1. 特定非営利活動法人Malaria No More Japan ~後編~

社会貢献ジャーナル

特定非営利活動法人Malaria No More Japan―現地支援、政策提言、
啓発活動を通じて世界からマラリアの撲滅をめざす― ~後編~

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現地で目の当たりにしたマラリア被害が人生を変えた

Malaria No More Japanは、米国本部から日本に支部設立の呼びかけがきっかけとなってスタートしたものだ。その呼びかけ先が、マラリア予防に効果を持つ蚊帳を製造していた住友化学だった。

住友化学の蚊帳事業は2003年にスタートしている。蚊帳の文化はもともとアジアのものであり、当初はアジアで蚊帳を製造していたが、当時の経営陣の判断で、マラリア被害の一番大きいアフリカで現地生産したほうが効率がいいという判断がなされた。産業の少ない現地において雇用を生み出すことにもなり、それ自体が社会貢献になるということで、タンザニアに拠点が置かれることになった。

そこで当時蚊帳事業部を率いていた水野氏が、現地に派遣されたのだ。

水野氏の著書『人生の折り返し地点で、僕は少しだけ世界を変えたいと思った。第2の人生 マラリアに挑む』(英治出版)水野氏の著書『人生の折り返し地点で、僕は少しだけ世界を変えたいと思った。第2の人生 マラリアに挑む』(英治出版)

「住友化学が、現地企業とのジョイントベンチャーを設立したのが2005年でした。その2年後の2007年に現地JV運営の日本側責任者を命ぜられ、2012年まで現地の日本側トップと住友化学の事業部長を兼務する形で働いていたのです。最初の3年間はアフリカ各地と現地タンザニアにいるほうが多かったのですが、後半は日本とアフリカを行き来していましたね」

定年間近の時期にNPO設立の呼びかけがあり、水野氏はその立ち上げに関わる。そのまま専務理事と事務局長に就任し、今日まで精力的に活動を続けている。

「現地の悲惨な状況を目の当たりにして、それから人生が変わったといってもいい。そのままだったら普通のビジネスマンで終わっていたと思いますが、タンザニアでの蚊帳事業がある程度起動に乗って、NPO設立の話をいただいたときには、もうほかの仕事をやる気は起きなかったですね。マラリアをなんとかしたいという思いで、現在に至っている」と、水野氏は心中を打ち明ける。

なお、ビジネスの現場からマラリア撲滅に転身した事情については、『人生の折り返し地点で、僕は少しだけ世界を変えたいと思った。第2の人生 マラリアに挑む』という水野氏の著書に詳しく記されている。

そしてMNMJは、水野氏の出身母体である住友化学と石油メジャー最大手のエクソン・モービルの2社による協賛で2012年10月26日に設立される。その後、住友グループの企業をはじめ、アフリカ進出を視野に入れた企業などのスポンサーも増え、3500万円規模の活動予算となっている。

「世界最小最強の殺人兵器」に込められた思い

水野氏の著書『人生の折り返し地点で、僕は少しだけ世界を変えたいと思った。第2の人生 マラリアに挑む』(英治出版)水野氏の著書『人生の折り返し地点で、僕は少しだけ世界を変えたいと思った。第2の人生 マラリアに挑む』(英治出版)

MNMJは、マラリアに特化したユニークな存在である。水野氏に活動のモチベーションについて伺うと、「現地での支援活動、政策提言、普及啓蒙活動と、マラリア撲滅に向けて網羅的に活動している団体はほかにはなく、少しずつですが成果も出ていると手応えを感じています。これまで何もなかったところに、いろいろな芽が出始めていて、それが一番のやりがいにつながっています」という答えが返ってきた。

「なぜ私がここまで本気で関わっているかというと、やはりアフリカでは大変なことが起きているからなんです。アフリカの人口10億人に対して、マラリアの感染者は2億人。毎年5人に1人は感染しており、ほとんどの人が一生の間に何回か感染している。栄養が行き届いていない子どもたちは、マラリアが原因で亡くなってしまうのです」と水野氏が言うほど、アフリカで実際に起きているマラリアの現実は、非常に深刻な問題である。ただ、MNMJでは普及啓発活動においても、いかにもお涙頂戴的なストーリーで伝える方法は採らず、より多くの人々に伝わるよう、明るく、正しく知ってもらうことを心がけているという。

その一例が、「世界最小最強の殺人兵器」というキャッチフレーズだ。これは人に危害を加え、死に追いやる動物は、獰猛なライオンや毒蛇ではなく、実は蚊であることを表したものだ。マラリアをはじめ、デング熱やジカ熱など、蚊が媒介する感染症によって世界で年間約75万人が亡くなっている事実を伝えるのにふさわしいフレーズとなっている。

設立5周年を迎え、新たなステージへ

蚊帳を使う女性 © Malaria No More Japan/Kuni Takahashi蚊帳を使う女性
© Malaria No More Japan/Kuni Takahashi

「2017年、MNMJは設立5周年を迎えます。これまでやってきたことを踏まえて、新たなステージに入ろうということで、日本の企業が持っているマラリア撲滅に役立つ技術を海外に発信したり、具体的な貢献活動に移していくことも視野に入れていきたい」と、水野氏は抱負を語る。

その一端として、4月25日の「世界マラリアデー」、8月20日の「世界モスキートデー」、そして10月26日のMNMJ設立記念日に向けて、「Zero Malaria 2030」という一連のキャンペーンを続けていくという。これは、2030年までにはマラリアをアジアから一掃しようという目標を掲げたキャンペーンだ。

また、日経新聞による「日経アジア感染症会議」が毎年で開催されているが、2017年3月に沖縄で開催された際には、議題のひとつにマラリアが選ばれ、マラリアに関するコンソーシアム設立に向けての動きもあったという。会議に参加した産官学の関係者らが一体となり、具体的な取り組みが始まることにも期待しているという。

「私たちの持っている力で社会的インパクトを与え、政府や企業を巻き込んで、マラリア撲滅のムーブメントを生み出していきたいですね。そうした機運の高まりによって、近い将来人々の間にマラリアへの知識や関心が浸透していることを願っています」と水野氏は締めくくってくれた。

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