1. 〔第7回〕 疑問を解明し、これからに活かす

太田祥一ブログ医の王道に向かって

〔第7回〕 疑問を解明し、これからに活かす

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私が感銘を受けた論文に、「意識障害におけるバイタルサインの診断的価値」(Ikeda M et al. Using vital signs to diagnose impaired consciousness: cross sectional observational study. BMJ 325:800, 2002.)があります。
意識障害はABCの評価と安定化についで、D:JCSやGCSによる意識レベルのチェック、E:全身観察、体温の評価をしながら、AIUEOTIPS(図1)、頭部CT等で鑑別診断を進めて行きます。

図1

A : Alcohol 急性アルコール中毒
I : Insulin 低血糖
U : Uremia 尿毒症
E : Encephalopathy 脳症(高血圧性脳症、肝性脳症)
O : O2 低酸素
Overdose 薬物過剰摂取
T : Trauma 外傷
Temperature 低体温、高体温
I : Infection 感染症
P : Psychogenic 精神疾患
S : Seizure てんかん
Shock ショック
Stroke 脳出血

この研究は、意識障害の診断で、バイタルサイン、そのなかでも何が脳病変の有無の判定に役立つか、つまり、意識障害の鑑別で、CTを優先させるのか、それ以外の、特に循環障害をメインに進めるのか、という日常の臨床上の疑問に対して行われたものです。私はこの研究で、まず、日常の疑問を大事にして、それを解明する姿勢の大事さを学びました。

この論文では、「収縮期血圧は、意識障害の診断において、脳病変の検出にも除外にも役立つ、つまり、意識障害では収縮期血圧が高ければ脳内病変、低ければ全身疾患を疑う」ということを明らかにしています。その後著者は誰にでも書けるBMJ-Road to BMJ等で、臨床研究はどこでもできるということを仰っています。研究とは仰々しいものではなく、疑問を持ってそれを解明しようとすることなので、確かにそうです。

脳卒中の急性期には頭蓋内圧(ICP)が亢進するので脳灌流圧(CPP)を保つために血圧が上昇します。この際に徐脈となりこれをクッシング現象といいます。意識障害+高血圧で麻痺等の巣症状があれば大脳半球、巣症状がなければ脳幹やくも膜下出血の可能性が高くなります。随伴症状が特徴的であれば、これと併せて考えると正確さが増します。

一方では敗血症性ショックに代表されるように、全身疾患、特に循環不全に意識障害を伴うことも少なくありません。ショックでは手が暖かいか冷たいか、等でその原因検索、治療を進めて行きます(図2)。


図2
ショックへの初期診療アプローチ

この研究では、意識障害で、高血圧と徐脈は脳病変を、低血圧と頻脈は全身性疾患を、疑うという仮説を、Receiver operating characteristic (ROC) curveとStratum-specific likelihood ratios (SSLRs 階層別尤度比)という2つの臨床疫学指標を組み合わせて検証したものです。

このような統計の知識は大規模研究やメタ分析等で多く用いられています。この研究成果は、救急でのCT等画像診断や専門施設への転院、救急集中治療の必要性、がどこまで必要かの判断に活かされてきたと思います。

これを高齢者救急に当てはめてみると、脳血管障害による重症意識障害では、元の生活に戻ることは難しいので、気管挿管→気管切開、人工呼吸器管理が必要な積極的治療を希望するか、というような、終末期医療を視野に入れた治療の選択にまで応用できる素晴らしい研究だと思います。

一方で、意識障害の原因が尿路感染による敗血症性ショックなら、早期のEGDT達成(図3)、適切な抗菌薬投与等の積極的内科的治療で元の生活に戻る可能性が高くなるので、治療を勧める、その治療を自宅で行うか、入院するか、を決める、ということになります。救急集中治療領域ではこのようにガイドラインに則った診療のアルゴリズムが確立されつつあり、さらにそのアルゴリズムに基づいたバンドル(指示の束)(図4)があります。


図3
EGDT


図4
重症敗血症のバンドル


このように論文の結果の活かし方は時代に応じてもいろいろあると思います。いずれにしてもより良い論文に出会うことはとても有意義なことだと思います。

追伸
EGDTでは輸液やモニターのため中心静脈カテーテルや動脈カテーテルを挿入しますが、このような侵襲的な処置は在宅医療では困難なことがあります。私は、在宅でできることだけ取り入れても有用だと考え、このアルゴリズムのエッセンスを診療で実践しています。以下では、癌患者で平均血圧、6時間の尿量をゴールとするEGDTの非侵襲的なアルゴリズムで死亡率が低下した、と報告されています。疑問を持って探すと答えが出てきます。さすがです。まだまだすべきことはたくさんあります、ね。

【文献紹介】
Supportive Care in Cancer
March 2013, Volume 21, Issue 3, pp 727-734
Implementation of modified early-goal directed therapy for sepsis in the emergency center of a comprehensive cancer center
Katy M. Hanzelka, Sai-Ching J. Yeung, Gary Chisholm, Kelly Willis Merriman, Susan Gaeta, Imrana Malik, Terry W. Rice