1. 〔第17回〕株式会社 由紀精密・ものづくりというソリューションの可能性を追求したい

医療を支える日本のものづくり

〔第17回〕株式会社 由紀精密
ものづくりというソリューションの可能性を追求したい

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受注主体のねじ工場から始まり、現在は航空、宇宙事業関連の金属加工機器を
中心とする一方、医療機器部品、レコードプレーヤー、機械式時計などを製造する由紀精密。
さまざまな製品の開発から、製造、デザイン、広報、コンサルティングまで手がけ、
「何でも作る」という精神で、自社の強みを果敢に発揮しつづけている。

部品を製造する工場から、トータルで製品を提案できる企業へ

自社製品として販売しているアナログレコードプレーヤー「AP-0」。下部の空洞が斬新なデザイン。

「実はこれ、開発部の者が密かに1年ぐらい開発を続けたあとに『今、こういうのを作ってみているんです』と初めて見せてくれたのですが、『おもしろい!』と思って、製品化を決めました。完成したのはさらに1年後です」

由紀精密の3代目社長である大坪正人氏がうれしそうに語るのは、同社が今年の6月に発表したレコードプレーヤーのことだ。1950年に創業し、半世紀以上にわたって培ってきた金属切削技術、精密加工の技術を惜しみなく注ぎ込み、シンプルかつ斬新なデザインで表現したレコードプレーヤーは、完全受注生産で200万円という価格ながら、予想を超える数の予約が入っているという。

「弊社の東京の事務所に1台置いてあって、お客さまがいらっしゃるたびに一緒にレコードを聴いて盛りあがっています」と笑う大坪氏。2006年に由紀精密に入社し、2013年から社長を務める氏は、機械製品や電子機器の部品製造がメインだった同社を、製品の設計からデザインまで、トータルに提案できる企業へと脱皮させた。
レコードプレーヤーは、その成果の一つのかたちである。

「弊社は創業以来、ねじやシャフトなどの部品を作っていて、つまり金属を削って加工することがメインの仕事なんです。ですから、日々技術を向上させることでお客さまの期待にこたえ、信頼を高めることは、いつの時代も変わらず根本にあるのですが、企業としては、さらに高い価値を提供できるようにしていきたい。それで私は、自社のオリジナル製品も作れるように開発やデザインの部門を充実させ、加えてウェブサイトを含めた広報までも社内で完結できる仕組みを作りました」

顧客にアンケートをとり、その結果から自社の強みは技術力にあると再確認した。それを最大限にいかし、他社との差別化も図ることができる分野はどこか、熟考して出した答えは、宇宙を含む航空や、医療の分野に進出することだった。

医療分野への挑戦を脊椎用インプラントで切り拓く

ロケット用インジェクターのオリジナル試作の断面。溶接部を減らし、軽量化と強度を確保している。 脊椎用インプラントの器具。上は先端から逆端まで中に貫通した穴が開けられている器具。
下は体内に入るスクリュー。右側半分は術後に切り落とされる。
インプラント体のサイズは海外製品に比べ、日本人の体格に合うようなバリエーションを揃えている。
サイズは色で分かれているのだが(写真上の色見本)、これは塗料ではなく表面加工によって出しているという。

「でも、当然ながら、やりたいからといって、いきなり航空や医療の仕事がどんどん入ってくるわけではないですよね」と大坪氏。「自分たちはこういうことができる、そして、こういうことがしたい、という思いをウェブサイトなどで発信したり、展示会にサンプルを出展したりしているうちに、少しずつ問い合わせが入るようになり、部品の注文を受けるようになったんです」

現在では宇宙業界での活躍が注目を集めている。数ミクロンの誤差さえ許されないような人工衛星の部品を供給する由紀精密の高精度のものづくりは、まさに「リアル下町ロケット」といえるものだ。

