開業事例

岩本内科医院

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岩本内科医院

開業タイプ 継承開業
科目 内科・消化器外科
所在地 〒802-0832 福岡県北九州市小倉南区下石田1-2-8
TEL TEL:093-961-4118
URL http://iwamoto-clinic.jp/

技術を誇りながら、患者さんの心に寄り添う。
肝臓がん治療の名声と地域医療への情熱。

北九州市小倉南区に所在する岩本内科医院は先代理事長・院長の岩本昭三氏が1990年6月に開設した、19床を有するクリニックだ。
「小さくても、ベストの医療を」を合い言葉に、きちんとした検査と正確な診断・治療が完結できる医院として活動を展開。地域に貢献する内科医院としての実績を重ねつつ、同時に、肝臓がんで独自の高度技術を持つ消化器内科が全国的名声を獲得した。
2代目理事長である岩本英希氏に、同院の今後についてお話を伺った。

インタビュー

1990年のスタート当初から「ミニ病院」を標榜し、地域への貢献をめざす

岩本氏は、2014年に父の遺志を継いで同院理事長となった。
「初代理事長である父は、1970年代後半に医学部を卒業した医師としては極めてまれな、一度も大学医局に属したことのない臨床医でした。 熊本大学医学部を卒業するとすぐに北九州エリアの基幹病院で研鑽する日々を過ごし、『地域医療に貢献できる医師になる』と邁進。その途上で、専門分野としての消化器外科、とくに肝臓がん治療の魅力に出会いました」

そして、1990年6月に開業。肝細胞がんの患者さんを50名かかえてのスタートだったというから、研鑽の成果は大きかったと察する。しかも、開設したのは有床であるのみならず、当初からCT、血管撮影装置を備え、透視台、エコー、内視鏡、生化学分析器も持ったハイスペックなクリニック。運営・経営上のリスクに臆することなく万全の体制をつくり、「ミニ病院」を自称して出発したところに、理想の医療具現への意気込みを感じさせる。

開設者が標榜した地域医療と肝臓がん治療の2本柱は、その後連綿と同院に受け継がれ、代替わりを経た現在も医師、看護師のみならず全スタッフが精神性を一つにしてぶれることがない。
「私たちは、命を任せてもらい、全身全霊でその負託にこたえ、患者さんの長生きのお手伝いをします。先代の口癖であった『命を背負う』のスピリットが、当院の気風として根づいているのです」

岩本内科医院のイメージ
理事長の岩本英希氏(右)と院長の山口泰三氏(左)。

門脈動脈同時塞栓療法で高い治療成績を残し、志をかたちにしていく

岩本昭三氏が卒後の研鑽をした1980年~90年代は、がん治療に大きな進歩が見られた時代だ。とくに肝臓がん分野では血管造影カテーテルの技術の進歩を背景にエタノール注入治療が確立したり、ラジオ波焼灼療法が出現したりと、「内科医ががん治療に貢献できる」との機運が高まった。
「そんな時代に父は、のちに『肝臓がんの権威』と称されることになる奥田邦雄先生(故人・元千葉大学医学部第一内科教授)の薫陶を受ける幸運に恵まれました。そして、カテーテル技術を駆使した肝動脈塞栓術(TACE)を修得したのです」

肝動脈塞栓術は血管造影とカテーテルの技術を組み合わせ、がん細胞の動脈から抗がん剤や塞栓物質を投与する治療法。がんが動脈から栄養する仕組みを利用し、動脈から薬剤を流し込み、動脈を塞いで栄養を断って死滅させる。これだけでも高い治療成績が望めるが、昭三氏はさらに技術を発展させた。それが、門脈動脈同時塞栓療法(AS= Angiographic Subsegmentectomy)だ。
「肝動脈塞栓術では肝動脈のみを塞栓しますから門脈血が逆流したり、がんが小さいうちは門脈域が残るリスクがあります。それに対し、門脈まで注視することでさらに治療効果を高めたのが門脈動脈同時塞栓療法です。当院ではさらに、アンギオCTを使った精細な血管造影を加味し、末梢の門脈にまで薬剤が溜まるのを確認して高い効果を獲得しました」

岩本内科医院のイメージ2
院内にアンギオ(血管造影)CT装置を備えており、高レベルの腹部の疾患治療にあたることができる。

2009年1月には治療成績の報告が雑誌『Cancer』に掲載され、同院の名が広く知られるようになる。市井の、しかも病院ではなくクリニックが肝臓がん領域で高い治療成績を示した事実が、病で絶望の淵をのぞいた患者さんたちの間で口伝されていったのである。

開設者急逝の難局を、愛弟子と手を携えて乗り切る

今回、取材者はJR小倉駅から自動車で15分ほどの同院までをタクシーで移動した。運転手に同院の評判を尋ねてみると――
「小倉駅からこの距離にあるクリニックで、院名を聞いただけで行けるのはここくらいだと思いますよ。駅前で客待ちしているドライバーは、誰でも知っていると思います」
つまりは電車を乗り継ぎ、遠方から訪れる患者さんが多いということだ。運転手氏はさらに、地元の人々が「肝臓を患ったら岩本内科医院」と強く頼っているとも言っていた。ちなみに帰りのタクシーの運転手は、身内が同院で肝臓がんを治してもらえたのだと、誇らしげに語っていた。

