1. 〔第16回〕株式会社 木幡計器製作所・患者さんや、ご家族の役に立つ。それが医工連携の真の目的

医療を支える日本のものづくり

〔第16回〕株式会社 木幡計器製作所
患者さんや、ご家族の役に立つ。それが医工連携の真の目的

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ブルドン管圧力計の製作をはじめ、圧力計メーカーとして
100年以上の歴史をもつ木幡計器製作所。近年は医学系の大学と連携し、
医療製品の開発・製造に取り組むほか、IoT・ライフサイエンス分野の
スタートアップ企業のためのものづくり支援機関「Garage Taisho(ガレージ大正)」を
社内に設けるなど、さまざまに事業を広げている。医療に関わりのなかった業種が、
積極的な医工連携を進めるに至った経緯とその思いを伺った。

圧力計で培った測定技術が、医療の世界に貢献できるなら

大阪市大正区は工業の町でもあり、周りにも多くの工場が軒を連ねる。

大阪市大正区は、古くからものづくりが盛んな地域。明治期には、大阪紡績(現・東洋紡)が民間として初めて蒸気機関を導入し、昼夜二交代制で稼働する「眠らない工場」を作り上げ、日本の産業革命の黎明の地として、大阪が「東洋のマンチェスター」と呼ばれるほど繁栄する原動力となった。

時はたって2020年。新型コロナウイルスの感染が全国的に広がる中、大阪の病院では飛沫感染を防ぐための被覆具が、供給が需要に追いつかずにいた。そんな状況を救ったのが、大正区を中心としたものづくり企業のネットワークだ。病院からのSOSが届いてから25時間という超スピードで、ストレッチャーの頭部部分の飛沫感染を防ぐ防護具の製作と納品を実現し、新聞等で伝えられたのも記憶に新しい。このときは7つの企業が協力し合ったのだが、中心になって取りまとめたのが、今回紹介する株式会社木幡計器製作所である。

呼吸器系のリハビリテーションに用いる呼吸筋力測定器「IOP-01」。左のジグはかつて圧力計のメモリを刻んでいた作業台で今は使われていない。

1909(明治42)年に大阪府西区で創業し、戦後、大正区に移ってきた木幡計器が作るのは、圧力計だ。主に工場などで使われ、配管内の流体の圧力を測ることで安全性の確保に役立てたりする。そんな同社が医療関係の製品づくりに関わるようになったきっかけは何だったのか。
「もとはといえば、楽器店からたまたま問い合わせを受けて、吐く息の圧力を測る呼気圧計を作ったのが始まりです」

こう語るのは、7代目の社長を務める木幡巌氏。それまでは工業系一筋で、分野の違うものにチャレンジしたのはこのときが初めてだったという。
「話を聞くと、管楽器を演奏する人のトレーニングに使いたいとのことでした。高い呼気圧が出ると、高音が出やすくなるというんですね。普段だったらこういう話はお断りするのですが、弊社の技術者が趣味でトランペットをやっていて、話を聞くと、そういうニーズは確かにあるし、彼は偶然にもその楽器店の方と面識があると。そんなこともあって、作ってみることにしました」

圧力計の製作のほとんどは一つひとつ手作業でおこなわれている。

せっかく今までと違うものを作ったから、と同社のウェブサイトに掲載すると、大学の研究室から問い合わせがあり、注文につながった。2013年のことだ。
「呼吸リハビリテーションの研究をしている方々からの注文でした。ちょうどその頃、先代社長であった私の母に肺がんが発覚し余命宣告を受けていた時期でもあり、医療のことが身近に感じられるようになったんですよね。もし弊社の測定技術が呼吸器系統の治療に少しでも役立つのであれば、やってみる価値もあるのかな、と思いました。それで医療系にも挑戦することにしたんです」

現在では呼吸器系を中心に、生体センシングを、圧力をベースに測定する機器など、複数のプロジェクトが動いているという。

関わる人すべてに思いを巡らせた製品でなければ、医療の現場では使えない

「医療の世界に参入する」とか「医工連携を進める」などと言うのは簡単だが、実際には問題がたくさんある。薬事法などの制度のことを勉強しなければならないのはもちろんのこと、木幡氏が痛感しているのは、お互いの現場を理解することの難しさだ。
「先生たちは忙しい方ばかりだから、基本的にはわれわれが先生のもとを訪ねることになります。加えて、打ち合わせの時間も短くならざるを得ません」

