1. 〔第4回〕株式会社 寿技研・手術トレーニングの未来をつくる

医療を支える日本のものづくり

〔第4回〕株式会社 寿技研・手術トレーニングの未来をつくる

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さまざまな金属加工をはじまりとして、ラジコンレース用のスポンジタイヤ、そして手術のトレーニング用品。
一見、つながりがないようだが、この町工場の技術の上にはひとつづきになっている。
日々のトレーニングが欠かせないといわれる腹腔鏡手術のための練習キットをはじめ、さらには臓器モデルへと手を広げる小さな工場・寿技研を訪ねる。

困ったら寿技研に聞け

1階は主に金属加工の作業場。1階は主に金属加工の作業場。

ラジコンのタイヤは月に10万個を生産。最盛期には月100万個単位だったことも。ラジコンのタイヤは月に10万個を生産。最盛期には月100万個単位だったことも。

埼玉県八潮市は、県内有数の工業地帯。とくに中小規模の工場が多い。「何かをつくるのに、足りない部品があったとしても、自転車で10分くらい走って工場を巡れば、ほとんどのものが手に入るんですよ」と笑うのは、八潮を拠点とする町工場の一つ、株式会社 寿技研の高山成一郎氏。1978年に創業し、成一郎氏は2代目の社長である。

「私の父が創業した時は、金型やプレス加工をメインにしていましたが、いわば〝なんでも屋〞。プラスチックや金属を削ったり、工作機械をつくったり。ものづくりに関することはほとんど何でもやります。『これだけは他社に絶対に負けない』という技術があるわけではありませんが、その代わり素材に関する知識をはじめ、ものづくり全般のノウハウを蓄積してきましたので、『困ったら寿技研に聞け』といわれるようになっていきました」

その最たる例の一つが、ラジコンカーのタイヤ製作。一瞬の遅れも許されないレースの舞台で勝利するには、高精度のタイヤが不可欠。そのタイヤの製作で寿技研は世界でトップレベルの技術力をもち、量産できる体制も整えている数少ない工場なのだ。
「最初は業者さんからお話をいただいたのですが、それも我々がタイヤをつくっていたからではなく、『寿技研だったらつくってくれるんじゃないか』と相談されたのが始まりなんです。現在、ラジコンカーのタイヤを量産しているのは世界でも5~6社しかないと思います」

手術の練習用キットを、求めやすい価格で

縫合・結紮の練習用パッド(縦125mm・横100mm・高さ12mm)。縫合・結紮の練習用パッド(縦125mm・横100mm・高さ12mm)。

いままでになかったものを、豊富な経験とチャレンジ精神でつくり出す。そんな寿技研の本領は、近年、医療の世界でも発揮されはじめている。
「きっかけは、医療機器の製造販売会社に勤める友人から話を聞いたことからなんです」と高山氏。「彼の会社は腹腔鏡手術に関するデバイスでは世界トップレベルのシェアをもっている。けれど、手術の講習会で使うような練習器具については、まだ開発の余地があるからつくってみないか、と」。

聞くと、販売されている練習器具は数十万円もする高価なものなので、先生たちはホームセンターでアクリル板を買ってきて、穴を空けたり曲げたりして自作しているという。
「それを見せてもらって、びっくりしました。私の工場でつくったらすぐにできる簡単なものだったからです。こんなことで困っていたのか、と思いました」

そこで試作品をつくり、友人に紹介してもらった先生に見せたら「素晴らしい!」と喜んでもらえた。「友人は『ウチの会社で販売するには時間がかかりそうだから、自分で売ったらいいですよ』と。先生は『2万円くらいでこんなトレーニング器具が手に入ったら嬉しい』とおっしゃっていたので、そのくらいの価格設定にして商品化しました。それでも採算がとれると思いましたので」