県外からも肝臓がん治療を願う患者さんが集まるようになった順風満帆も、試練の時がなかったわけではない。何といっても最大の難局は、2014年だっただろう。一心に医療に専念する岩本昭三氏が急逝したのだ。
「学会出席のために訪れていたシカゴで体調不良となり緊急帰国し、受診したところAML(急性骨髄性白血病)と判明。しかも、診断確定からたった2日で帰らぬ人になってしまいました。留学中だった私はスウェーデンで訃報を受け取ったのですが、あ然、ぼう然としか表現できない状況でした」

不幸中の幸いと言えば、氏の愛弟子である山口泰三氏が腕を磨き、副院長を務めるに足るまで成長していたことだろう。急いで帰国した岩本氏と考えをすり合わせ、速やかに新理事長/岩本英希、新院長/山口泰三の新体制にこぎ着けた。大きな混乱もなかったため、患者利益を損なうことなく同院の第2フェーズに移行したのであった。

岩本内科医院のイメージ3

二足のわらじを履く理事長は、肝臓がん医療の現在と未来を見つめている

現在、岩本氏は岩本内科医院理事長と久留米大学医学部消化器内科助教とを同時に務めている。先代の残した門脈動脈同時塞栓療法を山口院長とともにさらに発展させ、患者さんを救いながら、大学では肝臓がん領域で医局が確立した肝動注化学療法(NewFP療法)の担い手として活躍する。
「肝動注化学療法ではカテーテル治療をさらに進化させ、動脈に管を埋め込みがん細胞と闘います。『いつでも流せる抗がん剤治療』と言えるでしょう。高い治療効果は実証されていますが、求められる技術のハードルが高く、今のところ実施できる医療機関に限りがあります」

岩本氏は岩本内科医院においても肝動注化学療法の実施例を増やしつつある。将来的に同院のがん医療を支えるもう一つの柱に育つ可能性を見すえている。父がひらいた道を、新しいツールを携えてさらに進む姿が印象的だ。
「心から尊敬する父は、アカデミックな世界では一匹狼。孤立していたと言ってもいいでしょう。感謝するのは、そんな背中をいつもしっかりとこちらに向けていてくれたことです。私の卒後には学会にも同行させてくれ、孤軍奮闘する姿を包み隠すことなく見せました。矜持を示してくれたと思っています。 そして、私が選んだ道が現在です。この選択に後悔はありませんし、誇りも感じます。なにより、大きな充実感があります。また、二足のわらじを許してくれる久留米大学の度量の広さには、心から感謝しています」

EBMが難治症例を切り捨てる言い訳であってはならないだから、PBMの視点を大切にする

そんな岩本氏が、講演などの際に提唱する独自の視点がある。それは、PatientbasedMedicine(PBM)。
「日本のがん医療は標準医療によって下支えされており、その指標となるのがガイドラインであり、ガイドラインの裏付けとなるのがEvidencebasedMedicine(EBM)です。 ただ、この理念、価値観だけでは抜け落ちてしまいがちな点があります。それが、プロフェッショナルの技量です。プロの技量なくしておこなえない医療は標準医療とされず、全体の平均値として認められたEBMで救えない場合は仕方ないともなりかねない。

〝平均的な〞症例ではない症状の患者さんにとって、それはとても残酷なことと言ってもいいでしょう。自分は生きたいのだ、自分のがんを治してくれる方法はないのかという叫びを、簡単に切り捨てることは、少なくとも私はできません。だから、PBMを提唱するのです。 患者さんは自分を治す治療法を探し求め、選ぶ権利をもっていますし、それが実行できる時代になりつつあるのです。そんな動きが広まり、定着した頃には、PBMという概念も普通に語られるようになるのではないでしょうか」

岩本内科医院のイメージ4

他院で対応困難だった肝臓がんの患者さんを数多く受け入れ、救ってきた医師ならではの感慨だろう。同時に、PBMを実施できる技量をもった者にしかめざせない高みについて語っているとも言える。

技術だけでも精神性だけでもいけない両方を備えた医療人でいたい

同院のホームページでは、メールで医療相談ができる。その相談処理の仕事量を考えると、勇気あるサイトに思えた。サイト運営に、どれほどの予算や労力を割いているのだろうか。
「メールは当院の事務職が読み、必要に応じて私や院長に返信内容の相談をする手順になっています。それほど膨大な予算を投じた運営ではありませんよ。ネットのない時代からおこなっていた電話での相談応対の延長線上です。 患者さんから質問や相談があれば、できる者が率先して対応する。私はそんな感覚ですが、大切なのは当院の関係者が全員、同じ感覚をもっていることではないでしょうか」

感覚の共有とのこたえを得て、岩本内科医院とはそういうクリニックなのだと腹に落ちた気がした。そして、岩本理事長の以下のコメントにも、同じ感触をもったのだった。
「医療において、もっとも大切なのは心だと思います。患者さんの心にどれだけ寄り添えるかに尽きます。ただ、心に寄り添うだけでよいということではありません。確かな医療技術と知見が必須です。それを携えているからこそ、寄り添う資格をもてるのです。 心への興味と技術への情熱が両輪となってこそ、微力ながら地域に貢献できるんです」

先進的ながん医療と地域医療――矛盾を生みかねない2本の柱を成立させるクリニックが、心を込めて育んだ独特な医療世界に触れた気がした。

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ナースステーション
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診察室
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処置室。ベッドは19床を有している。

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