1. 〔第15回〕株式会社ウドノ医機・国産滅菌装置のパイオニアは、どこまでも滅菌ひと筋

医療を支える日本のものづくり

〔第15回〕株式会社ウドノ医機・国産滅菌装置のパイオニアは、どこまでも滅菌ひと筋

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よい医療器具や医療用品があっても、そのまま手術に使用することはできない。
そこには細菌が存在するからだ。滅菌することは、当たり前のことであり、
医療機関には必ず滅菌装置がある。そんな滅菌装置にも歴史があり、常に進化し、
医療を支えているのだ。今回は日本でもっとも老舗の滅菌システム専門メーカーを訪ね、
そのものづくりの現場を見せてもらった。

多彩なニーズにこたえられる広い工場

八王子市楢原町にある工場では約50名の従業員が製作にあたっている。写真は小型~中型の装置を作る棟の内部。

「ついこの間まで、ここで新幹線の車両ほどもある大きな滅菌装置を作っていたんですよ。完成したら、いったんばらしてトレーラーで運び出し、納入先で再び組み立てて設置するのです」

工場を案内してくれたウドノ医機の栗原靖弘さんはそう言って、15メートルはあろうかという工場の高い天井を見上げた。巨大なクレーンががっしりと設置されていて、そこに車両のようなものがつり下げられる様子を想像するだけで、その迫力に思わず息を飲んでしまうのだった。

「大きなものになると、300人もの作業員が入れるぐらいの滅菌装置も受注します。それもすべて、この工場で作ります」

ウドノ医機は、滅菌装置(システム)を作る会社である。設立から96 年を数える老舗で、主な納入先は病院をはじめとする医療施設だ。加えて、近年増えてきているのが、製薬会社や医療機器メーカーなどに納める産業用滅菌装置なのだという。話題にのぼった巨大な機械も、産業用の滅菌装置のことである。

「医療施設に販売する製品は仕様が決まっているのですが、産業用のものは滅菌の対象が薬品の原材料だったり、あるいは製造段階にある機械だったり、お客さまによって変わってくるため、どんな装置が必要なのか、案件ごとにニーズを伺いながら作っていきます」とは、社長の鵜殿直子さん。

「産業用の場合は、営業職に加えて設計をするスタッフも同行し、お客さまの話を伺うようにしています。そして納品時には、まず古い機械を取り出すところからおこないます。新しい機械を設置するまでに数日を要しますね。設置する工場が海外という場合も少なくありません。この工場で作ったものを現地まで運び、弊社のスタッフが組み立てて設置するんです。最後は設計のスタッフが動作を確認するのですが、それまでに1か月半ほどもかかるんですよ」

ユーザーの声を聞いて進化してきた滅菌装置

前置きが長くなってしまったが、滅菌装置とは、手術で使うような器具を滅菌処理する装置のこと。これがあることで器具を再び使用することができ、感染の危険もなくなる。スーパードクターといわれる医師の手術も、実は滅菌装置に支えられているのだ。病院では材料部が管理している。

本社はJR八王子駅から徒歩5分ほどのところに構える。

ウドノ医機は、国産初の滅菌装置を製作したパイオニアだ。鵜殿社長の祖父であり、後にウドノ医機を創業することになる鵜殿廣久氏は、横須賀の浦賀でアメリカの病院船の中を点検する工員として働いていた。船内には最先端の機械が満載だったが、なかでも廣久氏の心をとらえたのが滅菌装置だったのだという。

「祖父は、これからの時代は滅菌が重要になってくると考えていました。とくに破傷風の感染予防を念頭に置いていたようですね」(直子さん)

病院船に設置されていたドイツ製の滅菌装置をくまなく研究した廣久氏は、1924年、ウドノ医機の前身である鵜殿工業所を設立した。そこで製作され、日本陸軍に納入された蒸気式の国産滅菌装置第1号は、現在、千葉県にある印西市立印旛医科器械歴史資料館に展示されている。

「当初は病院船に設置するものを製作しようとしていたそうですが、時代的に必要とされたのは、車輪がついて移動が可能な、いわゆる『野戦型』でした。傷ついた兵士のところへ行って、そこで手術ができるようなものですね」(栗原さん)

