開業事例

医療法人ASC あきこ皮フ科クリニック

医療法人ASC あきこ皮フ科クリニックギャラリー
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医療法人ASC あきこ皮フ科クリニックサムネイル
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医療法人ASC あきこ皮フ科クリニック

開業タイプ 新規開業
科目 皮膚科、美容皮膚科
所在地 大分県大分市東大道1-3-1
アクロスプラザ大分駅南2F
TEL TEL:097-554-4111(代表)
097-554-4112(予約専用)
URL https://akikosc.jp

皮膚科や美容皮膚科として、地域に頼られる存在に。
医療人の働き方に、一石を投じるケースとしても。

一般皮膚科と美容皮膚科を2本の柱としてスタートした、あきこ皮フ科クリニック。今後さらなる人口増加が見込まれるJR大分駅前の立地を得て、経営の長期展望に陰りは見あたらない。しかし、そこで、院長の伊藤亜希子氏は、あえて言う。
「収入のため、理想の医療のためなど、開業の目的は人それぞれだと思います。そのなかでも、私は、女性医師が、家族との時間やワークライフバランスを大事にするための自己実現手段としての開業が、もっともっと注目されるべきではないかと考えています」

インタビュー

コロナ禍に翻弄されながらも成長する

2019年7月、JR大分駅「上野の森口」を出てすぐのところにあるアクロスプラザ大分駅南の2階フロア、クリニックモールの一画に伊藤氏が院長を務めるあきこ皮フ科クリニックがオープンした。JR駅近くに238台収容の駐車場を備え、飲食店から100円ショップ、レンタカー店まで多彩な業態が出店する複合商業施設は大分市民にとって親しみやすい憩いのスポットだ。クリニックの立地として、申し分ないと言えるだろう。

「実際に診療を始めてみると、スペックから想像していたほどの人流はありませんでした。施設の2階の奥に位置するクリニックモールは、思いのほか目立たず、ひっそりとしたゾーンになっているのです。
電話で予約して訪れてみるまで、この場所に皮膚科クリニックがあるなんて知らなかったという反応を、何人もの患者さんからいただいています」

クリニックの滑り出しは、そんな人流のまばらさを映したようなものだったとのこと。

医療法人ASC あきこ皮フ科クリニックのイメージ
院長 伊藤 亜希子 氏

「文字どおりゼロからスタートした感覚です。オープン当初は『知名度の低さ』を痛感することがたびたびでした。
いちいちめげてはいられないと自分を鼓舞し、日々の診療に注力しました」

一年を待たずに、その努力は実を結ぶ。クリニック隆盛の王道とも言うべき、クチコミでの初診予約、評判を聞きつけての来院などが徐々に増えていったのだ。しかし、間もなくしてコロナ禍に見舞われた。

「2020年の4月に患者数が一気に減りました。ある程度覚悟はしていましたが、実際にそうなってみると途方に暮れたというのが正直なところです」

「おこもり美容」なる需要。美容皮膚科のすばらしさを実感

しかし、さらに時を経ず、想像だにしなかった現象が輪郭を見せた。

「美容皮膚科の受診者が、じわじわと増えていきました。思いも寄らない動きでした」

緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの発令で、外出を控えるようになった人々が、「ならば、こんな時にしかできないことをやっておこう」と、美容皮膚科に相談するようになったという。伊藤氏はそれを、軽妙さも盛り込んだ「おこもり美容」と表現する。

「美容施術の前後にはなるべく人の目に触れたくないという患者さんの本音と、外出を控えるよう要請され、街の人影が薄くなった状況がかみ合うのは、『言われてみればそうだ』です。『マスクで顔を覆っていても、何の不自然もないのだから助かる』という話を伺って、なるほどとも思いました。
経営的に助かったという思い以上に、患者さんの心理を勉強させてもらった感が強かったですね」