初期モデルの「ラパトレK」。価格は23,760円(税込)と手ごろだ。初期モデルの「ラパトレK」。価格は23,760円(税込)と手ごろだ。

iPhoneやiPadを用いてどこでもトレーニングができる「ラパロトレーニング バインダー」。収納時はコンパクトなバインダーになる。縫合・結紮の練習用パッドはいかに臓器の形に似せるかよりも、機能を重視して価格を抑えた仕様に。iPhoneやiPadを用いてどこでもトレーニングができる「ラパロトレーニング バインダー」。収納時はコンパクトなバインダーになる。縫合・結紮の練習用パッドはいかに臓器の形に似せるかよりも、機能を重視して価格を抑えた仕様に。

そうして生まれたのが、腹腔鏡手術簡易トレーニングボックス〈ラパトレK〉である。
「まさか自分で販売まですることになるとは思いませんでした」と苦笑いする高山氏。しかし自社のウェブサイト上で直に医師たちに販売することで単価を抑えることに成功。その試みは埼玉県で革新的な技術開発などをおこなった経営者や企業に贈られる「渋沢栄一ビジネス大賞」のベンチャースピリット部門で、平成26年度の特別賞を受賞することになった。

また、日本内視鏡外科学会の総会に展示ブースを出すことで、医師たちの生の意見を聞けたことも大きな収穫だったという。 「練習するにはカメラとモニターも必要なのですが、そういったものは先生方が用意するだろう、と最初は思っていました。でも皆さん忙しいし、カメラを選ぶのも難しいとの声があったので、カメラとモニターをつけた映像セットを用意しました。そうしたら本当に喜ばれて、励みになりましたね」

そして、医師たちのリクエストにこたえ、〈ラパトレK〉とともに使える縫合・結紮の練習用パッドも開発し、価格を抑えることでヒット商品となった。顧客の声に柔軟に対応しながら、フットワーク軽く新しい商品を次々と市場に出すことができるのは、自社で開発から販売までおこなうことのメリットといえよう。

コンニャクが医療の未来を変える!?

コンニャクを使って出来上がった試作品、製品の数々。遠くはアメリカまで送られる。コンニャクを使って出来上がった試作品、製品の数々。遠くはアメリカまで送られる。

さて、ここ2年ほど、高山氏が開発に取り組んでいるのが、電気メスの使用を前提とした練習用臓器モデルの開発だ。現在流通しているものは、臓器1個で何十万円もするという。だが、寿技研でつくるのであれば、できる限り安価で、よりリアルな質感をもったものにしたい。

そのヒントは、実に意外なところにあった。
「渋沢栄一ビジネス大賞の大賞を取ったのはコンニャクを研究しているメーカーでした。授賞式でその社長とお話をしていて、ふと思ったんです。レバ刺しが禁止になって、代用品として注目されたのがコンニャク。レバーの質感が出せるんだったら、コンニャクで臓器モデルができるんじゃないかって」

ひらめいたら、即実行。すぐに高山氏はコンニャクづくりの研究に没頭した。「食用ではなく、人体の組織に近くするため、繊維質を多くしたりなどさまざまにやっていたら一週間くらいでなんとなくできてきたんですよね。これはいける、と思いました」

  • コンニャクを使った「手術トレーニング用臓器モデル」。見ためよりも感触において、人間の臓器に限りなく近くする研究が重ねられている。

その後も医師たちに試してもらいながら研究と開発を重ね、今春にはテスト販売を開始したいと考えている。
「コンニャクはエコな素材だし、原価もそれほどかからない。お求めやすい価格で提供できると思います。すぐに広がらなくとも、10年後、20年後にはこのコンニャクが手術トレーニングのスタンダードになってくれたらいいなと思いますね」

ラジコンカーのタイヤから、手術のトレーニングキット、そして臓器モデルまで。寿技研が手がける製品の幅広さは、町工場の高い技術力と懐の深さ、そしてプライドの現れである。そういっても過言ではないだろう。

株式会社 寿技研 埼玉県八潮市浮塚190-2
TEL: 048-997-1794 http://www.tech-kg.co.jp
オンラインショップ: http://www.tech-kg-shop.com
文・山﨑隆一 写真・中村ユタカ