そんななか、知り合った東京の医師は、機器のリクエストをしてくれただけでなく、大阪での学会に参加した際に、木幡計器の工場を訪ねてくれた。
「そのときには、もう製品はほぼ完成していたのですが、先生はそれを見て『操作ボタンはとにかくわかりやすくしてくださいね』とおっしゃられました。だけど、私はそこに深い意味があるとは思いませんでした。すると、先生は私が理解していないと思われたのでしょう。念を入れてもう一度説明してくださったんです」

医師の主張は、以下のようなことである。機器を扱うのは看護師や理学療法士で、毎日いろんな仕事に忙殺されており、常時この機械を使うわけではない。一回使って次に使うまで数か月の間が空くこともある。いざ患者の前で使うときに、機械の操作方法がわからなかったら、患者と病院との信頼関係が低くなってしまう。
「先生は、『医療の世界では、そんなことは絶対にあってはならないんです』と教えてくれました。そこで私は初めて事の重大さに気づいたのです。そして、関わる人すべてに思いを巡らせなければ、医療の現場で使っていただける製品はできない、と思いました」

呼吸筋力測定のデモンストレーションに使用するセット。白い筒の部分を口にくわえて呼吸をするだけで吐く筋力、吸う筋力を測る。流量ではなく圧力で測るので、肺の大きさなどは関係なく測定できる。

別の医師との対話では、こんなこともあった。外出時にも酸素ボンベ吸入が必要な患者さん向けに、酸素ボンベキャリーが引っ張らなくても自動追随するという話を聞いて、ものづくりの視点で木幡氏は「これはおもしろい」と思ったが、医師からは「こんなものと一緒に歩いたら、患者が見せ物になってしまう」と一蹴されてしまった。ここでも自らの視野の狭さを実感したという。
「一度バイアスを外さないと、結局はものづくりの立場からしか考えることができないんですよね。そこをどう視点を変えていくかが、医工連携では大事になってくるのだと思います」

コロナ禍が飛躍的に縮めた医工の距離

木幡計器のノウハウ・ネットワークを用い、ライフサイエンスや医療機器関連のベンチャー企業をサポートする取り組み「ガレージ大正」を社内に設置。

話を冒頭の新型コロナウイルスのところまで戻そう。

より幅広い視点をもち、高いレベルで医工連携を進めるため、今年の1月から、木幡氏は地元の病院や臨床工学技士らとともに月に1回のミーティングを始めたばかりだった。しかし、新型コロナウイルスの影響で、それどころではなくなってしまう。
「医療の現場で従事する皆さんと、膝を突き合わせて話し合い、お互いの理解を深めていく。そんな、私が理想とする環境が整いつつあったのですが、この状況下で、こちらから『何か力になれることはありませんか?』と連絡していいものか。遠慮してしまう自分がいました。そんな折に、地元の医療系NPOが主催するオンラインイベントに参加して、臨床の現場で起こっていることや、防護服もマスクも足りないという状況を知り、自分のことを恥ずかしく思いましたね。現場に声ひとつかけることもできなくて、何が医工連携だ、と」

もうこれからは、何でもいいからとにかく自分から動こう。そう思った矢先に、ストレッチャー用被覆具がほしいというSOSが届いたのだった。
「今回、協力してくださった企業さんたちは、みんながみんな医工連携に興味があったわけではありません。しかし、自分たちの技術が医療崩壊を防ぎ、世の中の役に立つことを実感して、確実に温度感が上がってきていますね」

また、皮肉な話かもしれないけれど、コロナ禍によって病院との距離感もぐっと縮まったという。
「患者さんを隔離する陰圧テントをはじめとして、次から次へと新たなニーズが生まれていますし、先生方ともLINE等を使って密に連絡を取るようになりました。当初、こういう関係を築くのに数年はかかると予想していましたが、この数か月で一気に進んだ感じです」

医療機器制作の打ち合わせや組み立てのスペースは工場とは別室を設けている。

しかし、まだまだ課題は多い。まずは、コロナ禍の刻々と変わる状況下で、病院のニーズ一つひとつに丁寧にこたえていくこと。
そして、ゆくゆくは医療と工業の距離をもっともっと近くしていくことだ。
「たとえば、地域の病院だったら、お互いに自転車で行ける距離にあるわけです。こちらが伺うこともできれば、先生も帰りにふらっと寄ることもできる。そうして距離感を少しずつ埋めていくことが、お互いを理解することにつながると思いますし、ひいては患者さんや、そのご家族の役に立つ。それが医工連携のめざすところですよね」

株式会社木幡計器製作所 大阪府大阪市大正区南恩加島5-8-6
TEL: 06-6552-0545 https://kobata.co.jp
文・山﨑隆一 写真・村川荘兵衛