そんな美容皮膚科領域についての感慨を語ってくれた。

「ある患者さんが、シミ治療後、自分の顔を鏡で見て久しぶりにニコッとすると、旦那さんが亡くなってからご自身同様にふさいでいた6歳の娘さんが『ママ、かわいいよ。ママが笑うと私もうれしいよ』と久しぶりに笑ってくれたそうです。やっていてよかったと思いましたね。この領域では、そういうエピソードが山のようにあります。日々感動を重ねています」

そういった経験を経て、今後のビジョンも明確になっている。

「絶対に利益ばかりを求めるようなことはするまいと、肝に銘じています。
長いお付き合いのできる関係を少しずつ増やし、患者さんご自身に合ったビジョンをご提供しつづけたいと考えています」

医療法人ASC あきこ皮フ科クリニックのイメージ2
待合室には個室スペースも。

通勤の途中で、ピアノ稽古の音を聴いていてくれた小児科の先生

近親者に医師はおらず、医師になることを強要されたわけではない身の上。純粋に自分の意志でこの道を選んだ。そして、そのきっかけには、なかなかにすてきなエピソードがあった。

「小さな頃から憧れていた職業は幼稚園の先生だったのですが、ある時、母が『将来は、お医者さんになるのもいいんじゃない』とアドバイスしてくれて、それからは医師志望になりました。ただ、それは母の言いなりになったということではありません。

私にはかかりつけの小児科の先生がいらっしゃいました。とてもお世話になりましたし、大好きなおじさまでもありました。先生はご自宅からクリニックまで歩いて通勤なさっていて、その途中に私の家がありました。で、たまに受診すると、『あの曲の、あのパート、とうとう弾けるようになったね』なんて、声をかけてくださるんです。仕事の行き帰りに、私が稽古しているピアノをしっかりと聴いていてくださっていたんですね。

母からアドバイスされた時、なんの抵抗もなく医師をめざす考えに転換できたのは、明らかにあの先生の存在があったからと思います。今風に言うならば、ロールモデルということでしょうか。あんなすてきな人になれるかもしれないのなら、医師も悪くはない。母に言われなくても、いつか、そんな考えに行き着いていたかもしれませんね」

小児科から皮膚科に志望を変更。
がんとアレルギーがメインの皮膚科医となる

2004年に宮崎大学医学部を卒業し、大分大学医学部臨床研修センターに入職。初期研修2年目に、志望していた小児科の研修に比重を置けたことには満足した。ただ一つ想定外のことがあった。皮膚科の奥深さ、充実感に気づいたのだ。

「目で見て疾患を疑って、手術して病理検査を実施して診断し、治療を実施する。その一連の流れに一人の医師が深く関われる点が、琴線に触れました。

医療法人ASC あきこ皮フ科クリニックのイメージ3

加えて皮膚科に必須な外科の手技を学ぶうち、そのおもしろさに引き込まれましたし、我ながら手先が器用に動くことにも気づきました。それらの事柄をトータルに噛みしめ、自分に問うてみたら、標榜すべきは小児科ではなく皮膚科だとの結論に達しました」

研修をとおして、周囲も伊藤氏の資質を見抜いたらしい。

「研修期間終了を目前にして教授からお誘いを受けたのは、消化器外科、心臓血管外科と皮膚科でした」

以降、皮膚科医局での研鑽を積み、外科の治療技術を大いに伸ばした。2010年代にかけては、がんとアレルギーが活躍の場。日に何時間も、手術室に滞在する毎日だったとのことだ。

倉田荘太郎氏と出会い、美容皮膚科を学ぶ

あきこ皮フ科クリニックは、一般皮膚科とともに自由診療の美容皮膚科を標榜する。2本の柱をもつ強みは、結果的にオープン当初のコロナ禍での経営危機を見事に克服させたことで証明された。がんとアレルギーが主戦場だった皮膚科医が、美容皮膚科を学んだいきさつを聞いてみた。

「まず、2008年に医局の派遣で勤務した、別府医療センターでの経験が大きかったですね。
診察室で、女性の患者さんから美容に関する相談を受けることが多いのに驚きました。私が女性であるため相談しやすかったのでしょうが、皮膚科を受診して、疾患を治すだけでなく、ホクロやシミといったお肌の相談にも乗ってもらいたいという要望がこんなにも多いのかと目を開かせてくれました。当時から私は、美容は皮膚科の一ジャンルであり、興味深い技術も多いなと思っていました。学んでみたいとは考えるのですが、大学医局ではできませんでした」

