1. 特定非営利活動法人・歯科医学教育国際支援機構 ~後編~

社会貢献ジャーナル

特定非営利活動法人・歯科医学教育国際支援機構
― 途上国におけるサステナブルな医療貢献をめざして、歯学教育を支援 ― ~後編~

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信頼関係の構築と対価を求めない姿勢

ラオスのヘルス・サイエンス大学で指導している大学院生たちから誕生日を祝ってもらうラオスのヘルス・サイエンス大学で指導している大学院生たちから誕生日を祝ってもらう
ラオス・カムワン県で大学院生を指導ラオス・カムワン県で大学院生を指導
ラオス南部の少数民族の村での医療活動ラオス南部の少数民族の村での医療活動
東南アジア以外にも、キューバのチェ・ゲバラ大学で歯科医学教育支援をおこなった東南アジア以外にも、キューバのチェ・ゲバラ大学で歯科医学教育支援をおこなった

海外で人を育てるのには、専門知識が必要なことはもちろん、効率的に伝えられるコミュニケーションツールとしての語学力が求められる。そしてなにより重要なのは、現地の人びととの信頼関係が築けるかどうかであるという。

「カンボジアはアンコール王朝が滅びてから、中国と同化していきます。そうした歴史的背景もあり、中国の文化大革命のネガティブな面をコピーペーストしたのがポル・ポト率いるクメール・ルージュによる大虐殺だったのです。一方、ラオスは海に面しておらず、5カ国と国境を接しているため、いつも地勢的なリスクを抱えていました。52もの少数民族がお互いを尊重しながら暮らしており、非常に優しく穏やかな国民性で、カンボジアとは対照的です。こうした支援先の歴史的背景や国民性を知っておくことは、信頼関係を築くうえでとても重要です」と、宮田理事長は強調する。

一方、メキシコでの支援活動は事情が異なるという。
「なぜならメキシコは、先に述べたカテゴリーでいうと“窮状にあえぐ途上国”ではないからです。メキシコへの支援は、明海大学に留学していた女性歯科医師が、私の活動に感化されて、メキシコで過疎地医療がしたいと申し出たことがきっかけでした。それまで培ったノウハウをいかしてメキシコ、キューバで指導したのです。メキシコでの活動は、いってみれば“支店”のようなもの。途上国の若者に歯科医学を理解してもらおうと作ったツールやマニュアル類が、メキシコでも活用されるようになっています」

海外での支援活動を成功させるポイントは、「対価や見返りを求めないことです。あたり前のようですが、海外での支援活動においてはこの姿勢を貫くことは意外と難しいのです。お隣の大国はすべての支援に対価を求め、国道一本の整備のために、その対価として自然公園内のジャングルが消えていくという実態をカンボジアやラオスで散々見てきました。わが国の支援はそういった対価を求めないことから世界的に高く評価されています」

功績が認められ歯学界初のヘルシー・ソサエティ賞を受賞

カンボジア、ヘルス・サイエンス大学にて大学院生の卒業式。トータル24名の専門医を育てたカンボジア、ヘルス・サイエンス大学にて大学院生の卒業式。トータル24名の専門医を育てた

宮田理事長らが人材育成をするうえで工夫していることがあるという。
「すべての人材をわれわれが育てるのには限界があります。まずはモチベーションや意識の高い学生を10名くらい集めるのです。彼らをまず教育して、彼らがさらに若手を育成するという方法を取ったのです。これを“ネズミ講式教育法”と名付けました(笑)。本来教育とは、育てられた人が育てる側に回るようになって初めて成功したと言えるのではないでしょうか。そうすれば確実に歯科教育が根付くと思うのです」

カンボジア政府から認証を受けた歯周病専門医を24人育てた実績を持つほか、指導を受けた歯科医師が過疎地での医療ボランティアに従事するようになっており、そのグループが現在では何十もあるという。また、ラオスでも将来指導医となるべき大学院生(修士課程)への指導を開始するなど、「各地で植えた種が確実に成長し、根付いてきた」と、宮田理事長は感慨深げに語る。

こうした功績が認められ、宮田理事長は2016年「第12回ヘルシー・ソサエティ賞」のボランティア部門(国際)を歯科界で初めて受賞した。この賞は、「よりよい明日に向け、健全な社会と地域社会の幸せを願い、国民の生活の質(QOL)の向上に貢献した人びとを称える」として、日本看護協会とジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループによって創設されたものだ。

疫学調査や歯科看護師育成にも携わる

2015年9月、ラオス・ビエンチャンにて日本の音楽家を率いて「日本-ラオス国交回復60周年記念事業」でコンサートを開催。宮田理事長もチェロで参加2015年9月、ラオス・ビエンチャンにて日本の音楽家を率いて「日本-ラオス国交回復60周年記念事業」でコンサートを開催。宮田理事長もチェロで参加
ラオス、カムアン県にて大学院生の指導にあたるラオス、カムアン県にて大学院生の指導にあたる
ラオス、オープンエア・クリニックでの指導風景ラオス、オープンエア・クリニックでの指導風景

歯周病は、単に歯を失うだけでなく、全身の健康に影響を及ぼしていると言われている。
「私たちが活動を始めた1992年当時、カンボジア人の平均寿命は54歳ぐらいでした。それが2014年になると68歳くらいまで伸びています。死因としては脳血管障害など、突然死が多いことが指摘されています。そこで現地の内科医と連携して、カンボジア全土を回り、約2700人を対象に、歯周病と心疾患の相関関係について疫学調査をおこないました。その結果、歯周病が悪化した人ほど、明らかに心疾患の異常が見られたのです」と、教育活動と並行して、調査研究、啓発活動についても力を入れてきたと話す。

ちなみに、宮田理事長が歯科医師として診療に当たる際は、患者さん一人ひとりに応じたオーダーメイドの治療を心がけているという。
「症状が違うだけでなく、患者さんの体質や生活習慣、環境も違うし、バックグラウンドはさまざまです。それを把握したうえで、治療計画を立てていくことが大事です。歯周病は、細菌感染が原因といわれますが、直接的な原因は免疫機能の破綻が最初にある。免疫力を高め、全身の健康状態を改善していくことが欠かせません」

現在は、歯科開業医の傍ら、現地に派遣したスタッフの後方支援が主な役割だという。
「外務省の委託を受けたラオスでの活動がまだ2年残っています。ラオスは歯科看護師という制度が東南アジアでは唯一ない国です。そこで一から歯科看護師を育てるには、時間もお金もかかるため、既存の看護師に歯科口腔教育をおこなうプロジェクトを4年前に立ち上げました。北部地域で成果を上げたことが高い評価を得て、現在はラオス南部のカムアン県でも実施しています」と現在の活動状況を語る。

人を育てるには非常に長い時間がかかる。海外での活動となると、まず信頼関係を構築するだけでも数年が必要となることから、「私に残された時間を考えれば、新たに活動拠点を広げるよりも、これまでに関係を構築できた地域で、持続可能な支援活動をさらに深めていこうと考えています」と、力強く抱負を語ってくれた。

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