1. 〔第2回〕株式会社 高山医療機械製作所・世界で勝負する“デジタルのハンドメイド”

医療を支える日本のものづくり

〔第2回〕株式会社 高山医療機械製作所・世界で勝負する“デジタルのハンドメイド”

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世界各地で脳のバイパス手術が見直されているいま、医師の高度な技術と同時に、器具にも繊細さと強度と切れ味が求められる。
名医・上山博康が使用する手術器具一式を筆頭に、さまざまな医療器具を作り続け、世界へ送り出している工場を訪ねた。

名刀の切れ味、ムラマサ

名刀の切れ味、ムラマサ

脳神経外科の分野で屈指の技術と実績を誇る上山博康医師を支える、バイパス手術用の鋏はさみがある。「上山式マイクロ剪刀(せんとう)ムラマサスペシャル」と名づけられたその鋏は、いまや国内のみならず、世界の脳外科医の間でスタンダードになりつつある。「ムラマサ」という名は、これを試した上山医師が、その切れ味の鋭さから、日本を代表する刀「村正」にあやかり、つけたという。しかし、妖刀と恐れられた「村正」とは反対に、「ムラマサ」は人の命を救うためのものだ。

この鋏を上山医師と共に開発したのは、東京の下町、谷中を拠点とする高山医療機械製作所。1905年の創業以来、医療用の鋏やメスなど、刃物の製作に取り組んでいる。現在の社長である髙山隆志氏は4代目だ。
「いまは世界中の医師からの開発案件があって、ついていくのに必死だよ。僕も毎朝早くから夜遅くまで働いてるし、スタッフたちも同じ。それでもまだ追いつかない」

下町ならではの語り口のなかにも、繊細さとやさしさ、そして確固たる意思を感じさせる。髙山氏は、それまで熟練の職人たちによって一つひとつ手作業で進められていた工程を見直し、機械化を推し進めることで生産効率の向上に努めるだけでなく、ワールドワイドな事業展開を可能にした人である。

工作機械との格闘

社長が自身の手で改造を重ねた工作機械。これがすでに職人技。社長が自身の手で改造を重ねた工作機械。これがすでに職人技。

あくまでも仕上げは手作業。機械化をしてもハンドメイドと同等のクオリティを保つ。あくまでも仕上げは手作業。機械化をしてもハンドメイドと同等のクオリティを保つ。

父親である先代の社長のもとで、職人としての修業を積んだ髙山氏。約30年前、22歳のときに西ドイツ(当時)へ行き、医療器具製造の現場を視察した。
「実際、やってることは自分たちと変わらないな、と思った。ただ、機械化が進んでいたんですよね」

帰国後、髙山氏は独学で工作機械の研究を始める。先代からは「くだらないことをするな」と咎められたともいう。
「何から何まで手作業でやっていました。僕たちの仕事は夏の暑い中でも火を使わないといけないし、手が腫れるまで金属を削らないといけません。僕はやりましたが従業員にやらせると続かないのでほかの方法を探しました」

しかし当時、医療器具を製作するための工作機械はない。だから髙山氏は自分で機械を購入し、改造を重ねながら方法を探っていった。
「当時の機械は真鍮とか軟鉄とか、加工しやすい素材のためのものだったけれど、僕たちが扱うのはステンレスのような、削るのが難しい素材。まず切削条件がわからないんだよね。ヨーロッパでは、ロレックスのオイスターのケースみたいに18-8ステンレスを普通に削り出してるのに。あと、医療器具は複雑な形をしたものが多くて、機械にうまく載らないし、固定もできない。それでジグを作ったりして、少しずつ試していった」

また、それまでは先代が作った見本をもとにしていた製品を、図面化することにも着手した。
「昔は先代が作った見本に合わせて作っていました。これも大事な工程だけれど、見本以外の情報が無く毎回ゼロからの作業になる。そこで図面を起こし、機械でできるところと、手でできることを分けようと思いました」

こうして、高山医療機械製作所は、最後の仕上げなどの重要なところは手作業だが、できる限り効率化を図る、いわば「デジタルのハンドメイド」による製造工程を確立していったのだ。

現場に立ち会うことで得られるもの

頭蓋骨に開けた穴をふさぐ「バーホールプレート」。チタンを掘削し立体的に仕上げる。頭蓋骨に開けた穴をふさぐ「バーホールプレート」。チタンを掘削し立体的に仕上げる。

もうひとつ、髙山氏が力を入れているのが、臨床の勉強だ。上山医師の手術を見学させてもらったり、アメリカでの遺体を使った実験に参加したりしているという。

「手術の現場では、麻酔導入から始まって、開頭して顕微鏡が入る。各場面での術野も変わるし、医師の姿勢や道具の持ち方も違ってくる。すると、自分がこれまで『この部分はこんな感じでいいのかな』と思っていたところが、実はそうじゃないことがわかってきます。気を使うのは刃の先端だけじゃなくて、トータルなバランス。道具から手へと情報が確実に伝わるようにしないといけない。そういうことを、製造する側は見落としがちなんですよね」

  • 機械を利用するのは、材料を軽くするための溝入れなど。機械を利用するのは、材料を軽くするための溝入れなど。
  • 形が整った鋏の原型。ここから手作業のはじまり。形が整った鋏の原型。ここから手作業のはじまり。

機械はすべて外国製。パテック・フィリップの工場と同じ機械もあるとか。かたや高級腕時計、かたや医療器具を作っている。機械はすべて外国製。パテック・フィリップの工場と同じ機械もあるとか。かたや高級腕時計、かたや医療器具を作っている。

そうしてバージョンアップし、手術の最初から最後まで変わらない切れ味は当然のこと、各作業に特化した機能をもつ上山式の鋏は、日本のみならず近年は欧米を中心に海外の医師からも大きな注目を集めている。
「海外の先生たちからは『この鋏を使って手術時間が短くなった』といわれます。麻酔時間も詰まるから、患者さんへのダメージも少ないし。フィンランドのある先生は『上山式の鋏がもつ機能について論文を書きたい』って」

一つひとつ丁寧に課題と向き合う

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「上山式だけでも、たくさんの種類がある。ムラマサだけじゃなく持針器、剥離子とかも入れると50点以上。たとえばひと月に100種類のものを10本ずつ、なんて注文が入っても、ラインを工夫することで対応できる。医療器具の分野では、生産のスピードは日本一だと思う」

2008年、リーマンショックの年に生産量は一時減ったが、そのときにISO13485(医療機器・体外診断用医薬品)を取得したことで、海外からの注文にも対応しやすくなった。
「僕たちは『いまよりもよくするにはどうすればいいか』という課題に向かって、絶えず変化していっている。10年前、1年前、1か月前と比べてもやってることは違う」

現代に即したやり方を、貪欲に取り込む。その作業は、もう試行錯誤なんて言葉も生ぬるいのだろう。「これまでに、うまくいかないことが本当にたくさんあった」と髙山氏はしみじみと語る。「だけど、問題が出てくるたびに、一つひとつ丁寧に修正して対処してきたからいまがあるし、もし何かあっても解決の方法がわかるんですよ」。
「医師の腕は日々上達しているし、僕たちの製品にも完成型はない」という髙山氏。そのたゆまぬ努力は、今日も、そして明日も続いていく。

株式会社 高山医療機械製作所 東京都台東区谷中3-4-4
TEL: 03-3821-0249 http://www.takayamamicro.com/
文・山﨑隆一 写真・中村ユタカ