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歯科の開業で失敗しないためのポイントとは?動向や経営戦略を紹介!

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「歯科クリニックを開業したいが競合も多そうだし、今から始めるのは不安……」

このように考えている歯科医師の方も多いのではないでしょうか。

歯科は開業する医師が多いため、クリニック経営においては他院との差別化が必要不可欠です。歯科医としての技術や強み、自費診療の取り入れなど差別化戦略はいくつも考えられます。

この記事では歯科クリニック開業に必要な経営戦略や歯科業界の動向を解説します。

開業で失敗したくない歯科医師の方は、ぜひ参考にしてください。

歯科業界をとりまく主な動向

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「歯科クリニックはコンビニエンスストアよりも多い」と言われている通り、厚生労働省の「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」(1)では歯科クリニックは6万7,874施設となっています。

一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会の「JFAコンビニエンスストア統計調査月報 2022年5月度」(2)によると、2022年5月時点のコンビニエンスストアの店舗数が5万5,904件であるため、圧倒的に歯科クリニックのほうが多いということがわかります。
しかし歯科クリニックも毎年増え続けているわけではなく、1999年以降は60,000件台をほぼ横ばいに推移しています。

令和2年におこなった厚生労働省「令和2(2020)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(3)によると、歯科医師10万7,443人の内、クリニックで勤務する医師の数は9万1,789人で、平成30年の前調査より1.9%増加しています。また全国の医療施設に従事している歯科医師10万4,118人の主たる診療科は、歯科が8万9,717人(86.2%)と最も多く、次いで歯科口腔外科が4,413人(4.2%)となっています。
施設別にみると病院に勤める歯科医師の42.4%は歯科、31.4%は歯科口腔外科に属しています。一方で診療所に属する歯科医師の92.0%は歯科、歯科口腔外科は0.6%と2つの診療科で大きく差があります。

また開業している歯科医師の数は地域によってかなりのばらつきがあります。厚生労働省「令和(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計 統計表 41」(4)によると、人口10万人に対する診療所に従事する歯科医師数は全国平均で72.8人ですが、都道府県別にみると最も多い東京都で100人、最も少ない島根県で52.2人となっています。

歯科クリニックを開業する際は、全国的な傾向を把握したうえで開業エリアを選定することも成功のための大切な要素といえるでしょう。

歯科クリニックを開業するために専門医は必要か?

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厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(3)によると、歯科医師全体の95.0%が広告可能な専門医資格を取得しておらず、診療所に従事する歯科医師についても、96.6%が「専門医資格を持っていない」と回答しています。

歯科専門医を取得していなくても開業することはできますが、他の歯科クリニックとの差別化を図りたいのであれば、「歯周病専門医」「小児歯科専門医」など自分の診療所のブランディングに適した専門医資格を取得しておくのも選択肢の一つです。

歯科クリニック成功のために重要視したい「ブランディング」と「経営戦略」

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歯科はさまざまなブランディングや経営戦略が可能な診療科です。現在歯科医師が看板に掲げられるのは「一般歯科、小児歯科、矯正歯科、口腔外科」の4種類となっています。これらを標榜するために専門医資格が必要という規定はありません。小児歯科、矯正歯科、口腔外科は単独でも標榜できる専門歯科になります。自分の得意な分野があれば、それを主軸にして開業するのも一つの手です。
ただし口腔外科に関しては専門性が高く、重症な患者さんも数多く来院するため、同じく専門性の高い看護師や医療スタッフを揃える必要があるという点から、容易には参入しづらい分野といえるでしょう。

自由診療や自費診療を取り入れることで、より少ない患者数で多くの収益が得られることから、矯正歯科や美容面に特化した歯科クリニックも戦略の1つとして検討できます。特に都心部では「綺麗な歯を維持したい」「見た目のために、歯を整えたい」という人も多いため、経営が成功する可能性は十分にあるでしょう。

また小児歯科も親御さんには人気が高く、虫歯治療はもちろん予防歯科や歯科矯正にも興味関心を持つ親御さんが増えてきています。

「虫歯の治療」「ブラッシング指導」など従来の一般歯科の診療も重要視しつつ、さまざまな方法での経営戦略を立てていくことが大切です。競合相手の診療所も同じような戦略を考えている可能性は十分にあるため、ライバルと競合する危険性も考えたうえで開業前のマーケティング戦略を明確にし、歯科クリニックを開業することが成功の秘訣です。

歯科クリニックの開業資金

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歯科クリニック開業を考えるうえで、初めに検討したい課題は「資金」です。開業資金は、「設備資金」と「運転資金」にわけることができます。歯科クリニックの開業資金を、項目ごとに解説していきます。

設備資金

設備資金の一例として、下記の項目が挙げられます。

歯科クリニック開業に必要な設備資金
  • 土地・建物購入費(または賃料)
  • 物件を借りる際の保証金
  • 診療所の内装費
  • 医療機器・設備・医薬品の購入費
  • リース料
  • 電子カルテ関連費用
  • オンライン予約システム関連

