元)。


1. 湯温は39~41℃くらいで長湯をしない
2. 脱衣場や浴室の室温が低くならない工夫をする
3. 食事直後や深夜に入浴しない
4. 気温の低い日は夜早めに入浴する
5. 心肺の慢性疾患や高血圧症をもつ人では半身浴が望ましい

また、温泉気候物理医学会による救急医学会との共同調査による浴関連事故調査報告(日温気物医誌73:267、2010)では、高齢者への入浴指導、入浴環境の整備(暖房など)、死亡後の画像診断の普及などが重要課題であると報告されています。