1. 〔第3回〕株式会社 ミクロ発條・バネづくりの技術を医療にいかす

医療を支える日本のものづくり

〔第3回〕株式会社 ミクロ発條・バネづくりの技術を医療にいかす

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ボールペンのペン先でインク量を調整する微細なバネの、世界トップシェアを誇る。それらを製造する技術は、例えば血管カテーテルに使う毛1本ほどの太さのコイルなど、医療分野でも応用されている。
この技術と可能性を探るべく、長野県諏訪市にある工場を訪れた。

ボールペンの書き味を支えるバネ



ボールペン先に使われる極小バネ。ボールペン先に使われる極小バネ。

ガチャン、ガッチャン。

工場の中では、幾列にも並んだ機械が、黙々と作業をつづけている。凝視しないと見えないほどの細い鋼材を、丸め、折り曲げ、切って。そして下に置かれた容器に落としていく。その光景は、まるで子どものころにテレビアニメで見た未来の工場のようで、ずっと見ていても飽きることがない。

機械が作っているのは、外径が1ミリにも満たないような、超極小のバネ。ボールペンの先端のボールの部分を支えるバネといったら、その小ささを想像できるだろうか。インクの漏れを抑え、ゲルインクボールペンの特長であるなめらかな書き味を支えるのが、このバネなのだ。

「コンマ1ミリの線が、コンマ5ミリのボールを押しているんですよ。このバネを、毎月数千万個生産しています」とは、株式会社ミクロ発條の社長、小島拓也氏。長野県諏訪市を拠点とするミクロ発條は、ボールペンに使われる極微細バネにおいて世界トップのシェアを誇るのをはじめ、圧縮コイルバネ、引張コイルバネ、トーションバネなど各種を製造している会社である。どんなに小さなバネでも、異形線バネでも、顧客の求めるものを迅速に開発・製作することができる柔軟な対応力が身上だ。小島氏は4代目の社長である。

業界初、自社でNCマシンを開発

コンマ数ミリの極小の製品を拡大して検品する。ゆがみやずれがないか、縦と横のラインを確かめる。コンマ数ミリの極小の製品を拡大して検品する。
ゆがみやずれがないか、縦と横のラインを確かめる。

1954年に諏訪で創業したミクロ発條。当初は、オリンパスやチノンなど、地元に工場を持つカメラメーカーのためにバネを製造し、供給していた。
「機械式のカメラでは、シャッター周りやフィルムの巻き上げレバーをはじめ、1台につき100点ほどのバネが使われていました。一つの機種の仕事をいただき、そのカメラが4万台くらい生産されるとなると、それだけで40人の社員を食べさせていけたそうです」と小島社長。「1970年代になると、それまで職人の手作業で扱っていたバネの製造機械を、業界で初めてコンピュータ制御にしました。自社でNC(Numeral Control)マシンを開発したんです。そうすることで生産性を飛躍的に高めたんですよね」

80年代に入ると、テレビをはじめ家電のリモコン化が急速に進む。するとリモコンの乾電池を支えるバネの製造で高いシェアを誇るようになった。
「リモコンのバネは裏で基盤につながっていて、基盤の型が一つできると、あとはバネで経路を調整するしかないんです。私たちは機械の調整を迅速におこなえる設備を持っていたので、柔軟に対応することができました」

90年代には冒頭で触れたボールペン用のバネの開発・製造が始まり、現在までつづいている。また、カーオーディオに使われるバネも製造しているという。しかし、カーオーディオのどこにバネがあるのだろう?
「カーオーディオにはスイッチが8つ入っていて、それぞれがCDを入り口で感知することで機器が稼働し、CDがプレーヤーの中に入っていく仕組みになっています。実はそのスイッチの中に、バネが入っているんですよ」

そのほかにも携帯電話のスピーカーやマイクを導通させるためのバネや、半導体の検査装置に使われるバネなど、あらゆるところで使われるバネを製造しているミクロ発條だが、その真骨頂はコンマ何ミリの世界で勝負できる細かな技術力。長年積み重ねてきたノウハウは、いまや医療の分野でも発揮され始めている。

医療機器への取り組み



血管カテーテル用の極細コイル。血管カテーテル用の極細コイル。

医療用のコイル。外径が太ければやわらかく、細くすれば固く調整できる。医師が動かしたい方向に素直に動くトルクも必要。カテーテルのマーカーコイルにはプラチナタングステン、パラジウムなどを使っており、コイルにメッキ処理をする技術は日本でなければできない。医療用のコイル。外径が太ければやわらかく、細くすれば固く調整できる。医師が動かしたい方向に素直に動くトルクも必要。カテーテルのマーカーコイルにはプラチナタングステン、パラジウムなどを使っており、コイルにメッキ処理をする技術は日本でなければできない。

工場内には数百のマシンが並び、それぞれが別のバネを作る。工場内には数百のマシンが並び、それぞれが別のバネを作る。

「医療機器だとまずカテーテルがあります」と小島社長。「ガイドワイヤーの先端がX線をとおして造影されやすいようにするマーカーコイルをはじめ、私たちの極微細バネづくりの技術が、カテーテルに採用されているんです」。
バネづくりで培った「巻く」技術で、弾性や追随性に富み、血管の中を蛇行しながら進むことのできるしなやかなコイルが作れるのだ。
「われわれは医療機器の一部品を作るメーカーという立場ではありますが、学会にも積極的に参加して手術の失敗例を見せていただくなどして、柔軟性の問題など、コイルが抱える課題を常に考えるようにしています」

また、さまざまな超精密技術を持つ地元の企業と連携し、独自の医療機器を開発する試みもおこなっている。
「『中小企業医療機器開発ネットワークSESSA(セッサ)』という、諏訪圏を基盤とするものつくり企業のネットワークです。時計産業などで培った金属の研磨や接合といった超精密加工技術、そして材料の開発など、参画する企業の得意分野を医療機器の開発にいかしています。実際に医療機器を設計・製作する企業も参画しているので、設計の段階から医療機器への理解をより深めながら開発にかかわることができるんですよね」

SESSAではミクロ発條の技術をいかした独自のコイルシースを使用し、超微細粒ステンレス鋼製内視鏡用鉗子を開発している。それは各地で開催される展示会にも出展している。0.7ミリという先端部の外径は世界最細径で、スムーズな動作も可能だという。

そしてさらに、大学と共同で研究をおこなっているものがある。脳動脈瘤のコイル塞栓術だ。これに使うコイルの開発で、試行錯誤しているのだ。
「これは最初、アメリカで同業者に見せてもらったのですが、この治療法に私たちが持つバネの技術をいかせないかと考えたんです。まだ実用には至っていませんが、ある程度のリスクを負ってでも研究していきたいと思っています」

大事なのは、価値を生み出すこと

極小バネ。極小バネ。

「確かに、ボールペン用のバネのような製品と比べれば、医療機器は少量多品種です。しかし、われわれは決してボリュームがあるところに軸足を置きたいのではなく、価値が見いだせるところに力を入れたいんです。そういう意味では、ボールペンも医療機器も同じ位置づけですね」

品質がすべての要である、というのは当然のこと。海外にも製造拠点を持つミクロ発條だが、「日本から海外に納める価値のあるものを作る」ことが小島社長の信条だ。

株式会社 ミクロ発條 長野県諏訪市小和田南22番6号
TEL: 0266-52-3550 http://mikuro-spring.com/
文・山﨑隆一 写真・中村ユタカ