一方、医療分野では、脊椎用インプラントが、開発から関わった製品として脚光を浴びている。
「それまでも、手術機器の部品などの生産はいろいろと受注していたのですが、開発段階から関わったのは脊椎用インプラントが初めてでした。人工衛星や機械式時計の部品ではミクロン単位の誤差が致命的になる分野ですが、医療系の製品、とくにインプラントのような患者さんの体内に入るものに関しては、材料の管理に気を使いますね。同様に表面処理も非常に大切です。視認性がよいよう製品の種類によって色が変えてありますが、染色ではなく、チタンの材料はそのままに、酸化皮膜の波長の差で色が変わるという技術です」

何を作るにしても、由紀精密の核は金属の切削技術であることには変わりなく、そこには絶対的な自信がある。案件によって変わってくるのは、クライアントが何を求めているか、という部分。つまり、納品した製品が、どこで、誰によってどう使われるのかをしっかりと把握することが必要なのだ。「勉強は常に欠かせないですよね」と大坪氏はしみじみと語る。
「われわれが関わっている業界をはじめ、社会のさまざまなことに対して、常にアンテナを張っていますよ。金属の切削にしても同様で、ひと言に金属といっても、千差万別なんです。同じチタンでも成分の違いによって性質は異なりますし、新しい素材だって次々に出てきます。素材の研究に加えて、どうしたら1秒でも速く、効率的に削ることができるか、そうした技術向上のために勉強は欠かせません」

ものづくりで世界を幸せにしたい

2015年にはフランスに子会社を設立した。宇宙を含む航空産業において、アメリカに次ぐ世界第2位の規模を誇る大国であり、日本における精密加工技術のルーツともいえるヨーロッパの中心に位置するフランスに拠点を置くのは大坪氏の夢だったという。
「フランスのみならず、スイスやドイツ、イタリアなど、ヨーロッパの企業と少しずつつながりが生まれています。今後、それらを仕事に発展させたいですね」

アルミで軽量化しながら剛性を担保した人工衛星の筐体。

また氏には、由紀精密の技術が、どれだけ社会問題の解決に役立つことができるか、チャレンジしつづけたいという熱い思いがある。
「たとえば、スペースデブリ(宇宙ごみ)の問題に取り組む企業とともに、実際にスペースデブリを回収するための人工衛星の設計開発をお手伝いしたり、グループ企業の明興双葉と、電気抵抗の少ない超伝導ワイヤーの開発に取り組んでいます。大容量の電流を流すことができる超伝導線ができれば、高エネルギー加速器や、MRIなどの医療機器への超伝導線の応用も期待されます」

ここで挙げた事例はとてもスケールが大きいものだけど、小さな実績を積み重ねながら社会貢献につなげていけたら、というのが大坪氏の願いだ。
「私たちのように切削加工を生業としている企業は、そのノウハウを突き詰めて応用すれば、どんな分野のリクエストにもこたえられると思います。でも、だからこそ『自分たちは何をやりたいのか』というビジョンをしっかりともつことが大事だと思うんです。なので、待っているだけではなく、『何かおもしろいことはないかな』と積極的に探していく。そうしてチャレンジを続けた結果、私たちのものづくりで少しでも世界が幸せになったら、これほどうれしいことはありません」

由紀精密のウェブサイトを訪れると、「そうだ、由紀精密に聞いてみよう」というコピーが現れるのだが、まさに言い得て妙という気がする。この言葉には、ものづくりがもつソリューションの可能性をとことん追求する彼らの姿勢と、揺るぎない自信が凝縮されているのである。

茅ヶ崎市にある本社。ほかに東京オフィス、横浜ファクトリー、フランスに子会社をもつ。

本社工場にはたくさんの切削機械が並び、多品種を製造している。

機械のプログラムも常にアップグレードしているという。

株式会社由紀精密 神奈川県茅ヶ崎市円蔵370(本社)
TEL: 0467-82-4106 https://www.yukiseimitsu.co.jp
文・山﨑隆一 写真・中村ユタカ