1. JA長野厚生連 佐久総合病院 ― 長野から世界へ! 先駆的な地域医療をモデルに国際保健医療に貢献 ― ~後編~

社会貢献ジャーナル

JA長野厚生連 佐久総合病院 ― 長野から世界へ!
先駆的な地域医療をモデルに国際保健医療に貢献 ― ~後編~

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貴重な海外渡航者外来の誕生

現在、佐久総合病院国際保健医療科の中心的な活動となっているのが、2015年にスタートした「海外渡航者外来」だ。


長野県内では貴重な海外渡航者外来

近年、長野県からも海外に従業員や職員を派遣する企業・団体が増えており、海外渡航者向けの感染症に対する予防接種のニーズが増えていたことから、国際保健医療科を兼任する小児科の坂本昌彦医師が中心となって開設したものだ。

長野県内では県立信州医療センター(旧 県立須坂病院)に次ぎ2番目であるものの、狂犬病や腸チフスなど、日本では承認されていない海外からの輸入ワクチンを扱う県内初の海外渡航外来となった。電話による完全予約制で週1回(金曜日)の外来業務を行っている。

受診者数の推移をみると、2015年は初診65人、延べ134人、2016年は初診84人、延べ193人となっている。渡航目的では、仕事やそれに帯同する家族が半数以上を占め、留学、観光と続く。また渡航先はアジア圏が中心で、渡航期間は3年以上の人が3割以上を占めており、仕事目的で現地に長期間駐在する人が中心となっている。

さまざまなニーズに応える国際医療支援フレーズ集

また、坂本医師は、ネパールのカトマンズからバスで7時間ほど行ったヒマラヤの高峰を望む診療所で1年間ボランティアとして働いた経験を持つ。そこから生まれたのが「国際医療支援フレーズ集」だ。

「患者さんや家族の方とやりとりをおこなうのですが、診察室で交わされる会話はある程度決まったものが多い。言葉が通じないので通訳を雇っていたのですが、その方が優秀だったこともあり、その日の会話をすべてメモとして残してくれたのです。1年分のメモをまとめた医療用の指さしフレーズ集がもとになっています」


国際医療支援フレーズ集の記者会見で答える坂本医師

3か国語版が用意された国際医療支援フレーズ集。PDFデータが佐久総合病院のWebサイトなどからダウンロードできる

2015年に起きたネパールの大地震の際に、日本から国際緊急援助隊が派遣されたが、英語が通じない地域ではネパール語が分からずこのフレーズ集が役に立ったという。そこでJICA駒ケ根青年海外協力隊訓練所と協力して、災害時の国際医療支援などに活用してもらうため、ネパール語のほか、ベンガル語(バングラデシュ)、シンハラ語(スリランカ)の3カ国語の「国際医療支援フレーズ集」を作成。医療に関する最低限の患者、医師双方のフレーズに現地語と読み方(カタカナ)、日本語訳を付け、言葉がわからなくても理解しやすいイラスト入りだ。

「当初は災害医療チーム向けに作ったものですが、公開後は日本で働く外国人労働者をサポートする工場の保健関係者から問い合わせがあったり、海外の日本人学校の関係者の方から、『現地では必ずしも英語が通じる医療機関ばかりではないので、助かる』と言われました」と坂本医師は手応えを語る。

「国際貢献というのは現地に赴くことがすべてではありません。私も現在は家の事情もあり、海外には行けないのですが、それでもできることがある。それが、海外渡航外来であり、このフレーズ集なのです。海外で活動する人をバックアップする後方支援も大切な国際貢献の形だと思うのです」と坂本医師は胸を張る。

地方の一病院がおこなう国際保健医療活動の意義

「日本の都道府県のうち、長野県は男女とも長寿トップですが、なかでも佐久市はトップ20の市町村に男女とも入ってる唯一の市です。若月先生が率先してこの地域で取り組んできたことが少しでも影響を与えているのであれば、それを海外にも広げていくことで、プライマリ・ヘルスケアの普及になると考えています。地方の一病院の活動ではありますが、昭和20年から地道に培ってきたことのなかに、海外に共通する課題がたくさんあるのです」と北澤医師は、同院の国際保健医療活動の意義を語る。

その一例として、北澤医師は次のような事例を紹介してくれた。 「1994年に私がパキスタンの世界三大長寿村の一つといわれるフンザ地域に行ったときに、各地の村々からヘルスワーカーさんたちが月に1回集まる会議に立ち会ったことがありました。そこでの一番のトピックスが、牛を家の中で飼育していいかどうかという問題。かつて長野県でも議論された問題であり、農家の健康調査をした若月先生は衛生面から『牛は外で飼育すべき』と示したものでした」

今、日本が直面している高齢化や少子化の問題は、将来世界中の国々で起こりうる問題かもしれない。「そんなとき、佐久のお年寄りたちが元気に生き生きと老後を過ごして天寿を全うする地域にできれば、世界に誇る模範地域にもなるのではないかと考えています。プライマリというと日本では『初歩的な』とか『基礎の』と訳されることが多いのですが、家庭医学や公衆衛生が発達したイギリスでは、『重要な』『大切な』という意味を持ちます。われわれもそのような姿勢で、プライマリ・ヘルスケアを普及させていきたいですね」と北澤医師は述べる。

活性化と良好なサイクルを生み出す環境整備に向けて


現職派遣制度を利用してパラグアイに赴いた看護師の菊池梨奈さん(写真左から2番目)

菊池さんの現地での活動の様子

佐久総合病院では、病院を退職することなくJICAなどでの派遣で海外保健医療活動に従事でき、その後復職できる「職員現職派遣制度」をスタートさせた。

現在、1名の看護師がこの制度を利用して、南米のパラグアイで医療活動に従事している。

「この制度が生まれた背景には、これまで病院を辞めて海外に行き、帰国後再就職したスタッフがいたことがあります。そうしたステップを踏まずに現職のまま海外に行き、帰国後に海外での経験をこの地域の医療に還元してもらえれば、よりよいサイクルが生まれると思います」と、国際保健医療のさらなる環境整備を図っていきたいと北澤医師は今後の展望を語ってくれた。

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