1. 特定非営利活動法人Malaria No More Japan ~前編~

社会貢献ジャーナル

特定非営利活動法人Malaria No More Japan―現地支援、政策提言、
啓発活動を通じて世界からマラリアの撲滅をめざす― ~前編~

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アフリカの小さな子どもたちの命を奪うマラリア

Malaria No More Japanの専務理事および事務局長を務める水野達男氏Malaria No More Japanの専務理事および事務局長を務める水野達男氏

マラリアとは、熱帯・亜熱帯地域に広く分布する感染症の1つで、ハマダラカを媒介してマラリア原虫(寄生虫の一種)に感染することによって起こる熱病である。世界の総人口の約半分にあたる33億人が感染リスクの下にあり、世界保健機関(WHO)によれば、1年間のマラリア発症件数は2億1400万人、死亡者数は42万9000人と推計されている。およそ2分に1人の子どもがマラリアで命を落としているといわれ、その多くは、アフリカに住む5歳以下の子どもたちである。

「2000年当時、マラリア発症件数は約3億5000万人、死亡者数は100万人を超えていました。発症件数、死亡者数ともこの十数年で約6割減少していますが、まだこれだけの死亡者がいるのも事実です」と、特定非営利活動法人Malaria No More Japan(MNMJ)の専務理事兼事務局長である水野達男氏はマラリアの現状について語る。

MNMJはアメリカに本部を置く「Malaria No More」の日本支部として2012年に設立され、日本で唯一のマラリア撲滅に特化したNPO法人である。イギリスやオランダの支部とともに国際NGOとして、マラリアのない世界をめざして活動をおこなっている団体だ。

防虫効果の高い蚊帳を現地で配布

タンザニアで蚊帳のパッケージを現地の人々に配布しているようすタンザニアで蚊帳のパッケージを現地の人々に配布しているようす
迅速診断検査キットと抗マラリア剤迅速診断検査キットと抗マラリア剤
インドネシアでは、顕微鏡によるマラリア検査のトレーニングも開催インドネシアでは、顕微鏡によるマラリア検査のトレーニングも開催

MNMJの活動内容を大きく分けると、マラリア多発地帯での現地支援活動、マラリアについての政策提言・調査研究、そして普及啓発活動の3本柱となる。

まず、現地での支援活動では、予防が中心となる。とはいっても、マラリア予防に有効なワクチンはまだ開発されていないため、蚊にさされないように日本で開発された防虫剤処理を施した蚊帳の配布が中心となっている。

これまでタンザニア、ザンビア、さらに西アフリカのセネガルなどで、現地のNGOなどと連携し、蚊帳のほか、血液を1滴垂らすだけでマラリアに感染している否かがわかる迅速診断検査キット、その検査キットでマラリアの陽性反応が出た場合に服用するアルテミシニン系の抗マラリア剤をセットにして配布しているという。

「日本円にすると、蚊帳は現物500円+運搬・教育費500円の合わせて1000円、検査キットが60円、抗マラリア剤は40円で合わせても100円程度のものです。それだけで、1人の大切な命が救えるのです」と水野氏は強調する。

また、アジアでは2014年度からインドネシアでの活動もスタートした。インドネシアの東ヌサ・トウンガラ州のフローレス島に位置するシッカ県を中心に、マラリア制圧のための早期発見および治療体制の確立を図ろうと、正確なマラリア診断に欠かせない顕微鏡の寄贈や、検査技術者の養成を支援している。

MNMJでは前述の蚊帳を年間2000~4000張ほどを配布しているが、「われわれの支援は大海の一滴しかすぎません」と水野氏。現地での支援活動だけでは到底世界からマラリアを撲滅することが困難であることは承知のうえであるという。

そこでMNMJが重視しているのが、政策提言活動だ。マラリア対策を実施するためには、現地の情報や世界各地の援助動向を知る必要がある。MNMJでは継続的な情報収集によって、ノウハウを蓄積。国際NGOとしての人脈やネットワークを駆使して、日本政府に対する政策提言や、企業に対するCSR施策の提案などをおこなっている。

その中で大きな位置を占めているのが、エイズ、結核、マラリアの三大感染症に対する支援金を集めている「グローバルファンド」である。日本政府もこの基金に対して、2017年から19年かけて新たに8億ドルの資金を拠出することを表明している巨大プロジェクトである。これまでMNMJも、政府に対して拠出金の増額や維持を訴えてきたという。

もう1つはJICAを通じて、国ごとにマラリア対策の資金援助をおこなう方法である。「グローバルファンド」がマルチラテラル(多国間援助)なのに対し、こちらは直接該当国との交渉の中で施策が決まるバイラテラル(二国間援助)のスキームとなる。

現在、途上国に対してはインフラ整備や教育、環境面などの援助が増加する傾向にあり、マラリア関連の援助はかなり減少傾向にあると、水野氏は課題を指摘する。そこで、マラリア関連の支援を増やすよう地道なロビー活動をおこなっているという。

マラリアを知ってもらうためのユニークな啓発活動

マラリアはかつて日本にも存在した感染症だったが、衛生・医療環境の改善によって本土では昭和31年に、そして最後まで残っていた沖縄でも昭和37年には感染がなくなり、日本ではマラリアが撲滅した。

シールを気づかれないように通行人に貼る「FEEL MALALIA PROMOTION」シールを気づかれないように通行人に貼る「FEEL MALALIA PROMOTION」
「FEEL MALALIA PROMOTION」には、オスマン・サンコン氏も参加「FEEL MALALIA PROMOTION」には、オスマン・サンコン氏も参加
2016年の第3回「ゼロ・マラリア賞」は、琉球大学医学部保健学科国際地域保健学教室教授・小林潤氏に贈られた2016年の第3回「ゼロ・マラリア賞」は、琉球大学医学部保健学科国際地域保健学教室教授・小林潤氏に贈られた

今ではマラリアは「はるか遠い国のもの」となってしまったことから、マラリア制圧のための支援活動や調査研究・政策提言を推進していくには、マラリアに対する正しい知識や、支援の必要性を、多くの人に知ってもらうことが欠かせないという。

そこでMMNJでは、スポーツや音楽イベントの開催、公共交通機関でのポスター掲示といった方法で、より多くの人々が楽しみながらマラリアを知ってもらう機会を提供している。

たとえば、2014年から8月20日の「世界モスキートデー」には、マラリア蚊に模したステッカーを通行人に気づかれないようにそっと貼ることでマラリアを体感する「FEEL MALALIA PROMOTION」を各都市で実施。ギニア出身のタレント、オスマン・サンコン氏もこのイベントに参加し、マラリアの恐怖を呼びかけてくれた。

また、同じく2014年から4月25日の「世界マラリアデー」には、毎回チャリティイベントを開催。ケニアの楽器ニャティを演奏する唯一の日本人女性アーティスト、アニャンゴ氏を招いてのミニライブは、現地で楽器の修業中マラリアにかかったご本人の経験談が披露されるなど楽しいイベントになったという。

さらに、マラリアの撲滅に貢献した人物・団体を表彰する「ゼロ・マラリア賞」も発表。さまざまな方向から、マラリアに対する普及啓発活動をおこなっている。

後編では、Malaria No More Japan設立の経緯や、今後の活動などについてご紹介する。

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