そんな時、医局からの声がけで、別府にある別府ガーデンヒルクリニックくらた医院(以下、くらた医院)でアルバイトをする機会を得た。同院の院長である倉田荘太郎氏は、十数年にわたり指導的地位で業績を残した医局の功労者。そして、形成外科、美容外科で国内外に名声を届かせる大家であった。

「アルバイトは一般皮膚科での話だったのですが、すぐに倉田先生直々に『美容を学んでみないか』とお声がけをいただきました。我が意を得たりでした」

師を得た伊藤氏は、みるみる知見と技術を吸収していった。

「思っていた以上に皮膚科で身につけた外科の手技の効力がありました。美容皮膚科は、解剖学的基礎をしっかりともち、切り方縫い方に揺るぎない理論をもてなければやり遂げられない領域です。皮膚科医療の延長線上に美容皮膚科が発展したロジカルな体系が次第に把握できていくのも、学ぶ者として醍醐味にあふれていました」

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2015年、伊藤氏は倉田氏の招聘を受けて、医局を辞し、くらた医院の常勤医となる道を選んだ。師の側でそれまで以上に学び、実践していった。

出産、子育ての局面で、独立へのイメージが固まる

開業を決意するきかっけは二つあった。一つは、医師としての次のステップを考えてのこと。

「倉田先生には信任をいただき、徐々に診察の多くを任せていただけるようになりました。しかし、『私なら、こうする。こうしてみたい』といった次々と湧く探究心を満たすために、いつか独立するだろうという予感は自然に芽生えたように思います」

もう一つのきっかけは子育てだった。

「2018年に一人目の子どもを産んだ時、保育園探しに苦労して、かなり疲れました。子どもを育てながらどんなふうに仕事を続けたらいいのだろうと悩み、考えた末に、『自分のクリニックを運営し、施設内で子育てする』やり方に至ったのです」

働き方に共感し、入職を希望してくれた女性医師

子育て、働き方といった視点は、開業後にも伊藤氏の中で新鮮なファクターでありつづけている。

「実は昨年、福岡大学医学部出身の結婚間もない女性医師から『そちらに入職できないか』という打診をいただきました。大学病院でも市中病院でも喜んで受け入れてくれるような実力のある方なのですが、私がこのクリニックをオープンし、子育てをしながら診療を展開しているところに共感してくださったのです。働き方に関する考えを話し合い、当クリニックの常勤医になっていただきました。

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明るい雰囲気の受付

働き方に関して大仰に発言するつもりはなかったし、これからもありませんが、そういった共感が得られたことには感慨深いものがありました」

ことは、常勤医入職にとどまらない。

現在、伊藤氏の右腕的なポジションで診療の現場を活気づけている女性看護師や事務スタッフもみんな、実は、子育て中なのだそうだ。

「私もスタッフも含め、社会的な仕事人である前に一人の人間であり、みんな家庭をかかえています。『困った時はお互い様』の精神で、長い目で見て、みんなが無理なく仕事を続けていける職場でありたいと思っています」

クリニックのスタッフルームは防音になっていて、夏休みなど長期休暇になるとスタッフの子どもたちが遊んだり勉強したりと自由に使っているとのこと。熱を出して保育園を早退する際も、早くお子さんを連れて帰りやすいように、ほかの年配のスタッフがカバーしてくれる。

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落ち着いたトーンの施術室

「自然のなりゆきに任せる部分が大きいとは思いますが、子どもは皆で育てるという古きよき村のような、働きやすいクリニックになってくれたらいいなと願っています」

「医師の働き方」は、昨今非常に耳目を集めるテーマだ。多くの関係者が問題意識を共有し、あるべき姿の議論は日々活発になっている。あきこ皮フ科クリニックで展開される働き方への模索が、議論に一石を投じる日がくるかもしれない。

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