当時は東京の田端に工場を構えていたが、戦時中に疎開して八王子に移動した。終戦後には田端に戻ることも考えたが、これからはより大きな工場が必要になると考えた廣久氏は、そのまま八王子に残ることにした。現在もウドノ医機の本拠地は事務所、工場ともに八王子である。

「軍を除いては、ずっと医療施設に設置する滅菌装置を中心に製造を続けています」と直子さん。1965年にはリモートコントロール式、79年にはコンピュータ制御といずれも国産初となるシステムを開発し、常に業界をリードしつづけている。

ウドノ医機の技術の集大成を反映した「UMシリーズ」(右)。音声ガイダンスや運転予約、自動追加乾燥、クーリング、データ管理などの多機能を備える。左側は蒸気と電気の2つの熱源を活用したハイブリッド型の「UHシリーズ」。

「蒸気式の滅菌は120度以上の高温でおこないますので、操作方法を間違えると火傷をしてしまうこともあります。また、プラスチック製の器具のように高温では滅菌できないものに対してはガスを利用した低温殺菌をおこなうのですが、すると酸化エチレンガスなど人体に有害なガスを使用することになります。いずれのシステムも、滅菌がしっかりとできることはもちろん、作業員の安全を確保する必要もあります。こうした滅菌方法の進化は、お客さまのニーズによって出てきたものなんです」(栗原さん)

ユーザビリティに対する配慮は、音声ガイダンスや運転予約といった最新機能を搭載した現行のフラッグシップ、UMシリーズにも引き継がれている。もはやウドノ医機の伝統といってもいいだろう。

これまで培った技術はすべて滅菌のために使う



大小さまざまな滅菌装置が作られている。 装置外側には複雑な配管や電気系統があり、これらも一から設計されている。

「でも、まずは装置そのものが頑丈なんです。ウドノの強みはそこにあると思いますよ」と、栗原さんは言う。8年前に中途入社したという栗原さんは、会社や製品のことがより客観的に見えるのだろう。「一般的に、滅菌装置の交換は10年が目安とされているのですが、ウドノの製品は10年ではびくともしない。この耐久性は業界随一ですね。だから事業が100年近くも続いているのだと思います」

直子さんは、物心ついた頃から工場が身近にあり、工員との距離も近かったという。「私たちは職工の集まりなので……」という言い回しが、取材中に幾度となく出てきた。製品づくりにおいては何よりも職人の腕が大事だと感覚でわかっているのだろう。

「お客さまが自分の仕事に集中できるように、安全で壊れにくい製品を作る。これが第一ですね。私たちは会社としての規模が大きくないので、工場で製造をおこなうスタッフが直接設置に出向いたりもします。ただ作るだけではなく、製品が使われる現場やお客さまの顔を知ることで自らの仕事に誇りと愛着がもてますし、新たなアイデアも生まれるのです」

日本医療機器学会が認定する第1種滅菌技師の資格を持つ栗原さんは、研究会で講演をするなど、滅菌に関する知識の普及に務めている。近年はユーザーからも滅菌装置の使い方や滅菌に関するレクチャーを依頼されることが多いのだという。

「『メンテナンスできないものは売らない』というのが先代からのポリシーです。お客さまのもとに栗原や設計のスタッフを派遣したり、あるいはお客さまに弊社までお越しいただいて研修をおこない、メンテナンスができるようになってもらっています」(直子さん)

壁に「人々の生命を守る技術がここにある。」の文字が掲げられており、滅菌のプロ意識がうかがえる。

滅菌で培ってきた技術を他ジャンルにいかす、なんてことはせず、あくまでも滅菌一筋。これも先代から受け継いだ信条なのだという。

「二兎を追う者は一兎をも得ず。事業の多角化は手を抜くことにつながる、というのが先代の考えでした。私たちはお客さまの声を聞いて、ニーズにこたえるために日々技術を磨き、研究をしています。そして『滅菌のことだったらウドノにお任せしよう』と思っていただける存在になる。これを目標に、少しずつ前進していきたいと思います」

株式会社 ウドノ医機 東京都八王子市元横山町2-1-9(本社)
TEL: 042-642-6153 https://www.udono.com
文・山﨑隆一 写真・中村ユタカ