歯科の患者さんは子供から老人まで、年齢・性別を問いません。開業を成功させるためには、自身の診療所のターゲティングに合わせた立地を選ぶことが重要です。
一般歯科はターゲットが広く競合相手も多いため、「人通りが多く明るい場所」がおすすめです。誰もが気軽に入りやすい場所での開業は認知されやすいと考えられます。
小児歯科をメインとするのであれば、子供が多く住むエリアや学校、商業施設の近くなど、親御さんが通いやすいような立地が好まれます。車や公共交通機関など多様な手段で来院しやすい場所、土地勘がない人にもわかりやすい場所に開業するとさらに集患しやすくなるでしょう。なお、厚生労働省「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」(1)によると、小児歯科を主たる診療とする歯科クリニックは、歯科クリニック全体の64.7%を占めているため、他院と差別化を図ることも重要です。
矯正歯科をメインに開業するのであれば、ターゲットは子供から成人となります。通勤で通いやすい駅前などの立地がおすすめです。

また歯科クリニックの対象患者さんの年齢層は幅広く、赤ちゃんから高齢者まで受診する可能性があるため、車椅子やベビーカーの患者さんも受診しやすいよう受付や待合室は広めに確保しておきましょう。
診察室に関してもやや広めのスペースを確保し、複数の個別ブースに区切る形がよいでしょう。可能であれば個室も1~2室あると、親子連れやプライバシーに配慮した診察も可能になります。中には診察室の全室を個室とし、より患者さんのプライバシーに配慮した診療を売りにすることで成功している例もあります。
小児歯科の場合は子供が嫌がらずに受診できるような環境・設備を整える必要があります。待ち時間を楽しめるよう、広めの待合室で子供向けの動画を流せるようにしたり、おもちゃで遊べる場所を作ったりするのも重要なポイントです。子供に人気の歯科クリニックでは、デンタルチェアで横になったときに子供がアニメの動画を見られるようにしたり、受診した子供にシールをプレゼントしたり、 子供を惹きつける工夫が随所に施されています。

大人向けの一般歯科で開業する場合、待合室はそれほどの広さは必要ありません。やや高級感のある内装で、プライバシーが保たれた落ち着いた空間を演出しましょう。また矯正歯科やインプラント治療においては、治療方針や方法、器具などをホームページ上でアピールしておくのもおすすめです。
治療だけではなく、カウンセリングなどのサービスもおこなうことで、歯に関して潜在的ニーズを抱えた方の集患にも繋がるでしょう。

また機器に関しては、歯科ユニットが1台あたり500万円前後と高額になるため、開業当初は複数台導入できない可能性があります。歯科ユニットだけではなく、バキュームシステムとエアー・コンプレッサーの導入も必須ですし、多種の歯科治療器具を数十セット組んで準備しておかなければいけません。器具を洗浄・消毒するための、超音波洗浄機や滅菌器、光照射器なども必要です。

他にも歯科の診察に欠かせないものとして、紙コップやエプロン、マスクなどが挙げられます。治療に必要な麻酔薬や、レジンなどの歯科素材も一定量ストックが必要です。

院内の設計においては、ストック物品を保管・管理するスペースと診療の準備をするスペースを患者さんの目につきにくい配置でしっかりと確保することが重要です。

加えて歯科では、放射線検査設備が必須です。歯科専用のデンタルレントゲンではなく、通常のデジタルレントゲンやデジタルパノラマ3Dなどを導入する施設も増えています。初期投資は高額になりますが、最先端の治療をしているという印象を患者さんに与えることもでき、診療所経営の売りにもできるため、資金に余裕がある場合は導入を検討してもよいでしょう。

さらに歯科クリニックでは、イメージ戦略も重要です。例えば小児歯科であれば、スタッフのユニフォームは子供が怖がらないようスクラブやポロシャツを採用し、カラフルな印象にするのもおすすめです。大人向けの一般歯科であれば、清潔感はもちろんデザイン性が高く上質な生地を選ぶことで、上品な雰囲気を演出できます。

いずれにしろターゲットを明確に設定し、そのターゲットに合わせた立地で開院することが大切です。

運転資金

次に、運転資金としては、下記の項目が挙げられます。

歯科クリニック開業に必要な運転資金
  • 従業員給与/福利厚生費
  • 広告宣伝費
  • 薬剤費
  • 家賃

歯科クリニックは保険診療単価が低いため、収益をあげるためには保険診療だけでなく、デンタルケア物品の販売や自費診療を取り入れていく必要があります。

手術をしないのであれば、歯科クリニックの経営において看護師の雇用は不要ですが、歯科助手や歯科衛生士、歯科技工士、窓口スタッフに関しては雇用しておくことで円滑に診察を進められます。複数のスタッフを雇用することで人件費はかかりますが、検討してみるのがよいでしょう。

下は参考までに、厚生労働省「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和3年 実施-」(5)の資料をもとに歯科クリニックのスタッフの平均給与を一覧にしたものです。事業を拡大する際には歯科医師を雇用して患者数を増やすなど、経営に合わせた雇用の調整判断をおこないましょう。

単位:円 平均給与年額+賞与
歯科医師 587万0,528
歯科衛生士 272万9,517
歯科技工士 419万0,738
事務職員 271万1,300

また開業するにあたって初期費用を抑えたい場合は、近隣医療施設、特に総合病院や歯科・口腔外科を専門とする大学病院と連携するのがおすすめです。自分の診療所では診療が困難な場合も近隣の連携医療機関で治療をおこなえるということが患者さんの安心感に繋がるため、結果として集患しやすくなります。

歯科クリニック開業において注意したい競合相手との戦い方

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歯科クリニックは、都内や一部地方都市を中心に乱立が続いています。そのため多くの歯科クリニックは、顧客を奪い合う消耗戦を強いられているといってよいでしょう。このような状況下では、生き残りをかけたさまざまな戦略を各診療所が打ち出しています。

  • 口コミを大切にする
  • 情報の見える化を図る
  • 万全の感染症対策をアピールする

ぜひ参考にしてください。

ポイント1.口コミを大切にする

厚生労働省の「令和2(2020)年受療行動調査(概数)の概況」(6)によると、「家族・知人・友人 の口コミ」をもとに来院する患者さんは全体の56.8%にのぼります。特に子供を持つ親御さんの口コミは非常に重要です。一般歯科では子供に慣れていない歯科医師も多いため、子供の歯科に特化していて安心して任せられる小児歯科は人気が高くなっています。
小児歯科は「フッ素を塗るだけで終わり」というわけではありません。虫歯にならないような生活習慣の指導や、口腔機能発達不全症の治療など、さまざまな方法で他院との差別化を図ることも検討してみてください。

小児科診療所の経営戦略と同様、親御さんが満足できる、安心できる診療所を目指すことで良い口コミが生まれ、集患に繋がります。

ポイント2.情報の見える化を図る

歯科クリニックは競合相手が多いため、「どんな医師が治療するか」「この診療所を選ぶとどのようなメリットがあるか」を上手にアピールする必要があります。インターネット広告だけでなく、新聞の折り込みチラシやポスティング、看板なども使って、さまざまな方法で近隣在住の方に開院をアピールしましょう。児童館や市役所、地域の子育てコミュニティや保育施設、老人ホームなどに宣伝するのも1つの方法です。

厚生労働省の「令和2(2020)年受療行動調査(概数)の概況」(6)によると、医療機関にかかる際に「情報を入手している」人は外来患者全体の80.0%、その内23.5%の人が「医療機関が発信するインターネットの情報」を参考にしています。そのため歯科クリニックではホームページを充実させることも、成功に必要な要素の1つといえるでしょう。

診療所のメインターゲットに合わせたデザインや構成にすることで、集客に繋げることができます。例えば小児歯科であれば、イラストや写真を多くしてなるべく明るいイメージにするのがよいでしょう。矯正歯科であれば、治療経過や治療費などをわかりやすく明示して、他診療所と比較検討しやすいようにする工夫が必要です。

制作会社のアドバイスを受けながら、ターゲットに刺さる効果的なホームページを展開しましょう。

ポイント3.万全の感染症対策をアピールする

コロナ禍ではありますが歯科ではマスクを外して診察を受けるため、何となく院内での感染リスクが高いイメージを持つ患者さんもいるでしょう。そのため万全の感染症対策をおこなっていることをしっかりとアピールしておきましょう。

具体的にはワクチン接種や定期的なPCR検査、換気や消毒などのコロナ対策(スタンダードプリコーション)をおこなっていることをホームページなどで定期的にアピールしていきましょう。

競合相手の多い歯科で他院との差別化を図る経営戦略

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歯科クリニックは競合相手が多く、一般歯科1本での生き残りは現状難しくなってきています。他院と違うポイント、患者さんにもたらすメリットを大きく打ち出して訴求していきましょう。そのために重要視したいのはわかりやすいブランディングです。以下のようなものが例として挙げられます。

「こどもの歯のお医者さん」
「美しい歯並びを実現するデンタル診療所」
「最後まで自分の歯で!シニアにやさしい歯科クリニック」

診療科を明記するだけでなく、ターゲットに合わせたキャッチコピーをつけてわかりやすく強みをアピールしましょう。 競合と同じ強みでブランディングしないよう、エリア内の競合相手は必ず確認しておく必要があります。不要な争いは診療所の体力を削ぐだけで、自分にも競合相手にもメリットがありません。もし強みとして訴求したい内容が競合と被ってしまった場合、競合相手をしっかり分析したうえで他のブランディングで訴求するか、キャッチコピーを変えてターゲットに与えるイメージを全く変えるかを検討する必要があります。

まとめ

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歯科クリニックは競合の数が多いため、いかに差別化できるかどうかが開業成功の鍵となります。ターゲットを明確にして顧客のニーズに合致した歯科クリニックを展開することで、地域に愛される歯科クリニックを開業しましょう。 開業に関して不明点があれば、ぜひフォームからお問い合わせください。

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参考URL
  • 厚生労働省「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」
  • 一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会「JFAコンビニエンスストア統計調査月報 2022年5月度」
  • 厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
  • 厚生労働省「令和(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計 統計表 41」
  • 厚生労働省「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和3年 実施-」
  • 厚生労働省「令和2(2020)年受療行動調査(概数)の概況」

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